とある氷精が居ました。
彼女はお馬鹿でしたが、友達と一緒に遊んだり蛙を凍らせたり巫女に撃墜されたりして楽しく暮らしていました。
そんなある日、外の世界からやって来たという人間と出会いました。
彼は○○という青年で、何かと気さくで初対面で突っかかってきた彼女にあめ玉をくれました。
その後も何度か出会う内に氷精は○○の事を段々と意識するようになりました。
彼を見るたびに心がうずうずするのです。胸の奧が何故かポカポカするのです。
その代わり、友達が○○と話していると何だか凄く気分が悪くなりました。
冷凍蛙をうっかり口にした時以上に、気分が悪くなったのです。
そんな日が続く内、氷精はどうにかして○○が自分の事だけを見てくれないかなぁ、と思うようになりました。
お馬鹿な彼女は何日も真剣に悩みました。友達と遊ぶ事も忘れて悩み続けました。
○○とずっと一緒に居たい。
○○が他の人、特に女性と話すのを見たくない。
……そうだ、けーね先生なら解るかもしれない。
けーね先生は物知りなので、きっと答えを出してくれると急いで里に向かいました。
けーね先生に早速質問をぶつけると、彼女は少し困った顔をした後こう言いました。
「結婚したらいいんじゃないのか?」
彼女の言い方は明らかに冗談めかしたものでしたが、氷精は完全に真に受けてしまったのです。
彼女は急いで湖に帰ると、丁度湖畔を散歩していた○○に大声で言いました。
「○○、けっこんしよ!」
○○は驚いた顔をした後、彼女の頭を撫でながらあやすようにこういったのです。
「君が大きくなったらね」
氷精は、思わず愕然としました。大きくなるってどういう事だろうと。
親友の大妖精に聞くとそれは人間でいう大人になるという事らしい。
三人組の妖精に聞くと、それは人間と同じ大きさになるという事らしい。
氷精はどうしようと思い、泣き出しそうになりました。
何故なら生まれてから随分と時間が経つのに、自分はちっちゃなままだったからです。
大妖精が言うには、人間はたった数十年で死んじゃうそうです。
自分が○○と同じぐらいの大きさになれる、そんな時まで○○が待っていられるとは思えない。
きっと間に合わず○○は死んじゃうに違いない。死んじゃったら絶対に結婚出来なくなってしまう。
どうしたらいいのか必死に考えた氷精は、ふと自分が凍らせた蛙の事を思い出しました。
「そうだ! これなら○○はずっと……」
それから何年が過ぎたでしょうか。
多分、数百年は軽く過ぎたと思います。
「○○、やったよ、あたい、おとなのれでぃになったよ!!」
彼女の住処である氷室の中。
氷精は誇らしげに○○に向かって報告します。
彼女の身体は大きく変わっていました。身長は○○より頭1つ小さい位、手足もほっそりと長く。
体付きも出るところは出て引っ込むトコは引っ込んでいます。確かに彼女は大人の女性と見て差し支えない体付きになっていました。
嬉々として自分が○○に相応しい大人の女性であるとアピールする氷精を、○○は微笑ましそうに見ていました。
数百年前、彼女に呼び止められて手を上げて笑いかけた、そのままの姿で。
「後は、○○を元通りにすれば、すぐにけっこんしきができるよ!」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに氷を解かし始める氷精を、○○と呼ばれた青年の亡骸はやはり優しい目付きで見守っていました。
最終更新:2011年05月06日 03:41