紅美鈴 外側と内側編
紅魔館の門番はベッドだけでなく門でも眠り、侵入者を入れてしまう事が度々あった
その度に館のメイド長に叱責されるが門で居眠りするのは続いていた
しかし1ヶ月程前から門番の紅美鈴はベッド以外では眠らなくなった
この事はメイド長の十六夜咲夜だけでなく主人のレミリア・スカーレットをも驚かした
紅魔館 門
「何でだよ!前までは入れてくれてただろ!!」
「今までは私が居眠りをしていたから仕方ありませんが、私が起きている限り
許可の無い者は通しません!!」
門番の紅美鈴と魔法使いの霧雨魔理沙の口論が続いていた
このままでは口論から戦闘になるのも時間の問題だった
「何なんだよ、いったい‥‥‥」
魔理沙は美鈴の変わり様に驚いていた、この様な真剣で殺気すら混ざっている美鈴を見た事はなかった
「だったら戦いますか?私は構いませんよ」
このまま口論を続けても意味が無いと判断した美鈴は魔理沙に提案した
魔理沙は何も返答せず、少しだけ時が流れた後に
「ちえっ、つまんなくなったから帰るぜ」
「賢明な判断です」
魔理沙は箒に跨り不機嫌な表情のまま飛んで行き
それを見届けた美鈴は真剣な表情そのままで門番の仕事に戻った
しかしその後すぐに別の人物がやって来る事になる
「こんにちわ美鈴さん」
「○○さん!来てくれたんですか!!」
先程までの真剣な表情とは違い、想い人が来るのを待っていた少女の様な表情で○○を迎えた
レミリアの友人である○○は侵入者などではなく、れっきとした客人である
○○が来たら直ぐに通す様に命じられていた
美鈴が門で居眠りしなくなった原因は、この○○にあった
「どうぞお通り下さい、お嬢様がお待ちかねです」
美鈴はこう言ったが内心は直ぐには通さずに、ほんの少しでいいから○○と会話がしたいと望んでいた
しかしレミリアから直ぐに通す様に命じられていたので、その望みは叶わないのである
それは○○を愛していた美鈴にとって辛い事だった
「じゃあ通るよ」
そう言って○○は門を通り紅魔館のある方に歩いて行った
美鈴は○○の背中を見つめる事しか出来なかった
「○○さん‥‥‥」
○○はレミリアから美鈴が居眠りしていたら無視して門を通る許可をもらっていた
美鈴が居眠りを止めたのは起きた状態で、○○と会いたいと思ったからで
挨拶だけしか出来なかったとしても、○○に声をかけれるのが嬉しかったからである
「お待ちしてました○○さん」
「こんにちわ咲夜さん」
「どうぞお入り下さい」
入り口の扉で出迎えた咲夜に○○が挨拶をして中に入っていた
○○が中に入った扉の方を美鈴は羨む気持ちで見つめていた
門番の自分と違い、レミリア達は○○と好きなだけ会話をする事が出来る
一緒に食事や紅茶を楽しむ事が出来る
自分だけが外側でありレミリア達は内側、それが美鈴にとって羨ましかった
紅魔館 レミリアの部屋
「待っていたわよ、○○」
「いらっしゃい○○」
「お兄ちゃん~~」
部屋に入った○○をレミリアが
パチュリーが
フランドールが出迎えた
咲夜を含めた全員が美鈴と同じ様に○○を愛していたので、○○が来るのを心待ちにしていた
その気持ちに○○が気付いていれば、この4人の誰かと恋人同士になったかもしれないが
○○は何も気付いてはいなかった
「まずは紅茶でも飲みましょうか、咲夜」
「はい」
レミリアの命じられ、咲夜が紅茶を入れに行く
○○が紅魔館に来たら最初にする事が全員で紅茶を飲む事だった
紅茶を飲みながら談笑し、その後は日が沈むまで遊ぶ、おそらく今日も同じだろう
5時間後 紅魔館 門
「おかえりですか○○さん」
「ああ」
「また来てくださいね、お嬢様達も喜びますし‥‥それと‥‥‥」
この時、美鈴は何とか会話の時間を延ばして○○と一緒にいたいと願っていた
だが美鈴の願いは叶わなかった
「ごめん、急いでるから失礼するよ」
「えっ」
それだけ言って○○は紅魔館から美鈴から離れていった
離れていく○○が見えなくなるまで美鈴は○○から目を離さなかった
美鈴の○○に対する気持ちは日を追うごとに強くなっていた
それと同時にレミリア達を羨む気持ちも強くなり、ついに羨みが妬みになった
(お嬢様達は○○さんと、いっぱいお話して遊べてるのに‥‥私だけ‥‥‥)
(私だけ外側‥‥お嬢様達は内側‥‥‥)
(○○さんはお嬢様達の事をどう思っているんだろう‥‥‥)
(紅魔館から出てくる○○さん‥‥とても幸せそうだった‥‥‥)
(それだけじゃない、最近はお嬢様達も‥‥とても幸せそうだった‥‥‥)
○○への愛とレミリア達への妬み、この二つが美鈴を歪ませようとしていた
(このままいけば、○○さんとお嬢様達が愛し合う関係になるのは時間の問題かもしれない)
(そんなのイヤだ!絶対にイヤだ!何とかしなくては!!)
