博麗騒動
博麗騒動
「年季が無くても神様はやっぱり神様か・・・いやぁ凄い」
妖怪の山上空にて守谷神社の方向で行われる弾幕ごっこ・・・
正確に言えば片方にとっては本気の一撃なのだがもう片方にとってはごっこの域を出ないレベルであった。
「いやー凄い!こんな特等席での撮影は文々。新聞が初めてですよ」
そう言いながら文は首から提げたカメラのシャッターを何枚も切る。
ここ最近守谷神社で行われているこの弾幕戦は花火のような人気がある。
その為記事にしたがる天狗は多いのだが・・・
「しかし・・・シュールですね。男の方は必死の形相で弾幕を放ったりオンバシラを引っこ抜いて投げつけているのに」
後ろから導師服を着込み、背後には九本の尾を従える女性。名を八雲藍が今の光景に対する感想を述べる。
何せ片方が人間を止めさせられ、ここからの脱出が不可能になった怒りと憎しみの炎でやたらめっぽうな攻撃をしてくる。
そして年季が無くとも神の片割れ一発一発がただの妖怪には重い一撃なのだ。
その為流れ弾が怖くて敷地内に近づけない、今回も後ろの彼女が結界を張ってくれなければこんな迫力のある席では見物できなかっただろう。
「八坂様の方は完全に戯れていらっしゃる・・・あれが八坂様流の夫婦の営みなのかもしれませんね」
私の合いの手に文は少しむっとした顔をした。そしてただでさえ近い私と文の距離が更に縮まる。
それ所かもうこの状態はほぼ密着といって良い。
どうにも私と女性との会話を激しく嫌がるのが玉に瑕だな。
もっとも、だからといって抵抗したり異を唱える気はこれっぽっちも無いのだが。
「それで、藍さん。今日のお話と言うのは何ですか?」
「結界を張ってくれたのは感謝します。お陰で良い画がたくさん取れました」
「ですが○○さんにちょっかいを出すのなら私、容赦しませんよ?」
ここから先の会話は文に任せよう。私が合いの手を入れると話がこじれかねない。
「待て待て、私に一妻多夫の趣味は無い。話は・・・博麗の巫女に関することだ」
「最近宴会もないし姿も見せませんが・・・やっぱり何かあったんですか?」
だが恐らくこの話は私にもある程度は関係するのだろう・・・そうでなければ文だけ呼び出せばいいはずである。
人をやめたお陰でただの人間よりははるかに強くなれたが。妖怪の中で見ればまだまだ下位に属する。
それなのに八雲藍は私も呼び出した・・・果たして木っ端天狗の私に何をさせる気なのだろうか。
「△△と言う名の男を覚えているだろう?」
「当たり前ですよ。ブンヤを舐めないでください」
△△とは当代の博麗の巫女、博麗霊夢の意中の相手である。例に漏れず同棲の際色々とトラブルが発生した。
と言ってもトラブルを起こせと指示したのは八雲藍の主人、八雲紫で実行犯は私なのだが。
「酷いな」
あの日文と降り立った博麗神社は荒れていた。
古さを感じさせながらも掃除が行き届いた博麗神社、と言う私のイメージはここには完全に無かった。
それ所か石畳や木々の所々に弾幕が着弾した跡が見て取れる。
「最近△△さんが霊夢に会いに来てくれなくて荒れているのよ」
私達を出迎えてくれたのは八雲紫。
だがこの日はトレードマークである日傘も持っておらず、目の下には薄いクマまでもが見て取れる。
いつもの胡散臭い雰囲気は何処にも無く、疲れているのが見て取れる。
「良いから、それより話を聞いて。急いでるの」
かしこまり跪こうとした私と文を制止する。
「・・・とゆうか貴方達いつもはそんなに礼儀正しくないでしょう、まったく」
「いえいえ、アレだけの大金を貰ったのですからこれぐらいは当然ですよ」
