永遠亭で暮らす○○。
彼は幸せである。
○○は自分が食べている物の隠し味を知った。
ある時、彼は調理場に永琳を見かけた。
彼女が自身の腕を深く包丁で突き刺している所に。
声を押し殺し激痛を耐え、流れ出る血を深い器に注ぐ。
血が溜まるにつれ、彼女は次第に笑顔になっていく。
思わず○○は大きな声で愛妻の名を呼んだ。
一瞬驚いた永琳だったが、彼の姿を見ると
「今日もこれで、あなたの為に美味しい物を作るからね」
と、淀みきった妖艶な笑顔で応えた。
○○は妻の深い愛情を嬉しく思うと同時に、
自身の為に苦痛に耐える姿は見たくなかった。
○○は食事の直後に話を切り出した。
「もっとあなたの中に、私を深く染み込ませたいの」
彼女はそう言って譲ろうとしなかった。
彼も引かなかった。妻に痛い思いをさせたくない一心であった。
話が平行線になり、少しだけ悲しくなった○○は
永琳に抱かれていた顔を、その胸に深く埋めた。
その瞬間、二人は最良の方法に気付いた。
いそいそと服の釦を外し始める永琳と、顔を埋めている○○の瞳は、
新たな快楽を期待する欲望に満ち、濁りつつも輝いていた。
後に永遠亭より新たに販売された薬が、評判となった。
○○はある時、急に体調を崩した。
布団ので横になる彼を、永琳が抱き温めた。
冷たい汗に濡れる○○の身体を、彼女が丹念に舐めた後に拭き取り、抱いた。
永琳は薬湯を口移しで投与し、自身の乳房を彼の口に含ませた。
「今はゆっくり休んで、いっぱい甘えてね」
と、永琳は献身的に看病し、夫の面倒を独りで見た。
暦をしっかりと確認し、体調が戻る時を計算しながら。
○○の意識が落ちると、永琳は夫の耳元で囁き続けた。
彼がうわ言で永琳の名を呼ぶと、彼女は満足そうに微笑み、抱いた。
○○と永琳はある時、里へ買い物に出た。
相変わらず永琳は○○の腕を取って離さず、顔を彼の肩に摺り寄せていた。
行く先々で『旦那さん、奥さん』と呼ばれ、二人の機嫌は異様に良かった。
そんな二人の目に、親子連れが目に留まった。
直後、永琳は震え出し、夫を通りの隅まで引っ張っていった。そして、
「ごめんなさい… ごめんなさい…」
と、静かに泣き始めた。
この時になって初めて、○○は自身が蓬莱人へと変わっていたことを知った。
それは互いに子を成すことが出来ないという宣告でもあった。
彼は、そんな妻を優しく抱きとめ、ずっと一緒にと想いを告げた。
夫の胸に埋めた永琳の顔は、涙と笑顔で綺麗に彩られたのだが、
口の端は僅かに釣り上がっていた。
○○はある時、永琳を抱きしめた。
特別な理由は無く、ただ衝動的に求めただけであった。
永琳をその腕に抱くと、彼の顔から不安が無くなり明るくなった。
抱かれた彼女の顔もまた、独占欲を満たされ明るい笑顔となった。
○○は永琳と共にある幸福と、失う恐怖を自覚していた。
永琳は、○○の心を自分という存在でゆっくりと侵食し、ついに依存させるに至った。
彼女はそんな彼に惜しみなく、偏執的で歪んだ愛情を注ぎ、永遠に幸福でいるだろう。
永遠亭の縁側で○○と永琳は寄り添い、月を眺めている。
最終更新:2011年07月09日 21:20