本人はチートだろうと思ったんだろうな…
視線の先には鉄屑と化した手作り装甲車と迫る自称嫁に残骸を投げつける青年が見える。
しかし白狼天狗とは中々凄いな、裏拳で投げつけられた鉄屑をあしらってるぞ。
ゲンコツでの勝負ならもしかしたら文よりも強いかもなぁ。
彼はまた似たような事を起こすかな?そしていつ堕ちるかな?
枝の上に腰掛けネタ帳に筆を走らせながら想う、私の場合は人がどれだけ鍛練を重ねてもたどり着けぬであろうこの境地に転んだ口だが。
視線の先で押し倒されている彼は堕ちるとすればどんな理由かな?
見た感じ肉欲に堕ちかけているようだな…彼は帰りたいと思い泣いているが今の快楽を二度と味わえなくなる事も嫌がっている…ジレンマだな。妖怪の与えてくれる肉欲の快楽は精神にまで食い込むからな。
おっと彼女ににらまれてしまった。
千里眼持ちだからなやはり気づくのが早い。
ネタは充分だなそろそろ席を外すか
「今度はどんなのを作ってくれるか楽しみです」
河童から買い上げた蒸気機関を使い装甲車を製作する俺に声をかける椛。どうやらあの河童実証実験を兼ねているらしく燃料をおまけしてくれた。
目の前で逃げる算段と手段を用意していてもなんら意に介さず、それどころか俺が作り上げようとする物に対して期待と励ましの声すらかけてくれる。
「確かこれって燃える物をくべて動かすんですよね?」
基本的に椛が話しかけても相槌を打ったり返答を返したりすることは無い。
だがこいつは俺の顔を見ていれば満足するようで、時折横に立ち表情を覗き込んで笑顔を見せたりするが黙りこくる俺に対する不満はどうやらまったく無いようだ。
逃げる為の道具を準備するの当たっての注意事項は信じられないかもしれないが何も無い。
今のように目の前で製作していても何も言わないし。使えそうな物の買い付けですら目の前でやっても嫌な顔一つせずただ微笑を浮かべている。
それよりも俺が気をつけていることは。
「あら、今は気分が乗らないみたいですね」
日に何度かある色仕掛けだ、丁度今も頬に顔を近づけられた。移動していなければ口付けをされていただろう。
始めはこの色仕掛けに対して特に拒否反応を示すことは無かった。
だが彼女の、犬走椛の匂いが肌触りが表情が、彼女の全てが俺の五感を刺激し肉欲に直接語りかけてくれる。
俺は今現在この色仕掛けと己の中にある肉欲と必死に戦っている。
俺自身がぐら付いている事は表情や仕草から感じ取っているらしく何度拒否られてもこうやって迫ってくる。
「今日と明日は班割りの関係で丸二日非番なんです。夜勤明けなんで私は今から寝ますが・・・」
「気が乗ったら寝込みを襲っても構いませんからね」
しまった!近づかれた、近づかれてしまった!今のは頬どころか顔の正面に近づかれてしまった。
どんなに気をつけていても、警戒していてもこう言った瞬間に彼女が人間と違うのだと実感させられてしまう。
まばたきよりも速く、彼女は俺との間合いを詰めて今みたいに誘惑する。
これだけの芸当が出来るんだ・・・それ以上の強硬手段は児戯に等しいはずだ。それでも彼女はその行動を取らない、何故か?
妨害する必要が無いのだ、彼女と俺の「差」は全てにおいて話にならないレベルで開いている。
子供が新聞紙で何か剣のようなものを作っていてもそれを止める大人は多分いないだろう。
それどころか「何かやってるな~」とほほえましく見守るのが多勢だろう。椛にとって俺の作っているこの装甲車は、その新聞紙製の剣と同じ扱いなんだ。
気づいている、否定できる材料がまったく見つからない。それでも、諦めたら負けな気がする。
無理だとは分かっているそれでも意地と惰性と。
もしかしたら油断からほころびが生まれるかもと言う思いで彼女への反抗を続けている。
他の逃げることを考える仲間は「頑張れよ!」「協力するからな!」と言ってくれる。
しかし何百何千の激励や手助けで積み上げた物が今の柔和な対応にぶち壊される。
いつからだろう、俺のこの反抗が逃げる為ではなくやるせなさを晴らす為の八つ当たりに変わったのは。
タイヤもズタズタに切り刻まれ本来の役目をほぼ果たせず。蒸気を送るパイプも破断しエネルギー効率もガクンと下がり。
残された抵抗の手段と言えば鉄屑と化した装甲車の一部を投げつけるとらい。それも椛は素手であしらう。
一足で距離を詰めれるのに椛は一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。子供のチャンバラごっこに付き合うように。
俺と椛の間合いも一間程度になったとき椛がふっと跳んだ、無論俺を押し倒す為に。
「ふー、今回も私の勝ちですね。でも今回は意外と手こずりました、このソーコーシャっての意外と強いですね」
今回の「趣向」にどうやら椛は満足したようだ。馬乗りになって俺に感想を言った後椛の口付けが俺に降り注いだ。
「でもこのジョーキキカンってのは熱いですね、周りにいるだけでもそう思うんだから中はもっとでしょう」
「多分今日の早くにだろうなーと思って水筒とお弁当を用意しといたんですよ。」
「のども渇いてるだろうし、どうせだから今からここで食べましょうよ」
そう言って椛は笑顔で背中にかけている袋を指差す。
冗談だろう。動き出す日時を読んだだけじゃなくて、水筒とお弁当を抱えて戦う余裕まであったって言うのか?
「あ・・・・・・まだいる」
不意に何の脈絡も無く椛が締まった顔で斜め上を向くが。
「・・・大丈夫、もう行きましたよ。」
「流石にここから先を除くのは無粋ですからね、いくら文様の旦那様でもそれは駄目ですよ」
何てことだ。俺のこの反抗は誰かが見物していたんだ。
そして椛はそのことに最初から気づいていて俺は今気づいた。
「お・・・もしかして今気分が乗ってくれてます?」
俺に抱きつかれた椛は嬉しそうな声を出す。
「物凄く嬉しいですけど、汗がダラダラだからちゃんと水分補給してからじゃないと。脱水は怖いですよ」
「それとも。口移し・・・しましょうか?」
もう良いや、もうどうでもいい。だったら快楽に身を任せた方が・・・・・・得だ。
最終更新:2011年05月06日 03:38