子供の頃、この幻想郷に流れ着いて早十年○○は立派な青年に成長していた。
今の自分があるのはほかならぬお師匠様のお陰だと○○は常日頃から思っている。
片腕有角の仙人、茨華仙こと本名、茨木華扇―――
当時か弱い少年だった○○妖怪の手から助けてくれた命の恩人であり、
右も左も分からなかった彼を弟子として引き取り今日まで育ててくれた偉大な師匠でもある。
そんな彼女に○○はものすごい恩義を感じており、
早く一人前になって師匠に恩返しがしたいと日々精進をかさねていた。
そして華扇も初めての弟子ということもありそんな○○を非常に溺愛していた。
しかし○○も年頃の青年である。
代わり映えのしない修行の日々に少し物足りなさを覚えていた。
そんなことを思っていた時期である。
師匠がよく道場をあけるようになったのは。
なんでも博麗神社という場所に行っているらしい。
「これはチャンスだ。」と思い師匠の外出パターンを調べた彼は
人生初のサボタージュを決行するのだった。
○○はまず”人里”という場所い行ってみようと思った。
驚くべきことに彼は幻想郷に来て十数余年、一度も人里へ行ったことが無かった。
前々から興味は持っていたのだが華扇曰く
「今の幻想郷は自堕落で救いようの無い者たちであふれ返っているのだ、
純粋なお前につけこんで騙そうとする輩ばかりなのだぞ。」
の一点張りでそもそも外出さえ許して貰えなかった。
今は外に出る絶好のチャンスである。
動物達に留守を任せ○○は人里へ向かったのだった。
人里での体験は○○にとって全てが新鮮なものだった。
食べたことの無い食べ物や見たことも無い書物や道具、面白い娯楽の数々
何より異性との交流というのは今まで修行一筋の彼にとってはとても魅力的だった。
―――――そう、だから仕方無いことだったのだ。
彼が時間を忘れて遊んでしまったのは。
私、茨木華扇にはかわいい弟子がいる。
子供の頃より私が育て上げた自慢の弟子だ。
○○は素直で賢くて私の言うことなら何でも聞く本当に良い子に成長した。
しかし、心配もある。
あの子は純粋すぎるのだ。
前に「外に行ってみたい」と言っていたが、そんなことは言語道断だ。
キレイな○○が外に放り出されてみろ。
欲深い人妖になにをされるか分かったものじゃない。
何よりあの子は師匠の私から見てもなかなかの美丈夫だ、
里の女どもがだまっていないだろう。
誰とも知れない女と○○が一緒にいる。
想像するだけで鳥肌が立つ。
そうだ、そんなことが起こらないように○○は私が大事に守らなければならない。
だから私はまずあの子に一切の外出を禁じた。
今も一人道場で修業に励んでいる頃だろう。
それにしても今日は少し遅くなりすぎたな、
あの子に少し申し訳ない。
「そうだ、なにか土産でも買って帰ろうか。○○も最近がんばっている様だしな。」
そんなことを考えていた時、
「ねぇ、お兄さぁん。今日はもう遅いんだし、ウチに泊まっていきなさいよぉ。」
「そんな、悪いよ。」
「遠慮しなくていいわよぅ。こんな時間だと妖怪だってでてくるし、
朝までいるだけだから、ねぇ?」
といった会話が聞こえてくる。
恐らく風俗の客引きだろう。
望んで聞いた訳ではないが、そんな俗な会話に華扇は無意識の嫌悪感を抱いていた。
「不愉快だ早く帰ろう」とこの場立ち去ろうとした時である。
「いや、ダメだよ。早く帰らないと”お師匠様”が・・・。」
華扇は動きを停めた。
・・・・・今なんと言った?
あの声、間違えようはずも無い。
そういつも聞きなれた声で確かに”お師匠様”と
「○○」
気がつけば体が前に出ていた。
「お師匠様・・・・・。」
驚きと焦り、申し訳なさなどが入り乱れた感情で○○の複雑な表情になる。
「○○お前はこんな時間にこんな場所でなにをやっているんだ?
今は道場で修業している時間じゃないのか。道場の方はどうなっているんだ。
今朝いったよな、留守は任せるって。
いや、そんなことよりその女は誰なんだ?友達か?違うよな。
山から一歩も降りた事の無いお前に人間の友人がいるはずないよな。
それも女といえばなお更だ。
○○お前は騙されているんだ。この女どう見て売女じゃないか。
うまい口でお前を騙して純潔を奪い取ろうとしてるんだ。
そうだ帰ろう○○こんな所にいてはキレイなお前が汚されてしまう。
さぁ、速く。」
そう言うと華扇は○○の腕を掴む。
腕が握りつぶされるかと思うほどの力で引かれながら二人は人里を後にした。
帰宅した○○はただただ怖かった。
修行をサボっていた所を見つかってしまったのだ。
こっぴどく叱られることは覚悟していた。
だがあの師匠の反応は今までで初めてだった。
叱られる怖さとはまた違った異質な者。
初めての恐怖感とこれからどんな罰が待っているのだろうと考えると
○○は今日の行いを本当に後悔した。
「○○」
「ヒィ!!」
いきなりの師匠の呼びかけに○○は思わず声を上げて驚いた。
取り合えず謝らなければ。
○○は頭を地面に押し当て必死に謝罪した。
「申し訳ありません、お師匠様。いかなる処分も受ける覚悟です。
ですからどうかお許しください。」
しばしの沈黙が場を流れ華扇が口を開く。
「今日のことは気にするな○○。私も悪かったのだ。
年頃のお前にこの道場はさぞ退屈だったろうにな。
さぁ、顔を上げてほしい。」
言われたとうりに顔をあげ師匠の顔をみる。
しかし、その慈母のような口調とは裏腹に表情はまったくの無表情だった。
目に光がなくどこを見つめているでもない虚ろな瞳。
その表情に○○は一層恐怖する。
そう思った瞬間、いきなり華扇に押し倒される。
「!?、お師匠様?」
押し倒した○○の顔を華扇が覗き込む
「あぁ・・。○○、お前は本当にキレイだなぁ。穢れを知らない赤子のようだ。
そうだ、○○私が悪いのだ、口では大事だと言っておきながらお前を一人にして、
ちゃんと見張って置かなかった私が・・。
一人で寂しかっただろう。退屈だっただろう。本当にすまないな。」
そう言うと彼女はいきなり○○の首筋を舌で舐めはじめた。
「!?お師匠様!!何を!!」
いきなりの師匠の行動にひどく狼狽する。
もがいて抜け出そうにも万力の様な力で抱きつかれ抜け出せない。
「何ってキレイにしているんじゃないか。あんな汚い女に触れたんだぞ。
このままではお前が腐ってしまう、だからこうやって穢れを取っているんじゃないか。
コラ、暴れるんじゃない、まだこれから全身をキレイにしないといけないんだぞ。」
明らかに常軌を逸した師匠の行動
この時○○は悟る自分は恐らくこの人からもう二度と離れることはできないだろうと。
「心配するな○○これからはずっと私が一緒にいてやる。
仙人になってお前が不老不死になってもずっと私が面倒を見てやる。
そう、永遠に、な。」
最終更新:2017年04月08日 05:02