私と文は取材帰りに里での昼食中、八雲藍から呼び出されてここまで来た。「紫様がお呼びです」と
その際「無論タダではと申しません」と言い茶巾袋にギチギチに詰まった金子も手渡された。それ所か昼食の支払いもしてくれた。
ここまでされたら行かないわけには行かない。多少の疑問はあるが。
「単刀直入に言うわ、△△を連れてきて」
「これ以上霊夢に機嫌を損ねられたら、博麗大結界にも・・・いやもう既に緩くなり始めてる」
「今はまだ藍の手で何とかなっているけど・・・それも時間の問題。今ですら橙の力も借りてるのに」
そう言えば彼女は「私は用があります」と言って案内もせずに何処かに行ったな。
「私も手伝いたいけど・・・そうなると泣きわめく霊夢をなだめる役がいなくなるの」
「今は枕に顔を埋めながらシクシク泣くくらいだけど・・・いつまたわめき出すか」
「貴方達なら簡単でしょう?幸い橙に確認させたら今日の朝時点ではまだ里にいたし荷物をまとめてる気配も無かった」
「だから、すぐに、今すぐ△△を連れてきて」
どうやら自体は相当切羽詰っているようだ。しかし疑問が残る。
「何故私なのですか?八雲紫」
「どういう意味?」
「私と文でなくても構わないのではないですか?式である八雲藍に頼めば金子もいらない」
「・・・なのに何故私達に高い金を払って私達の頼むのか」
「イメージよ」
理由は単純だった。
「貴方は帰還派の外来人から蛇蝎の如く嫌われてるわ。人を簡単に捨て化物になったとしてね」
「私や藍でも簡単に出来るわ、貴方の言ったとおり高い金も要らない」
「それでも八雲家のイメージがあるの。幻想郷を守る八雲家というね、それは外来人にも持っていてほしい」
「だから貴方達に頼んだのよ。今更彼等の感情をどうこうしようとは思ってないでしょう?」
「悪どいですねー」
文が声を漏らす、まったくその通りだ。
「お互い様でしょう?」
そしてそれに対する突っ込みも、もっともだ。
仕事自体は準備運動にもならないレベルだった。
「多少の騒動は許すわ、△△の体に大きな怪我さえなければ」
八雲紫からはそういわれていた為、派手にやる事にした。特に文がこの騒動に乗り気だった。
最近帰還派の外来人から。私が石を投げつけられたりしていることにかなりのご立腹だった。
ついでにキラキラした目で八雲紫に博麗霊夢への独占取材のお願いもしていた。
始めは泣きわめく博麗霊夢を撮りだがっていたが。それはイメージが崩れる為、にべも無く拒否された。
だから△△を連行した後の独占取材とこれから起こす一騒動で妥協した。
文はまだキラキラした目をしながら飛んでいるが、これはまた別の思惑だろう。
「天狗の恐ろしさを一回教えとかなきゃなーって思ってたんですよ~」
「文、死人は出すなよ」
「分かってますよ~」
帰還派は里に住んでいても固まって住むのを好む。
そして境遇から来る仲間意識も強い、だから仲間が襲撃されれば助けが来るはず。
間違いなく文はそれらをまとめて叩きのめす腹積もりだ。
少し彼等が心配だ・・・死なないにしても怪我の程度が気にかかる。
彼の家には一度行った事がある、新聞の記事の為突撃取材を試みたからだ。
博麗霊夢の意中の相手の顔写真とインタビュー記事。成功すればゴシップ好きな奴等が必ず買ってくれる。
もっともその時は大失敗に終わった。△△の在宅所か石や塩を投げつけられる始末だった。
無論。文にはその旨は話していない、間違いなく死人が出る。
彼の家の上空に付く。在宅を期待しつつ急降下。その際文が私の頬に軽く口付けをしてくれた。
見張りが目標ではない事を確認して文が思いっきり蹴っ飛ばす。早速やっちゃったよ。
「どうも~清く正しい文々。新聞の射命丸ですよ~」
