「こんにちは!文々。新聞のメッセンジャー○○です」
文の仕事の手伝いは何も記事製作だけではない。実際に売り歩くことも重要、と言うかこれが正直な話一番重要かもしれない。
売れなければ次の号を作る資金にも事欠くだけではなく、飯の種にも困る。
だから毎号欠かさず買ってくれるお得意様は貴重な存在だ。
私の挨拶を聞いてもそもそと茂みの一部が動き、男が一人這い出てきた。彼が今のところ私の上客だ。
「よぉ、木っ端天狗」
好かれているかどうかは別にして。
彼は帰還組みの外来人の1人だ、そして間の悪いことに私と多少の面識がある。
まだ帰還の事をスズメの涙程度には考えていた頃、彼らのコミュニティでしばらく世話になっていた。
もっとも世話になった頃にはもう天狗になってもいいかなと思い始めていた為、彼らからの特にいまだに帰還を諦めていない者達からの心象は非常に悪い。
「とりあえず30部寄越せ」
だが彼らは常に情報を求めている。どこで何が合ったかを、どう動けば危険から身を守れるかの情報を仲間と共有したがっている。
この幻想郷では外界と違ってどうしても情報の流れは遅いし手に入れにくいと言わざるを得ない。
その為新聞製作に精を出す天狗との接触は情報を手に入れると言う面ではどんなに危険でもせざるを得ない。
里での販売所に向かうのもいいがああいう場所は間違いなくマークされているし、売り子さんも圧力に勝てるわけも無く誰が来たかを正直に話すだろう。
その為既に俺と言う旦那がいる文からの手売りがリスクも少ない方法ではあるが・・・・・・
帰還組みのほとんどは妖怪やそれに匹敵する力を持つ彼女達へのアレルギーが非常に強い。
その為文からの手売りも、例え見かけても勇気が出せず声をかけれないらしい。
その為彼は元人間の俺からよく買ってくれる。
「・・・」
「・・・」
ただ私は彼から見れば裏切り者のような存在である、2人の間に流れる空気は非常に悪い。
しかし彼はすぐに立ち去らず一部一部の確認を丹念に行っている。
その訳は彼を好いている星熊勇儀からの手紙を気にしているからである。
彼に新聞を売りに定期的に接触していることを知った彼女は私に彼宛の手紙を届けるように何度も頼まれている。
天狗の力という利益を甘受している以上、組織の一部として鬼からの「頼み」は絶対に断れない。
ただ文は自分以外の女性と私1人で接触するの嫌がっているため、件の手紙は文伝いに渡される。
その為私は星熊勇儀と言う鬼がどんな容姿をしているのかまったく知らない。
この間の守谷神社への取材も、売り上げとの板ばさみで出した結論が文の使役しているカラス達に私と私の周りを見張らせる事だった。
「合った・・・!ほんとに毎回懲りないなお前もこの手紙の主も」
新聞の間に挟まれた手紙を見つけた彼はそれを投げ捨てる。
依然投げつけられたことも合ったが、その帰りにカラスの大群に襲われたらしくそれ以来そういうことはしてこない。
やはり文とは年季が違うからか後で言われて見張りがいたことに気づくことがままある。
「じゃあな、木っ端天狗」
(すまんね、それはダミーだ)
彼が後ろを向いて帰ろうとした時、背中に向かい水平に飛び立つ。
高速で飛ぶ私と彼のすれ違いざまに星熊勇儀からの手紙を彼のズボンのポケットにしっかりとねじ込む。
「お仕事終了っと」
「やるってんならいつでも相手になってやんぞお!!」
私と彼のニアミスを彼は挑発と思ったのだろう。飛び立つ私に向かって荒々しく怒鳴る。
もっともそれをやったら。文自ら出張って死なない程度にボコボコにされるだろう。
彼はまだ気づいていないが、私への悪態を付いても文が必死で憤怒を抑え五体満足でいられるのは。
星熊勇儀の意中の相手だからに他ならない。
それに気づいたときの彼の様子は、きっと文が嬉々として記事にするだろうな。
最終更新:2011年05月15日 02:26