○○は私の手の中に無い、
あいつが殺すなって言ったら殺てはいけない。
生かすなって言ったら生かしておいてはいけない。
あんな奴、何も良い所なんか無いのに。
それでも○○があいつを好いていて、
こうして手の中に納められない事が悔しかった。

「見ないでよ」
「……お嬢様から監視するようにと」
そらみた事か、
実妹の事すら信用出来ず、
また見極める事も出来ずに当主などよく名乗れる。
ただ私から○○を奪いたいだけだろうに。
○○にキスをしようとしたら、
咲夜に○○を奪われていた。
「何よ……」
咲夜は眠っている○○を抱えたまま、
目を逸らし申し訳なさそうに佇んでいた。
「血を吸うとでも思った?
 見くびらないでよ!私はお姉様ほど汚くないわ!」
「妹様……!」
汚らわしいってこういう感情か。
もはや憎しみよりも憐憫に近い物が心中に浮かんでいる。
可哀相な○○。
あんな奴の手の上で踊らされて。
私しか助けられる者はいないんだから、
助けなきゃ。



一緒にここを出よう、
「だって私は」
あなたが居ればそれだけで幸せだよ。
「冗談だろう?」
○○は困ったように頭を撫でる。
僕はいつでもフランの側にいるよ、
それにレミリアはそんな悪い子じゃないよ、なんて。
あんな奴の擁護なんて要らない、
実質的に私を495年も閉じ込めた奴、
人間が、人間以外に憐れみなんて持たなくて良いんだよ。


運命なんて物はとても脆い物で、
所詮過去は未来を変える事は出来ない。
壊れてしまった運命は元の歯車を回す事は無いんだ。


○○が不注意から窓のガラスを割ってしまい、
その破片は咲夜の眼を傷付けた。
失明、とまではいかなかったが庶務は回復に支障をきたすという事で入院が決まる。
これで○○は私の物だ。
思い知ったか、
お前の思い描いた運命なんてすぐに崩れるんだ。
私がいない楽園なんて要らない。
そしてお前がいる楽園なんて要らないんだ。


なのに、
「○○、一緒にここを出ようよ。
 なんで私じゃ駄目なの?なんでお姉様なの?」
なんで私を受け入れてくれないの?
「……ごめん、怖いんだ、フランは」
怖い?
「分かるんだよ、端から見てても。
 レミリアに対する悪意とか、敵意とか……
 そういうのが見えるから……」

違う、
怖いのは私だった。
でもなければ○○を押し倒して、
一瞬も置かず四肢を引き裂いたりはしない。
叫び声を上げようと開いた口に噛み付き、
舌を牙で絡め取り、血を啜る。
怖かったら、気を失っても良いよ。
もう逃げられない、逃がさないから。
舌を噛み千切ったのは私だし、
もう幾ら血を失おうとも息絶える事は出来ないよ。
だから、喉に詰まらない様に全部私が飲んであげるね?


ただ口は渇いたまま、
あいつの名を呼んでいた。


呆れた、
どこまで強情なのか、
それともお得意の運命とやらに心を惑わされたか、
未だに私を見ないなんて。
そうかそうか、もう良いよ。
「私があいつになってあげるからね?」
運命なんて幾らでも弄ってあげるよ、
私と○○が添い遂げる運命以外、壊してあげる。
大丈夫、
だってあなたはもう、自分で未来を切り開け無いよ?
「フラン……!」
「あぁ、自分から来てくれたのね、お姉様」
○○が壊れちゃったのがよくわかったね。
自分で運命をいじくってたんだから当然か。
「今日から私が、レミリアだよ」



羽根を毟り取ってすげ替えて、
服は返り血で良い塩梅に赤く染まっていた。
壊れかかったフランを地下室に閉じ込める。
運命を壊して、鍵を壊して、
これで元通り、出てこれない。
吸血鬼化した○○は気を失ったままだけど、
壊れた体は少しづつ治ってきた。
こんな簡単な事になんで私は気付かなかったんだろう。
フランは要らなかったんだ、最初から。
だってどうあっても○○の心はレミリアの所にあったんだから。
私がレミリアになればよかった、それだけの話。

気がつけば、血の臭いを嫌ったか館の中にメイドの姿は無かった。
美鈴を呼んでも出てこない、
あの騒乱がありながら外で寝ているという事はあるまい、
私を見限ってくれたか。


笑いが止まらない、
○○に見られたら怖がられるだろうか?
なにせ、楽園はすぐ傍にあったんだ。
いつでも手に入れる事が出来たのに、私はそれに気付かなかった。
或いは、気付かないのが正しい運命だったのか。
○○の四肢はいつも通りに治っていた。
時を失った窓には暗い霧が立ち込め、
時計の針は乱雑に左右への回転を繰り返している。
願いが叶ってしまった虚しさを噛み締め、
目を醒まさない彼の唇を指で歪める。
「ずっと、一緒だからね」


目を醒ます事のないだろう○○は、
指で口を歪まされながら私を嘲笑していた。

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最終更新:2010年08月27日 00:17