「ごめん、永琳さん。どうしても、譲れない夢があるんだ」
そう言って彼は永遠亭から、幻想の郷から去っていった。
私はそれから何も手が着かず、ただ、惰性に今までの生活を続けるしかなかった。
もう、何も新しい事を考えられない。
○○、彼が居た頃は何もかもが楽しかった。楽しかったのに。
月都万象展を開いていた度に、彼は目を輝かせて月の品々を見ていた。
『やっぱり月って凄いんですね。憧れちゃいますよ』
私は、彼のそんな顔を見るのが大好きだったのに。
「…………どうして」
調合室の中、私の呟きに答えてくれる人は居なかった。
それから数年後、魔法の森の雑貨屋にて。
外界から流れてきた新聞記事を見ていた主人は、思わぬ顔を見る事になる。
『日米月到達プロジェクトにて不慮の事故発生!? 月面着陸船アメノトリの乗員一名が行方不明。
初の日本人月面到達チーム3名の内最年少の宇宙飛行士、船外活動時に消息不明となった。
○○:○○さん、必死の呼びかけと捜索にも反応無く、生存・生還は絶望視されている』
○○が居なくなってからもう数年が経った。
私は相変わらず惰性で生活を続けている。
何故、あの時力尽くでも彼を引き留めなかったのか。
精神を操る薬だって、外界の事だけを忘却させる施術だって行えたのに。彼を私だけのモノに出来たのに。
後悔だけが募る。悔やみだけが私の心に広がっている。
これから、こんな気持ちを抱いて私は永遠を生きなければいけないのだろうか……。
「し、師匠……あの」
鈴仙が躊躇いがちに声をかけてくる。手には何やら便箋を持っていた。
私が投げ遣りな返答を返すと、おずおずと便箋を私に差し出してくる。
「あの、依姫様からのお手紙です」
珍しい事もあるものだ。
あのスキマ妖怪が二回目の月侵攻を目論んだ際、永遠亭と月の間に僅かな連絡網が出来るようになった。
無論、彼らが輝夜を連れ戻す気があるのであれば話は別だったが、その気は無いと断言されたので定期的に連絡を行っている。
便箋を受け取り鈴仙を下がらせる。依姫の生真面目さは好ましく思うが、こういう時に返信が必要な手紙を送られると些か鬱陶しい。
取り敢えずやけに厳重な封印を解き、手紙を広げて見て私は僅かに驚きを感じた。
「月面で捕獲した地上の民を好いた……? 実に『月の民らしい』依姫がそんな事になるなんて有り得ないわね。でも、冗談なんて言う性格でも無いし」
どうやら本人ですら自分の気持ちに相当な戸惑いと混乱を感じているらしく、普段なら几帳面な文面がかなり乱れていた。
月の民はもちろんの事、絶対的な信頼を置いている姉にすら相談出来ず難儀しているようだ。
この便箋も私のみ開封できるようにしてる辺り、依姫の慌て振りが窺える。
記憶を調整して送り返すのが最善なのは理解出来るが、どうしても帰したくない。どうしたら良いか。と綴られていた。
そして、その者を顔立ち等を映し込んだ手鏡を同封してあると書いてあった。
「……依姫が心奪われた者って一体…………っ!!」
手鏡に映し出された男の顔を見た瞬間、私の時間が静止した。
見間違いなどする筈も無い。些か子供っぽさが抜け精悍さが出た顔付きになっていても間違える筈が無い。
「○、○、○○、○○!! ○○―――!!!!!!!!!!」
私は、何度も彼の顔に向かって叫んだ。両手に篭もった霊力によって、手鏡が粉砕されるまで。
「依姫、依姫!! 依姫ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
一刻後、輝夜の用立てによって師を呼び出しに来た鈴仙が見たものは。
粉々に砕かれた手鏡と、空っぽになり部屋の中央に転がっている師が愛用している弓矢や装具が収納されていた葛籠だけだった。
続く……?
このまま終わらせても良いかなとは思うw
こちらはトゥルーエンド。書いてて鬱になったので超省略。
「依姫、貴女がいけないのよ。月の民なのに、貴女が○○に手を出すから」
「え、永琳様、○○は、○○はどうしたのですかっ!!」
「それを知る権利は依姫、貴女には無いわよ。私だけの○○に近寄る、発情した雌猫にはね。
加えて言えば、依姫、貴女には母親になる権利も無いわ。だってもう、中には誰も居ないから、ね?」
「え、永琳さ、ま、ま、まさか……!!」
お師匠様……いや、あの女は勝ち誇ったように自分の下腹部を愛おしそうに擦ってみせた。
「貴女の血が混ざっているのは心底気にくわないけど○○の子だもの。この世から抹消する程私は非情になれないわ。
だからね、貴女が気を失っている内に摘出して私の中に入れ替えたの。本当なら彼に仕込んで欲しかったけど仕方ないわよねぇ」
「え、い、り、ん、永琳―――――――――!!!!!!」
「良いわ、良いわよ依姫、もっと悔やんで頂戴、もっと憎悪して頂戴!!
貴女のその無様な嘆きと苦悶こそが、貴女に○○を寝取られた私の苦痛とトラウマを癒してくれるのだから!!!」
終わる、細部まで書いてたらマジ鬱です。
最終更新:2011年05月06日 02:19