てゐの憂鬱 ヤンデレが身近に居る日常って鬱だよね
朝、てゐは一通り因幡達に指示を出した後で要人達を起こしに向かう。
その途中で彼女は永琳の部屋の前で立ち止まった。
永琳はモーニングコールの対象外だ。理由は彼女の旦那にある訳だが―――。
中から聞こえる艶のある「朝でちゅよ~」という永琳の声に背筋が寒くなり忍び足で立ち去る。
尚、永琳が旦那と同居を始めて3年になるが、てゐは旦那の姿を見たことが一度もない。
それは鈴仙や輝夜様も同じ事だけどねと、ゲーム機の前で撃沈してる輝夜と輝夜のダチである○○を起こしながらてゐは思った。
昼、てゐは鈴仙と人里その他に配る薬品のリスト等を整理するのに忙しい。
本来は永琳が取り仕切っている仕事なのだが、最近は弟子かてゐに任せっきりである。
別段さぼりと言う訳ではない。新薬開発に忙しいのだ。
睡眠誘導剤ならぬ催眠誘導剤やら、種馬並みの精力を得る精力剤やら。
果てには種族間の分厚い壁を突破できる革新的な排卵誘発剤等々。
尚、永琳が自室という名の新館からあんまり出て来ないのは。
旦那の件だけでなく、それら新薬の手助けを得て授かった赤ん坊の世話もあるからだ。
そこまで考えててゐの背中に冷たいものが流れる。
不死故に後継を欲さず死なないが故に増えもしない月人と地上の民である旦那。
本来なら絶対に出来ない組み合わせで子供を作ってしまった永琳の執念深さが窺える。
輝夜の部屋の前を通る。○○の作ったアフリ系ブログを輝夜と○○が覗いていた。
輝夜でも稼げるものはないかと、○○が作ったそうだ。結局ブログ作成も管理も○○がやっているようだが。
「輝夜~、今度アフゥーのオークションやらない?」「そうねぇ、金閣寺の一枚天井でも競売に出してみる?」何を売るつもりだ何を。
夜、本来であればてゐの安息の時間帯である。
永琳は夜になると新館に篭もりきりになり、輝夜の呼び出しでも無い限りは出て来ない。
日中、本邸と新館を行き交いする永琳の顔を窺いながら仕事をこなすのは大変なのである。
旦那絡みになると更に危険度が上がるので気苦労は尚更だ。
しかし、そんな安息の時間も最近は「てゐ~、ちょっと聞いてよぉ~ねぇねぇ~」
きやがったとてゐは素早く移動し声から逃げる。波長を狂わす酔っ払いほど性質の悪いものはない。
「全く、告白するなら普通にすればいいのに、あの子まで永琳様みたいになったら手に負えないよ……」
どうやら里に住んでいる外来人に片思いし、更に何人かの妖怪達と横恋慕のとっくみあいになっているそうだ。
最初は初心な恋に恋する感じだった鈴仙が、どんどん永琳の纏っている澱んだ粘っこい愛情という名の危険物質に近付いてる様に見えるのは……気のせいだと思いたい。
はぁ……もう、いっそ私もあの二人みたいに病んだ恋愛感情でも抱いてみようかと、自棄を起こしたくなる。そんなてゐの耳に、
「うりゃうりゃ、火の玉でも食らえ~」
「甘いわね妹紅! その程度茸三つの私に当たる訳が……「バナーナ!」」
「きゃああ、何するのよ○○!」「ああ、私も轢かれた!」
「ついでに雷をあげやう♪」「小さくなったぁ!」「そう言いつつ私をスピンさせるな輝夜!!」
「フハハハ、怖かろう!」「くぅ~バナナ!」「バナナ!バナナ!」
隣の部屋から聞こえる陽気なゲームのBGMと騒ぐ三人の声に、てゐは深々と溜息を付いた。
どっとはらい
最終更新:2011年07月09日 22:11