●●の行方がわからなくなったのは夏の終わりのことであった。
最近、所謂外来人が消える事件が度々発生し警戒をしていた矢先だ。
●●と仲が良かった魔理沙も同じころから姿を見せなくなり
「二人一緒に妖怪に襲われたのではないか」と悲しみと諦めの声もあった。

秋も深まり、外来人が消える事件も●●を最後にピタリと止まり
収穫祭の話が出るころにアリスが僕のところに来た。
●●を見つけたという。
「●●は生きているわ。魔理沙もね。」

僕は喜んだ。
生死不明とはいえ人外が闊歩する幻想郷で生きているのは難しいと諦めていたからだ。
アリスが言うには動けない状態らしく僕を呼んでいるらしい。
「どうして僕を?」
「周りには魔理沙しかいないし、男にしか話せないことがあるんじゃない。」
なるほど。
とりあえず無事を確認して村に帰ってから皆に報告することにした。

アリスは僕を●●の居る家に運んでくれるという。
手を。と言われて白くて細い手が差し出された。
アリスの手を握ったのは初めてだと思う。僕はどきどきしてしまった。

件の家は森の奥にあった。
「こんな森の奥に建物があるなんて。」
「私の家なんだけどお気に召さなかったかしら。」
焦った僕は「童話のお菓子の家みたいで可愛いと思う。」などとずれた言い訳をした。
アリスは少し笑って、入って。と言った。

家に入ると壁に飾れている何体のも人形が僕を出迎えてくれた。
部屋の中央には机があり、机の上には小さな本が一冊開いて置かれていた。
「そんなに部屋の中を見られたら恥ずかしいわね。」
「アリスの部屋ってだけに綺麗だね。」
「あなたが来てくれるのだもの。ちゃんと片付けたわ。」
アリスは平然としてるようだが、少し顔が赤い。
僕もなんとなく恥ずかしくなってきた。

「●●は別のところに居るの。様子を見てくるから待ってて。」
アリスは僕を部屋に1人残すと出て行ってしまった。
改めて回りを見渡す。可愛い人形もこう数があるとすこし勢いを感じる。
目を伏せると本の内容が目に飛び込んできた。

それは―どうやら魔理沙の日記のようだった。

「なんでアリスの部屋に魔理沙の日記が?」
読むつもりは無かったが目が走った。
日付は夏の初め。あたりまえだが見なくなる前のことだ。
ところどころに●●の名前がある。
「…ばれなきゃいいよね。ちょっとだし。」
後で●●を思いっきり冷やかしてやろう。
僕は本を覗いた。

初夏 晴れ
今日は●●が初めて向こうから声をかけてくれた。
うれしい。
忘れないように記念日にしよう。

「魔理沙もなかなか女の子してるじゃないか」
独り言が部屋に響く。聞いてるのは人形だけだけども。
どうやら●●の前に消えた○○の話を聞いた魔理沙は
「私に任せればすぐに解決だぜ!」
と安請け合いしたことが書かれていた。
○○も今年消えた外来人の一人だ。
確か博麗神社へ行くのが最後の目撃情報だったと思う。
信心深いというよりかは巫女の方に興味があったらしいが。

猛暑 晴れのち曇り
最近ずっと●●と話せるから幸せ。
内容は○○関係だけど幸せだ。
ずっと見つからなきゃいいのに。

なかなか過激なことを書いている。
霊夢も神社に来た後は知らないらしい、と書いてある。
魔理沙も博麗神社まで○○の軌跡を追ったがそこから進んでいないようだ。

中夏 曇り
最近、霊夢が人前に余り姿を現さなくなったらしい。
現世に帰りたい外来人達が不満を上げているということだ。
考えたくも無いが●●もいつか帰ってしまうのだろうか。

そういえば現世に帰りたいグループ、通称帰還組みがそんなことを言っていた。
帰還組みのリーダーだった○○が失踪したかわりに●●がリーダーになったとか。

猛暑 雲、ときどき雷
今日は最悪の日だ。
●●は現世に帰りたいらしい。
だめだ。離れたくない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。

