今日も
レティさんと遊びにいこう。
冬になるとひょっこり現れる妖怪だ。
いつもの遊び場で偶然出会って一緒に遊ぶようになったのがきっかけだ。
決まって
チルノが一番に走り出す。
その後に手袋がちぎれるくらいに腕をブンブンとはしゃぐ
ルーミア、
コートに身を包んでいる寒がりの
リグル、そして私が続く。
そして、ビリはいつも・・・
「おーい、○○ーッ!何ぼさっとしてんのッ!」
道を振り返るとぱs…荷物持ちの○○が息絶えだえになっていた。
「チルノ~、だったら少しは何か持ってよ~」
あのでかいリュックしょったのが○○。
チルノが紹介して以来仲良しになった人間だ。
ただルーミアに腹の足しにならないと言わしめるほどの弱っちいやつだ。
私たちの目的地はちょっと坂を上ったさきの誰もいない廃神社だ。
そこにはレティさんが待っていて、よく一緒に遊んでいる。
ほら、扉前の階段に腰掛けている白い防寒着のお姉さんがレティさんだ。
「今日も遊びに来たのだ~」
「こんにちはみんな。」
「レティ~ッ!」
チルノが元気よく駆け寄っていく。
そして飛び込んでくるのをレティさんが受け止め頭を軽く撫でる。
今日はどこか表情が暗いような・・・
「どうしたの、レティさん?」
気がついたのかリグルが顔を窺う。
「えと、その・・・あれ、○○は?」
はぁ、とため息をつく。
「まったく、○○はもうッ!」
結局は今日も○○をそこで待つ羽目になった。
「みんな、お待たせ。」
やっと○○が到着。
数十分くらい待たされた感じがしないでもない。
「遅いよ、○○ッ!」
「○○罰金1万円~ッ!」
チルノもルーミアも痺れを切らしていたようだ。
「だってさあ、みんなどんどん先行っちゃうどよぉ
荷物持たされるこっちの身にもなってよ。」
息荒くも○○はリュックを下ろす。
「少しは力つけなよ、待ちくたびれたよ。」
「そうそう、情けないったらありゃしないわよッ!」
リグルと同じタイミングでやれやれと。
そんな感じで4人で○○とお取り込みのなか、
「まあまあ、それよりみんな。何して遊ぶ?」
レティさんがとめに入って切り替えるのもお決まり。
「そうだね、○○早くッ!」
「はいはい。」
チルノにせかされながらも
○○はリュックを下ろしてがさがさと手を突っ込む。
中身は遊ぶ道具とか色々。
「チルノ~、今日は何して遊ぶの~?」
「えっと、そうだね~。」
何して遊ぶのかはチルノが決めている。
その横でレティさんは寂しそうに笑っていた。
今日も充実した日だった。
でも今日のレティさんはどっかぼおっとしてたような。
「ふう、面白かった~ッ!」
「特に○○の罰ゲームが笑えたよね~。」
「ほ、放っといてよ、みすちー。」
まあ、明日もこんな日が続けばって家に帰るんだ。
「ええ、楽しかったわ・・・」
俯いていてよく表情がみえない。
なんだか今日のレティさんは変だな。
「レティさん、どうしたの?」
リグルも心配そうに見つめている。
何か気になる。どうしたんだろう。
「あ、あのね・・・」
言うのをためらっているもんだからせかしたくなる。
ぐっと抑えて次の句を待つ。
「みんな、私・・・もうすぐ冬が終わるから
明日帰るの・・・」
背中に氷が伝っていくような、
その言葉の意味を理解するのに数秒かかり、
そして第一声が慟哭―――
「「「「「えええぇーーーーーーーーッ!!?」」」」」
「か、帰っちゃうのかーッ!?」
「嘘だよねッ!ねえ、嘘だよねッ!」
ルーミアもリグルも戸惑いを隠せない。
チルノと○○はもう何も言えなかった。
それくらい私たちにはショックだった。
「あ、えと・・・みんなッ!別に一生の別れってわけじゃないのよッ!」
凍った空気をレティさんはなんとか取り繕おうとした。
「また来年の冬に来るから、ね?
