「うらめしやー」
「ひぃ!」
「あはははは! ○○ってば、驚きすぎだよー」

 今日も○○を驚かす。彼の反応が楽しくて、私はいつも会う度にこうしてしまう。
その度に彼は、また私に驚かされたことに気づくと、困ったような笑みを浮かべながら私の頭を撫でてくれるのだ。

 えへへ。

「今日もやられたよ。小傘は驚かすのが上手だな」
「……私が驚かすのが上手いんじゃなくて、○○が」
「言わせはせん! 言わせはせんぞー!」
「わわわわわ」

 頭を強く撫でられた。彼の大きな手が私の髪をくしゃくしゃにする。酷いよ……もう。
私が抗議の眼差しで彼をじっと見つめると、何が面白いのか彼はからからと笑った。

 何でだろう。
○○と一緒にいると胸の奥がぽかぽかする。○○とお話してると気がつけば笑顔になってる。
人間の驚いた顔を見て幸せを感じることはあっても、人間の笑う顔を見て幸せを感じることは今までなかった。
不思議だ。きっと○○は私の大切な友達なのだろう。私の大事な人。
○○が私の大事な人。……えへへ。

  ◇◇◇

 ○○どこかな~?

 今日も○○を探してふわふわお散歩。しばらくして、神社の石段を上っている彼を見かけた。
また今日も彼と会えた……嬉しいな。無意識ににっこりしてしまう顔をどうにか元に戻す。
驚かすのににっこりしてちゃダメだよね。落ち着くために深呼吸した後、私はこっそり後ろから近づいて彼に声をかける。

「ばぁ!」
「うぉ……ッ!」
「えっ……!?」

 落ちていく。石段を彼が人形のように。ごろごろと。
そして下までたどり着いた彼がぐったりと動かなくなって。私はようやく状況を認識した。

「うそ……○○! ○○! ○○!!」

 どうしようどうしようどうしよう!
○○が声をかけても反応してくれない。目も開けてくれない。ぴくりとも動いてくれない。
私のせいだ。私のせいで○○が! な、泣いちゃダメだ。助けなきゃ。今は早く助けないと!

「しっかりして○○! えっと、人間は確かこんな時は……!」
「騒々しいわね……っ! ちょ、ちょっと○○さん! どうしたの!?」

 騒ぎを聞いて駆けつけた巫女が○○の姿を見て驚き戸惑ってる。そうだ。人間の巫女なら!

「私のせいで石段から落ちて怪我しちゃったの! お願い! 助けて!」

  ◇◇◇

 巫女の案内で、私は○○を竹林の薬師の所まで運んだ。
薬師は私の背負った○○を見ると、すぐに状況を察して治療を始めてくれた。
治療が終わり薬師の口から○○が助かったことを聞いた瞬間、私は安堵のあまり泣き出してしまった。

 その後は巫女と薬師から叱られた。私が○○を危うく死なせるかも知れなかった。二人はそう言った。
○○が死ぬ。私のせいで。
もしも、本当にそうなっていたら。それを考えただけで体の震えが止まらなかった。
そうだ。今回は幸運だったのだ。もし巫女が駆けつけてくれなかったら。もし薬師の治療が間に合わなかったら。
私は私の大事な人を……!

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「……○○さんが目を覚ましたら教えるわ。貴女も少し休みなさい」

 無意識のうちに、私は涙を流しながら何度も謝っていた。
薬師がそんな私を見て、気遣わしげに頭を撫でてくれる。
その撫で方があまりに優しくて。その撫で方が少しだけ○○に似てて。
私はますます泣いてしまうのだった。

  ◇◇◇

 翌朝。
私は○○が起きたらなんて謝ろうか悩んでいた。許してもらえなくても謝りたかった。
いつも私に優しくしてくれる○○。その彼が私のせいで酷い目にあったんだ。
怒られちゃっても仕方がないよね。嫌われちゃっても仕方がないよね。
想像するだけで怖いけど、○○が死んじゃうよりずっといい。

 そんな事を考えていると。
○○が目を覚ましたと、兎の耳を生やした女の子が伝えに来てくれた。

 また○○に会える! また○○と話せる!

 ドキドキしながら兎さんと一緒に病室に入ると、ベッドの上で薬師と話していた○○と目があった。
次に気がついた時には、私の体は○○に抱きついていた。……あ、あれ?
慌てて体を離す。私なにしてるんだろう? 彼は驚いた顔で私を見ている。
いけないいけない。まずはちゃんと謝らなきゃ。えっと……。

「○○、ごめ」
「すみません。貴女は僕の知り合いの方ですか……?」

 ……え?


すみません。まだ病みませんでした。続きます。

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最終更新:2011年05月06日 02:14