「それと文々。新聞のメッセンジャー○○です。△△さんはご在宅でしょうか?」
文に蹴っ飛ばされた男が仲間に担がれて引っ込むのが見える。
入れ替わりにホウキやフライパン、とにかく武器になりそうな物を持った者達が私と文を取り囲む。
「あぁ、勘違いしないでください。私は喧嘩をしに来たわけではありません」
「ただ博麗の巫女様がどーしても△△さんに会いたいとの事で、お迎えに上がりました」
ただ文の方は完全に喧嘩をするつもりで来てるだから「達」はつけなかった。?はついていない。
「そのまま手ぶらで帰れぇ!!」
1人の男の怒声を合図に一斉に襲い掛かる。どうやら自前でかなり訓練をつんでいる様だ。だが。
文がいつも持ち歩いている天狗のうちわを軽く振る。それで私と文を除く周りの者は全員風圧でこけてしまった。
人間相手なら彼等は良い線行くだろう。だが妖怪相手では。
しかも妖怪の中でも上位の力を持つ天狗の中でも強い方の文が相手では・・・
「○○さんは△△を。私はこいつ等の相手をします」
「文、もう一度言うが」
「はい。死なない程度で許しときます♪」
遊ばずにさっさっと終わらせよう・・・彼等の為にも。
長屋の屋根に助走無しで飛び上がる。
飛び上がる際。ジャンプの高さに唖然としていた真下の男のアゴが文の掌底に打ち抜かれるのが見えた。
そのまま長屋の屋根を踏み抜き中に入る、修理代は八雲家に付けておこう。
始めの部屋には誰もいなかった為次は壁を蹴り破り隣に移動する。外では文が大立ち回りを繰り広げている。
背中から何かが突っ込む音が聞こえた。さっきの部屋に文が誰かを吹っ飛ばしたのだろう。
ここにもいないもう一度壁を蹴り破る。いた!
ただ△△は武器を持っており邪魔な奴も1人。そいつも武器持ちだった。
刃物の類ではなかったが当たれば痛いだろうな。
「△△。博麗の巫女様がお呼びだ。一緒に来てくれ」
ただ大人しくついてくるはずも無く。邪魔な方が掛け声と共に向かってくる。隙だらけだったが。
後ろに回る必要も無かった。体の支点を少しずらし、鼻の辺りをカウンターでめり込ませそのまま畳に後頭部を打ち付けた。
「さぁ、武器を捨てて。私と一緒に来てくれ」
怪我は極力少ないほうが都合が良かったので取り押さえるのは少し面倒だった。
足払いを決めてこけた所を羽交い絞めにして決着は付いたが。
どうせならこかさずに後ろを取って羽交い絞めにしたかった。まだまだ修行が足りないようだ。
羽交い絞めにして妖気を一気に流し込み彼の意識を飛ばす。そのまま彼を背負い飛び上がった
下では相変わらず文が大立ち回りを繰り広げていた。跪かせた顔面を蹴り上げるのが見えた。
「文!確保したぞ、神社に戻ろう!」
「はーい♪」
満足したかどうかが心配だったが大人しく引き下がってくれてよかった。
少なく出来たはずである重傷患者が増えるのは流石に後味が悪そうだったから。
その後この事件は博麗騒動と人妖の垣根を問わず話題に上る事となった。
特にその詳細を独占取材した文々。新聞は大きな売り上げを上げる事ができ文は嬉しそうだった。
私の方は。あれから帰還派を相手に新聞を売るときの空気が、ただでさえ悪いのに更に悪くなった。
5人以上で私を取り囲み、全員が武器持ちの状態で応対されるようになった
「それで藍さん。△△さんがどうしたのですか?」
「逃げたんだ。正直今何処にいるかまったく分からない」
「あちゃー」
嬉しそうな顔をしながら顔を押さえる演技をする文を見ながら思う。
アレはもう終わりだと思ったがまだ続くらしい。次の文々。新聞の一面は決まったな。
感想
最終更新:2019年01月26日 22:53