だからお願いだから来年まで待ってく」
「・・・せない・・・」
必死の弁明をチルノは遮った。
「え?あ、あの・・・その・・・ごめんね、黙ってて・・・」
「行かせない・・・ずっと一緒って約束したのに・・・」
レティさんは言葉に詰まった。
「私、ずるいよね・・・こんなの、卑怯だよね・・・」
チルノは涙をぐっと堪えていた。
「○○も何とか言ってよ・・・ねえ、このままレティさんが行っちゃってもいいの?」
どれだけリグルに肩を揺さぶられても
「あなたもなんか言ってよッ!離れ離れになっちゃうじゃないッ!」
私に怒鳴りつけられても○○は押し黙っていた。
「なんとかならないのかー・・・」
こんな凍った空気を変えたのは更に凍りつく言葉だった。
チルノは何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ、明日までこの小屋に閉じ込めちゃえば、レティ、きっとどこにも行けないよ」
それは歪んだ笑顔だった。
レティさんはその言葉と表情を理解して震え上がり思わず後ずさった。
そのときの私は愚かにも名案だと思ってしまった。
多分、リグルもルーミアも同じことを考えていたのだろう。
私達は目と目を合わせ、小さく頷いた。
後ろで○○は視線を私達にキョロキョロと移しての繰り返しだった。
最後まで呆然としている○○を放っといてレティさんを取り囲んだ。
「ルーミア、扉を開けて来てッ!」
「・・・」
意を決したルーミアは扉のほうへ駆けて行った。
私達はルーミアの手引き通りにレティさんを小屋に押し込んで、
そして扉を閉じて
カチャッ!
鍵をかけた―――
私は数段の階段を下り、振り返った。
「チルノッ!みんな、出してッ!」
ドンドンとたたく音がこちらに響く。
扉にはお札が一枚貼られている。
これで明日まではあのままだろう。
チルノは一瞥もなかった。
トントンッ!カチャガチャッ!
「ねえ、リグルッ!
ミスティアも、お願いだから・・・」
「レティさん・・・」
つい私の口から漏れた哀れみ。
俯き押し黙りながら一歩一歩離れていくリグル。
「ルーミア、返事してッ!」
ドンドンドンドンッ!
振り返っては前に視線を戻すルーミア。
「助けて、○○ッ!」
○○はびくっと身震いした。涙ぐんだ目は扉を捉えていた。
そして私達に視線を戻し、強張った唇を動かした。
「みんな・・・レティさんを行かせてあげようよ・・・」
鍵を無造作にポケットにしまおうとするチルノの手を塞いだ。
「チルノ、頼むからさ」
チルノは乱暴に○○の手を振りほどき通り過ぎていった。
○○は掴んだ手でチルノの影を掴んで、手からすり抜けていった。
「・・・」
私達も後に続いた。
「行こうよ、○○・・・」
ルーミアに急かされ観念した○○はしばらく小屋を見つめ、
リュックを引っさげて私達の背中を追いかけた。
「○○、遅いッ!」
不意に響く少女の怒鳴り声。
「はあはあ、待ってよーッ!」
それに続く少年の木霊。
いつもあの小屋の前ではしゃいで喧嘩して泣いて笑って、
そして寄り添って昼寝して。二人の寝顔が可愛かった。
そんな仲良しの一日のひとつで私はチルノと○○と出会った。
おてんばチルノに引っ込み思案な○○。
思えばそんな真逆な二人だからこそ惹きつけ合うのかもしれない。
そんな昔に浸っていた―――
ベリッと紙がはがれる音がした。
扉の向こうからカチャカチャと何かをいじる音がする。
「誰ッ!?」
扉に寄りかかる。明らかにそこにいる誰かに問う、すると。
「レティさんッ!」
この掠れたような高い声に聞き覚えがあるそれは・・・
「その声は○○ッ!?」
もしかしてとある期待に胸を膨らませた。
「うん僕だよ、今あけるからね。」
やっぱり助けに来てくれたッ!
「助けてくれるの?」
「ああ、チルノが鍵持ってるけどこのくらいなら針金で・・・」
このまま冬までここで過ごすんじゃないかと思った。
「やっぱりレティさんは帰らなきゃいけないんだ。
また来年会えるなら泣いても送り出せるよ・・・」
向こうで○○が鍵を開けようと錠前をいじっている。
「分かってくれるの?いい子ね、○○・・・」
「て、照れるよ・・・。
それより早くしないと・・・」
○○が駆けつけてから数分くらいか。
まだ施錠を解く音は止まない。
「まだなの?」
鍵をいじる音がはやくなる。○○も焦ってるんだろう。
「待ってて、もう少しで・・・」
ぴたっと錠前の音が止んだ。
「○○・・・」
竜宮の使いじゃなくても分かる。
向こうから冷たいような空気を感じる。
「チルノッ!?」
間が悪いことにチルノが来てしまったようだ。
「やっぱり」
「い、いやあの・・・その・・・」
「どうして、あけようとするの・・・」
「それは・・・もういいだろう・・・こんなことして、
一番苦しむのはレティさんなんだ。僕達の我侭で
苦しめたくない、だから・・・」
「うるさい」
遮られた。○○の口がぴたりと止まる。
「好きだったのに・・・レティだけじゃなくあんたまで・・・」
一つずつみしっと音が微かに軋む。
「ずっと一緒にいようよ、ねえ」
「やだッ!それでも帰すんだよッ!」
いつも大人しい○○が声を荒げた。
でもそれ以上にチルノが退いたような感じがない。
壁越しに心臓がバクバクいってる。
「じゃあ、こうしよう」
「待て、まってくれチルノッ!やめ、あああああああ!」
急にひんやりとした気配が漂う。これは・・・ッ!?
