さて、朝食の用意である。
彼は手早く割烹着を着こむと、朝食の用意を始めた。
この神社の家主であり、博麗神社の巫女でもある、博麗霊夢が和食派から、基本的に彼が作る献立は
和食だ。といっても、それほどレパートリーが無いので、それほど凝ったものは作れないのだが。
まずは釜戸に火を入れることから始めなくてはならない。彼はせっせと釜戸に空気を送り込みつつ、
ふつふつと噴き出し始めた蓋に笑みを浮かべつつ、次に魚を焼こうと彼は能力を発動させる。
瞬きするよりも早く、一瞬で彼の手には、脂の乗ったアジが二匹もがいていた。ぴちりぴちりと跳ねる
アジに四苦八苦しつつ、彼は落ち着いて魚の頭を落とした。
それを火鉢に載せた網の上に載せて、軽く塩を振る。朝なので、これで十分。
ふと、彼は気配を感じて、振り返った。
「よう、朝から精が出るわね」
そこに居たのは、家主の親友である、霧雨魔理沙という名の少女であった。健康的な白い肌とは裏腹の
つばの広いとんがり黒帽子に、黒い服に黒いスカート、おまけの黒い靴。黄金を塗り固めたかのような金髪という、
協調性をどこかへ捨て去ったかのような出で立ちの少女は、彼の目から見ても可愛いと思える顔立ちを笑みに変えた。
その笑みを見た瞬間、彼は
魔理沙が口を開くよりも前に能力を行使し、三匹目のアジを網に乗せた。
「お、気がきくじゃないか」
どうせ断ったところで、最終的には彼の魚が彼女の腹に収まるだけである。それが分かっている彼は、無言のまま
団扇を取り出すと、魔理沙へ差し出した。
「はいはい、分かっているよ。それぐらいやりますよ」
魔理沙は団扇を受け取ると、帽子を適当な場所に置いて、火鉢の前に置かれた椅子に腰を下ろした。
彼はため息を履いて、炊事の続きを始めようと魔理沙に背を向けようとして……彼女に抱きつかれて、それが出来なかった。
おっと。
そう呟いた彼を尻目に、魔理沙は彼の腰に腕を回し、ぎゅうっと力を込める。位置が位置なので、自然と彼の腰が引けるが、
それを先回りしていた魔理沙は、逃さないと言わんばかりに鼻先を擦りつけた。
はあ、はあ、と、下腹部に感じる少女の吐息。布越しとはいえ、男の象徴に感じる少女の吐息に、彼の身体も自然と止まる。
普段から綺麗好きである彼とはいえ、一晩経ったそこは特有の臭いが籠っているだろう。お世辞にもいい匂いとは思えないそれを、
魔理沙は堪らないと言わんばかりに鼻をクンクンと鼻を鳴らし続けている。
(……う~ん……魔理沙も霊夢もそうだが、どうして彼女達はこんなとこに顔を埋めたがるのだろうか?)
答えなど、問えない。以前、聞いた話では、魔理沙は親元から飛び出して一人暮らしをしているらしく、霊夢に至っては、親は居ないらしい。
おそらく、父親というものに飢えているのだろう。そう結論付けている彼は、二人がこうしているときは、黙ってされるがままになるようにしている。
(そういえば、
アリスも
パチュリーも妖夢も、よくこうやって抱きついてくるッけ)
とりあえず、魚が焦げる前に引きはがそう。そう思った彼は、一つ、欠伸をした。