○○。
 私が好きな人の名前だ。
 ○○と一緒に居たい、ずっと側に居たい。
 しかし、それは叶わない願いである。

 ○○は文と付き合っているのだ。
 ただ付き合っているだけなら、私にもチャンスは巡ってきたのかもしれない。
 でも、もうそんな問題ではなくなっているのだ。

 文と○○は、既に婚約の準備を進めている。
 私が入れる隙間など、とうに無いのだ。
 だから二人を祝福する。
 文は今では親友と呼べる仲だし、○○は密かに想っていた人だ。
 不幸を望むはずがない。


 ――不幸など、望むはずがなかった。




「文、居ないの?」


 今の時間なら居るだろう。
 そう思って来たが、反応がない。
 昼寝でもしているのかと思い、私は文の部屋に入る。

 部屋に立ち入ったが、そこには人影も何もなかった。
 どうやら何処かへ出かけているらしい。
 十中八九、○○のところへ行っているのだろう。


「あれ? これは……アルバム?」


 布団の上に、アルバムらしき本が置かれている。
 新聞のネタかと思い開いてみると、見てはいけないものが見えてしまった。
 ○○のあられもない姿ばかりが、このアルバムに収まってる。


「うわ、こんなことしてるんだ……私もこうなれたら良かったのに」


 次第に文の部屋であることを忘れて、次々とページを捲って行く。
 半分ほど捲ったところで、このアルバムがおかしい物だと感じてくる。
 そんなことはないはずと信じ、残りの半分も捲ってみたが……


「嘘……何、これ」


 これはアルバムのはずだ。
 アルバムのはずなのだ。
 なのに――○○の姿しか写っていない。
 
 そればかりか、○○のあられもない姿の写真しかないのだ。
 嘘だと思いたかったが、これは真実なのだろう。

 文は本当に○○のことを、愛しているのか?
 単に性欲の対象となっているばかりか
 性処理の道具としてしか見てないのではないか?

 このアルバムを見ていると、そんな答えに辿り着いて行く。
 文に限ってそんなことはないとも思ったが、思い当たる節もある。
 果たして文と居て、○○は幸せになれるのだろうか?
 きっとなれないだろう。

 これは許されざることだ。
 祝福しようとしていた私が、まるで馬鹿に見えてくる。
 何とか文と○○を、引き離さなければならないだろう。

 しかし○○に言っても、普通に考えれば信じないだろう。
 ならば信憑性を持たせる必要がある。
 信憑性を持たせるには――




「文!」
「どうしたんですか? そんなに慌てて」


 俺は今、非常に信じ難いものに直面している。
 山の中に、俺の写真がばら撒かれたそうなのだ。
 しかも、言うには非常に恥ずかしいようなものをだ。

 撮れた可能性があるのは、文だけである。
 それが何故か、山の者たちに大量にばら撒かれている。


「これは、どういうことなんだ?」
「あ、それは……!」
「知ってるんだな?」


 信じたくはなかった。
 文のこの反応を見る限り、これは文が撮った物だろう。
 そしてばら撒いたのも文だろう。


「どうしてこんなことを?」
「○○との記念が欲しくて……つい」


 つい? ついばら撒いてしまったというのだろうか。
 それだけで堪忍袋の尾が切れる。
 こんな奴と、俺は結婚しようとしていたのだ。


「つい、だと?
 ふざけるなッ! そんな理由でばら撒いているのかッ!」
「ば、ばら撒いて?」
「知らないとは言わせないぞ……
 お前が! お前が写真を山の中にばら撒いてるんだろう!?」


 この上に知らないフリ。
 こんな事態が起こって、ある意味運が良かった。
 こんな奴と結婚したら、いくらなんでも身が持たない。
 自身の楽しみしか考えていない……そんなやつとは一緒に居られない。


「ち、ちが……違う……」
「違うわけがないだろう!?
 こんな写真を撮れたのは、お前しか居ないんだから!」


 こいつとはもう同じ空気を吸いたくない。
 この期に及んでも言い訳をするとは、とことん見下げ果てた根性だ。


「違う、待って! 話を聞いて!」


 話を聞いてというが、如何してそんなことが出来ようか。
 そのまま喚き散らす文を尻目に、俺は山を立ち去った。




「○○」
「はたてか……こんにちは」
「こんにちは」


 私は○○の痴態が写っている写真を、あのあと山にばら撒いた。
 ○○が傷付くだろうとは思っていたが、文の酷さは理解したはずである。


「あの、○○……これ」


 そう言って私は、回収した写真を渡した。
 我ながら非常に浅ましい姿だ。
 文を傷付け○○を傷付け、最後には良い顔をして○○に近付く。


「これは」
「多分、撒かれてたのはこれで全部だと思う……」


 本当に全てかはわからない。
 だが、回収をすることで○○の心は幾らか落ち着くはずだ。
 自分で傷付けたくせに何をとも思うが、これで良いはず。
 文の泣いている姿を思い出す度に胸が痛むが、これで良かったのだ。


「そっか……回収してくれたんだな。
 ありがとう、はたて」
「ううん……気にしないで。
 文が迷惑かけちゃったから、同じ烏天狗として責任があるもの」


 最低だ、狂ってる。
 自分をひたすらよく見せようと、文をこき下ろしている。
 私はもう、病んでるのかもしれない。


「○○!」
「うん?」
「また、来るね」
「あぁ、歓迎するよ」


 ○○に歓迎すると言われて、幾らか救われた気持ちになる気がする。
 本当にこれで良かったのだろうか?
 私は文を蹴落としてまで、○○のことが欲しかったのだろうか?

 もう、過ぎたことだ。
 せめて○○の傷を癒せるように、私が側にいよう。
 私が○○のことを守ろう。




終わり。










後書き!

いやあ、ヤンデレというかNTRに近いような気もしますが気のせいでしょう。
ヤンデレと宣言したらこれはヤンデレなんです、間違いありません。
病みを表現しようとすると自分まで病んできたような気がしますが、これもまぁ気のせいでしょう。

プロットを頂けた>>359さん、ありがとう!

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最終更新:2011年05月06日 01:32