ここの面子も随分と数が減ったものだと、○○は思った。
人里と妖怪達の勢力範囲との境目にある、巨大な地下通路。
長大な通路を造る事で移動路と居住区を両立させている『外界帰還派』の最大拠点だった。
「そう言えば、□□はどうした?」
通路にカウンターを据えて営業しているたった数席の酒場で、質の悪い酒を呷りながら○○はマスターに問うた。
「……先月、捕まってしまったよ」「そうか」
調達部の活動は困難を極める。自分を探す女性に見つかる確率も高いからだ。
「それに、最近は自分から出ていく奴も居るんだよ。△△も、天狗になる修行を受け入れたって話だ」
「……ふん、勝手にすればいいさ。自分をこの郷に括り付けたがる女なんぞに尻尾を振りたければ振ればいい!」
「○○、理解してやれよ。誰も彼もが強い訳じゃないんだ。展望の無い潜伏生活を続ける事に疲れる奴も居るんだよ。
確かに女の子の愛情を受け入れれば、制限は付いても生活は格段に良くなるからな」
「マスター……あんたも、疲れている口か?」
マスターは○○の問いに答えず、カビが浮いたカウンターを見詰めていた。
「そろそろ閉店だ。あんたは第一級指定だ。あんまり此処には長居しないでくれ」
擬装用の植物を全身に括り付けた状態で側道から外に出る。
外部に出る○○を見送る見張りの眼差しは爛々と光っていた……確か、妖精メイドの一匹に思慕されてた男だ。
彼はまだ入り立てだ。外界に出る気もあり、何とかなると思っているのだろう。
(今はまだ、な)
○○は虫の鳴き声と遠吠えが聞こえる森の中を進む。
この先を東に向かって歩き続ければ、迷いの竹林に出る。
ああ、そうだ。俺が幻想郷に放り込まれた場所だ。妖怪の賢者ももう少し考えて放り込めばいいものを。
○○は愚痴るように考えながら歩き続ける。
迷って必死になって歩き続けて、あわやって所でアイツに出会った。
アイツは孤独を好んでたけど、衰弱しきって俺を家に連れて看病してくれた。
アイツは多分、良い奴だったんだと思おう。多分、俺が間違えたんだろうな。
アイツが言うようにさっさと人里に向かえば良かったんだ。恩義を感じて世話を焼いてしまった。
アイツに孤独の辛さを思い出させてしまった。思わせぶりな態度を取ってしまった。
「っ……ちっ!」
茂みから飛び出してきた妖怪が、妖力で編んだ玉を俺に撃ち込んで来る。
肩肉を抉られたものの、お返しとして撃ち込んだ猟銃の弾が、妖怪の眉間を貫いた。
倒れた妖怪を窺う、どうやら録に名前も無い小物のようだ。復活する前に立ち去ろうとし―――妖怪は火に包まれた。
「○○……帰ろう。私の家に」「も……もこ」
虚ろな目付きの白髪の少女が、○○の前に立っていた。
○○は咄嗟に肩の傷を押さえる。肩の傷は……破けた箇所と、こびり付いた血を除けば何事も無かったかのようだった。
「○○、まだ、私の事を許してくれないのか。謝るよ、土下座してもいい、組み敷いて犯してくれてもいい、私の全てをあげる。だから、だから……!!」
○○はもはや傷の肩を押さえたまま、必死に走り出した。
「頼むよ○○、許してくれ、この苦しみは理解していたのに、我慢出来なかったんだ。独りは、独りは嫌だったんだ!! 」
「もこ、もこ、もこもこもこぉ……!!」
「お前に、外界に、帰って欲しくなかったんだ! ○○、憎んでくれてもいいから、私を、独りにしないでよぉ―――!!」
後ろからの声を振り切るように逃げ去る○○の両目からは、涙が溢れ出していた。
○○の妹紅に対する感情が愛に振れるか憎しみに振れるか、今はまだ解らない。
最終更新:2011年05月10日 22:11