「だったら・・・・一緒に・・・・・」
「は・・せ・・・なせ・・・・あ・・・・」
「くっ、開かない・・・。○○、返事してッ!○○ッ!○○ッ!」
扉を乱暴に叩く。痛みにも似た冷たさの感覚が手を突く。
「・・・・・・・・・・・・」
でも構っていられない。○○に何かあったら・・・
「ねえ、返事してよッ!○○ッ!○○・・・」
扉を引っかきへたり込む。
悪い予感が・・・・当たらないでほしい・・・
なぜか・・・視界が・・・ぼやけて・・・
「レティも・・○○も・・・・・」
378 名前:○○[sage] 投稿日:2011/04/14(木) 01:16:56 ID:mcQZ6GkE [2/2]
続き
レティさんが助け出された。
その前日、私のやったことが恐くなり里の慧音先生に打ち明けた。
一部始終を聞いた先生は私達を集めてに頭突き制裁を喰らわした。
そしてチルノと○○がいないことに気づき、先生の友人や里の人間に二人を探させ、
私達に助けに行こうと言っていつもの場所まで案内させた。
嫌な予感がする、近づく毎に不安が胸の中で大きくなっていくなか、
道を急ぐ。
いつもの小屋から悪寒が漂う。
そこで見たものは
扉の前で氷漬けになっていた○○だった―――
立ち竦む私達をよそに先生は他の誰かの気配に気づき、
薄そうな壁に一言二言存在の確認の声をかけた後
弾幕で無理やり入り口を作り上げた。
恐る恐る先生の後に続き中に入る。
色を失いかたまったような両手で体を抱きしめ
震えているレティさんがいた。
明らかに何か恐ろしいことがあったッ!もう冷静でいられなくなった。
半ばパニックでレティさんに詰め寄る私達を押しのけ
先生は何があったのか尋ねた。
話を聞けば、○○はチルノに出くわし外で何か○○の安否が途絶えたことが
起こったとのことだ。
その後自分が冬の妖怪であるはずなのに、外の気配から凍てつき始め
意識もはっきりしなくなったと。
恐らくチルノがやったんだ、でもすぐにこれを受け入れ難かった。
私達三人は近くにいるんじゃないかと思い、チルノを探した。
いなかった。
私達は涙に濡れ、震え、喚いた。
けれどあの○○を覆っている氷に目がつく。
違和感に答えが出せない、それでも感じる。
悲愴で寂しくて恐くて懐かしい感覚が。
先生はレティさんを抱え、
永遠亭に連れて行き友人にここに来るよう伝えると言い、
この場を立ち去った。
その日から数日後―――
レティさんは帰っていった、誰にも別れの言葉もなく。
もう探すわけにも見送るわけにも行かない。
今日は少しばかりの花を片手に永遠亭に入る。
イナバに一言用事を伝え、その部屋へ。
すでにルーミアが来ていた。その横の席に失礼する。
ベッドには頬を赤く茹だたせたリグルがうなされていた。
原因は言わずとも分かる。
あの時のショックと深い罪悪感、その二つが彼女を苦しめている。
ルーミアは横に垂れている手を握り締め押し黙っている。
「・・・また・・・遊んでよ・・・う・・・ひぐッ!」
私の手の中の花が捻じ曲がった。
今でもチルノが見つかっていない。
いや、もしやどこにもいないといったほうが正しいのだろうか・・・。
当然こんな状態で残った二人で遊ぶわけがない。
以来私達はバラバラになり、心に大きな穴が広がった。
私はルーミアに一声かけ立ち去った。
帰りの廊下、その途中の一室に入る。
氷漬けの○○が出迎えた。
春を迎えても解けない氷の中で○○はあの日と変わらない。
先生の友人が何度火を放っても、どんな弾幕でも氷は砕けなかった。
どうしようもできないまま、○○をみんなで永遠亭まで運んだ。
そんな悲劇をよそに○○は眠っている。
花を添え、
私はいつかのチルノと寄り添って昼寝していた彼を思い浮かべた。
こんな安らかで気持ちよさそうな顔をして。
もう私には何が見えているのか分からない。
けど目の前の氷が語りかけてくるそれにより感じる。
○○は冬の向こうに取り残されてしまった―――
最終更新:2011年04月24日 22:39