(○○さん!○○さん!○○さん!○○さん!○○さん!!)
美鈴は心の中で○○の名前を何度も叫んだ、そして
(そうだ、私だけが外側だからダメなんだ‥‥私だけが外側だから‥‥‥)
美鈴が歪んでしまった瞬間だった
3日後 紅魔館
この日、幻想郷で大事件が起きた
紅魔館全体が炎に包まれる大火事が発生したのである
「はははははは‥‥‥」
笑っているのは、この大火事の原因となった人物である美鈴だった
炎に包まれている紅魔館を見ながら美鈴は笑っていた
「これで内側は存在しない‥‥存在するのは外側だけ‥‥みんな外側だ‥‥‥」
「はははははは‥‥はははははは‥‥‥」
美鈴は炎に包まれている紅魔館を見ながら笑うのを止めない
「これは、どういう事だ美鈴!!」
「あれ、○○さん来てくれたんですか‥‥私とても嬉しいですよ‥‥‥」
○○が炎に包まれる紅魔館にやって来たのを知り、美鈴は笑うのを止めた
「燃えてますよ‥‥燃えてますよ‥‥紅魔館が‥‥内側が燃えて無くなります‥‥‥」
「美鈴!君が紅魔館に火を!!」
「残念ですけど紅魔館は‥‥内側はこの通りです入る事は出来ません」
「美鈴!!」
○○の問いに美鈴は答えないが、美鈴の態度からそれは間違いないだろう
「レミリア達を助けなきゃ」
○○はレミリア達を助けようとしたが、美鈴の言う通り既に全体が炎に包まれた紅魔館に入るのは不可能だった
「大丈夫ですよ、お嬢様達はその内に出てきますよ、多分‥‥‥」
「それより紅魔館には入れませんから、お嬢様達が出てくるまで私とお話しましょうよ」
「美鈴?」
「私、ずっと○○さんと二人っきりで、いっぱいお話したかったんです」
○○は自分と話がしたいだけでここまでした美鈴の気持ちを理解出来なかった
「俺と話がしたいだけで、こんな事を‥‥‥」
「話だけじゃないです、○○さんと愛し合う為ですよ」
「俺と?」
「もう内側はありません外側だけです、これで条件は同じになりました
条件が同じなら○○さんを一番愛している私が勝つに決まっています」
「美鈴‥‥‥」
美鈴の名を口にした後、○○は一言も喋らない喋れなかった
「○○さんお話しないんですか?まあいいです、これから時間はたっぷりありますしね」
「だったら炎に包まれて無くなっていく紅魔館を一緒に見ましょう」
「綺麗ですね炎に包まれた紅魔館」
美鈴は○○に語りかけるが、○○は何も喋らないし紅魔館も見なかった
地面を見ながら地面に涙を落としていた
1週間後 ○○の家
「○○様、お嬢様、妹様、パチュリー様、紅茶をお持ちしました」
「ありがとう咲夜」
「いえ‥‥‥」
紅茶を用意した咲夜に○○は礼を言い、それを聞いた咲夜は頬を赤く染めた
しかしレミリアは礼を言わずに咲夜に問い詰めた
「ちょっと咲夜!どうして私より○○の名前が先なのよ!!」
「この家の家主様は○○様ですので」
「そ、それはそうだけど」
それを言われたら、レミリアは何も言えない
咲夜の○○の呼び方も○○さんから○○様に変わっていた
「○○様!○○様!○○様!○○様!○○様!!」
フランドールが面白がって○○様を連呼する
「フラン、今までと同じでお兄ちゃんで構わないよ、咲夜さんも今まで通りでいいですよ」
そんなフランドールの頭を撫でながら、○○は優しく二人に言った
この時、咲夜も○○に頭を撫でられたいと思っていたのは内緒である
まあ横で見ていたレミリアもパチュリーも同じなのだが
「呼び方は今までと同じでよいとして、私達の関係は変わったわね」