晩春 雨
前日より最悪の日があるとは夢にも思わなかった。
私のそばにずっと居てくれとやっといえたのに。
しかしいつかは帰るからと断れらた。
やっと伝えた私の気持ちもどうやら現世にも敵わないらしい。
●●はちょっと馬鹿なところもあるから何度も伝えた。
なんどもなんどもなんどもなんども
そしたら何故か●●は逃げた。
嫌われた
きらわれた

残暑 大雨
あんな神社があるから●●が迷うのだ。
あれが無くなれば●●は私だけを見てくれるはず。
雨が降ってなければ火薬とかで神社を吹っ飛ばすのだが
しかたないので私が直々に吹っ飛ばすことにしよう。

処夏 晴れ
私は昨日の日記を書いた後博麗神社に行った。博麗神社は空だった。
そして―私は地下への階段を見つけた。
私は階段を降りた。
小さな声が聞こえる。

「…くて、ねぇ○○」

霊夢が、○○の名を呼んでいる。
なんだ○○はこんな所に居たのか。
…なんでこんな所にいるのだろう。

見つからないように覗くと奥には布団が一組あった。
布団の側には霊夢が私に背を向けて座っていて、
布団の中には―――干からびた○○が横たわっていた。

「そうね。この雨が止んだら夏ももう終わるわね。」
霊夢は○○だったものに話かけている。
どうやら私には聞こえない会話をしているらしい。
「そうね。そしたら収穫祭の季節ね。あなたが育てた野菜も立派に育ってたわ。」
○○の野菜を買ってきて腕を振るってあげるわ、そういって霊夢は穏やかに笑う。

そうか。
霊夢は、自分だけの○○を手に入れたのだ。
ここは霊夢の楽園だ。

私は静かに外に出た。
もう涼しい風が吹いていた。

どこにも行かないでと言ったから不味かったのだ。
私と●●。二人なら何処までもいけるのだ。
二人で楽園に行こう。
それはとても素晴らしいことだ。

今日から楽園に行く準備が忙しくなる。
忘れないうちに昨日の感動を書きとめておく。

魔理沙の日記はここで終わった。
これはどういうことだろう。
「それ読んだのね。」
心臓が止まるかと思った。
振り返るとアリスがこっちを見ている。
なぜか穏やかに笑っているように見えた。
「●●はね。魔理沙と一緒に居るわ。」
「そ、そうなんだ。…●●は。」
アリスは一人だ。
「それがね魔理沙に追い出されちゃってて。」
「…どういうこと?」
「人間のキノコ化ってなかなか難しいみたいね。」
なにを言ってるか僕にはわからなかった。
キノコカとは一体どういうことだろう。
アリスはドアの方を向いて、
あの白くて細い手でガチャン、と鍵を掛けた。
「●●と魔理沙が居なくなった、て聞いてね。私も探してみたの」
アリスは振り返る。金色の髪の毛がふわりと舞う。
「その魔理沙の家で日記を見つけてね。それを読んだの。」
アリスは僕の横に来ると日記をパタリと閉じた。
「案の定地下に居たわ。結界があったからちらりとしか中をみれなかったけど。」
でももう入れないわね。とアリスは少し困ったように笑った。
「入れないって」
「結界を地上まで張られちゃった。あそこはもう二人だけの、この日記でいうところの楽園ね。」
アリスは日記を撫でた。白い手がゆっくり動く。
僕はアリスの目をみた。蒼い目がとても澄んでいて光さえ吸い込まれそうだった。
「この日記を読んでね、私。」
アリスは顔を上げて僕を見つめる。
僕もまるで糸で操られた人形のように正面からアリスに向いた。
「なんだかとっても魔理沙が羨ましくなったの。」
そういってアリスは僕を抱きしめた。
腕は勝手にアリスを抱き返していた。
○○は今も博麗神社にいるのだろうか。
●●は魔理沙の家にいるのだろうか。
僕は今から何処へいくのだろうか。

自分の手をアリスの背中越しにみる。
始めてアリスとつないだの手から細い糸が見えたような気がした。

外来人の村からまた一人男が消えた、と噂が立ったのは収穫の日も近い秋のことである。

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最終更新:2011年05月06日 02:41