「うおおおおおお!」
俺は〇〇。里に住んでいる元外来人で、只今全力疾走中。
何故かと言うと…
「待てええええええ!」
尋常ではない目をして手錠を持った里娘に追われているからだっ!


そもそも、どうしてこうなったのかもよく分からない。
ただ、仕事も休みなのだから、と里の中をぶらぶらしていた、
それだけだったのだが、突然手錠を持った彼女が現れ、
嫌な予感がした為に逃げ出し、今に至る、という訳だ。
彼女が言うには、俺の事を愛していて、何時までも一緒にいたいそうだが、
生憎俺にそんな気はない。
確かに彼女といくらか会ったり、話したりはしたが、
だからと言って関係を持ちたいとは思わなかったし、
そこまで恋心を抱かれるような事はしていない、はずだ。
しかも、それに加えて、
何故か里の人達は全員見て見ぬ振りをしているのだ。
「何故だぁぁぁ!」
「いい加減諦めて、大人しくなさい、〇〇!」
「諦めてたまるかぁぁぁ!」



「ゼェ、ゼェ…」
何とか彼女を撒く事は出来た。
しかし、里の中ではいつかは見つかってしまう。
「何処か、何処かいい隠れ場所は…」


「そーなのかー。それで此処に来たの?」
「ああ、そうなんだ。出来れば暫くの間匿って欲しいんだが…」
「ふーん…いいわよ。その代わり…」
「その代わり?」
「何か食べ物ちょうだい。」
おっと、紹介が遅れた。
今俺と喋っているこの少女はルーミア。
俺がこの幻想郷に迷い込んだ時、初めて会った人物だ。
お腹を空かしていたので、持っていた食べ物を渡した所、
なんだか仲良くなった。
何でも、食べ物をくれた人は初めてだったとか。
さっき、匿ってもらうお礼をするために、
家に寄って色々と食べ物を持ってきた。
森にある彼女の家なら、あの里娘から隠れられる。
…しかし、たまに思うんだが、
妖怪も出る森に女の子一人って…大丈夫なのか?
「ちょっと、聞いてるの?」
「ああ、悪い悪い。ほら、これぐらいでいいか?」
「わーい!」
それにしても、彼女の食べ物への執念は凄まじい。
この前も、俺があげた食べ物を妖精に取られて、
かなり怒ってたしな。
「じゃあ、〇〇…」
「ん?」
「これから暫く、よろしくね?」
彼女は満面の笑顔でそう言った。
やはり、暫く食べ物が貰える事が嬉しいんだろう。
「…ああ、よろしく!」





〇〇が私の所に来た。
しかも暫く泊まっていく。
嬉しくてついにやけ顔になってしまう。
勿論、〇〇には見られないようにしているけど。
最初に彼と出逢ったのは森の中。
あの時、私はとてもお腹が空いていて、
〇〇を食糧としてしか見ていなかった。
けど、〇〇はそんな私に食べ物をくれた。
その時の事は今でもしっかり覚えている。


「う~…お腹空いた~…」
「ん?君は…?」
「!(やった、人間だ!)」
「お腹が空いているのかな?なら、…えーと…あ、あった。これを食べるといい。」
「…これは?」
「チョコレート。食べる?」
「…食べる。」


これが〇〇との出逢い。
始めの頃は、食べ物をくれるから仲良くしてた。
けれど、一緒に遊んだり、食べ物を食べたりしてる内に、
いつの間にか〇〇を愛するようになっていた。
ちなみに、それに気付いたきっかけは、妖精に〇〇から貰った食べ物を取られた事。
私はその時、かなり怒ったけど、
それが「〇〇から貰った」食べ物が取られたからという事に、
少ししてから気づいて、
それで暫く考えて、
リグルやミスティアに相談して、〇〇を愛している事に気付いた。
告白しようとも思ったけれど、拒絶されたら、と思うと、怖い。
だから、今はまだ様子見。
ただ、一緒にいる為の努力はいつもしている。
その為に、〇〇に、私が妖怪であることがバレないようにしている。
人間を食べる事も止めた。

けれど、〇〇はあまり私の所に来てくれない。
何でも、仕事があるかららしい。
でも、私は〇〇とずっと一緒にいたい。
〇〇をどこかに閉じ込めてしまう事も考えたけれど、
それでは〇〇は一緒にいたいとは思ってくれないだろう。

だから、〇〇と一緒にいるために、あの里娘を利用した。
元々あの女は〇〇に好意を持っていた。
そこで、あの女の心の闇を少し操って、〇〇を襲わせた。
ついでに、里の人間達の心の闇も少し操って、
あの女と〇〇に対して無関心にさせた。
結果は大成功、〇〇は自分の意志で此処に来て、私と一緒にいてくれる。
あの女は今頃自分がしたことを悔やんでいるだろう。
けど、それでいい。
私から〇〇を盗ろうとしていたのだから、
これぐらいの罰は受けてもらわないと。


あ、〇〇が呼んでる。
行かないと。


「ルーミア、夕飯は何が食べたい?」
「えーと…美味しいもの!」
「なら、色々と作るか。食べ物はあるし。…そうだ、ルーミアも料理してみるか?きっと楽しいぞ。」
「…うん!」
最終更新:2011年05月06日 01:42