パチュリーが、そう口にする
「そうね望んでいた関係になったわ」
パチュリーに続きレミリアもそう口にした
「私達4人全員が、お兄ちゃんの恋人だもんね!!」
笑顔でフランドールは大声で叫ぶが
大きい声で言われて恥ずかしいのか、フランドールを除いた全員の頬が赤く染まった
「フラン!大きい声で言わないの!恥ずかしいじゃない!!」
「えーーーっ!お姉様はお兄ちゃんの恋人になった事が嬉しくないの?」
「嬉しいに決まってるじゃない!!」
「レミィの声の方が大きいわね」
姉妹のやり取りに横からパチュリーが口を挟む
これから5人は、こんなやり取りをしながら幸せに暮らしていくだろう
あの大火事で紅魔館から脱出したレミリア達は犯人である美鈴を処断しようとした
しかし○○は自分にも原因があり美鈴自身も精神異常状態だと説明し美鈴を庇った
そんな○○にレミリア達は美鈴を処断しない代わりに2つの条件を出した
条件1 紅魔館を失った自分達を○○の家に住ませる
条件2 自分達4人を○○の恋人にする事
○○は前からレミリア達と一緒に暮らしたいと思っており
レミリア達に対して友情ではなく深い愛情を持っていた
自分だけの片思いと思っていたので、この2つの条件は○○にとって素晴らしい条件だった
ちなみに美鈴に対しては何の感情も持っていなかった、やはり彼にとって美鈴は外側だった
美鈴を庇ったのも罪悪感による物だ
だが○○の心の中から罪悪感どころか美鈴の存在自体も消えていくだろう
○○自身、美鈴を忘れたいと思うようになっていたからである
永遠亭 病室
「美鈴、薬の時間よ」
病室のベッドで横になる美鈴に永琳は話しかけたが
永琳の表情も口調も冷たかった
「ねえ○○さんは‥‥何時お見舞いに来てくれるんですか?」
「知らないわ」
「○○さん‥‥私を庇ってくれたんですよ‥‥これは私を愛してくれている証拠ですよ‥‥‥」
「早く薬を飲んでくれないかしら」
永琳は美鈴の相手をしなかった、したくなかった
出来れば永遠亭から出て行って欲しいくらいだった
今の美鈴が何をするか月の頭脳と呼ばれた永琳ですら分らなかったからである
「○○さん‥‥待ってて下さい‥‥直ぐに退院しますから‥‥‥」
「○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥
○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥
○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥
○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥
○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥○○さん‥‥‥」
美鈴は繰り返し○○の名をつぶやいていた、しかし○○どころか誰も美鈴の見舞いに来る者はいなかった
精神異常と判断された美鈴と関わり合いたくなかったからである
その後、美鈴は10年間入院したが結局は治らず、永琳は美鈴の回復は無理と結論を出した
入院中に数々の問題を起こした美鈴をこのまま幻想郷に置いておくのは危険と判断され
美鈴は幻想郷から追放となった
美鈴が幻想郷の内側に入る事は二度と無い、永遠に外側である
最終更新:2011年06月05日 20:23