帰りにぽちぽち。
先程の人物は誰だったんだろうか。
覚えのある顔は、ずっと前に僕を助けようとして、
彼女らに"駆逐"されてもういないはずだし。
顔を視認するより早く、彼らは狂気の波長に捕らわれ、
それが正常であると認識と記憶を改竄され、
自我の消える薬を打ち込まれ、
最後には足元から消えてしまった。
どこへ落ちたかは知っている。
僕がこの檻に囚われる前に、一度だけ見た屋敷の地下。
奇声とも嬌声とも叫声ともつかぬ音をだしながら、
一つの歯車として延々と、機械的労働に従事していた彼ら。
今の人たちも、きっと彼らの一人になったのだろう。
これから先、自分が何故そこにいるのかも理解出来ないままに、
あそこで生を終えるのだろう。
目の前の少女が獣のように髪を振り乱しながら、天上へと達する。
そのままもたれかかってきたかと思うと、耳元からずっと守るだの助けるだの。
塵よりも説得力にかける言葉が聞こえた。
――いっそ気でも狂えば僕も楽になれるかな。
また入れ替わるように檻へと足を踏み入れたケモノを霞む視界で捉えながら、
僕の思考は再び終わらない螺旋の渦へと落ちていった。
最終更新:2011年05月06日 03:01