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ティアリア・レインアーク。髪は深い海。瞳は空。
下町でも有名なおてんば娘。
フレンや俺と一緒に毎日いたずらをし、大人に怒られていた。
「アリア……」
久しぶりの幼馴染に想いを馳せる。
――確か俺たちが騎士団に入ったとき以来だから3年ぶりか。
騎士団を辞め、下町に帰ってきたときに見た置き手紙。簡潔に『旅に出ます』とだけ書かれたそれを見たときの衝撃は忘れられない。
「あん時は気絶しかけたんだったか……ハハ……」
青年――ユーリが乾いた笑みをこぼす。
「ひでぇよな、アレは。」
―――旅に出るとしても普通挨拶くらいしていくだろうが……
旅に出る原因を知らないユーリが心の中で愚痴る。
貴族街へ続く階段を昇りつつ、ハァ……とため息をこぼす。
「ってかなんでアイツ旅になんか出たんだ?」
顎に手を当てて考える。
――なんでだ?まさか下町の生活に嫌気がさしたとか…違うな…
彼は知らない。原因が自分たちであるということに。
幼いころから共に過ごしてきた…もちろん年齢差はあったがそれは関係なかった…3人。3人の様子ははたから見れば非常に和やかな光景だったのだが、アリアにとってはそうではなかった。ユーリとフレン、2人は同じ人物、アリアを慕っていた。そして2人は互いに互いをライバル視しあい……
「まっさか外に好きな奴が出来たとか?…………。」
ユーリが立ち止まる。しばしの間の後
「もしそうだとしたら相手殺す。」
普段より何オクターブか低い声で呟いた。
2人は互いをライバル視するあまり、アリアに対し、過度なアタックを数多くしてきた。彼女はそれが嫌で旅に出た…これが真実。
「誰だ…?一体どんな奴が……」
存在しない相手に向けた殺気を放ちながらユーリは階段を上っていく。
「……っと…着いたか…」
唐突に開けた場所に出て、日の光に思わず目を閉じる。
貴族街。下町とはまた違う活気に包まれたそこは貴族街に住む人であふれかえっていた。
「流石……貴族様の住む町は違うねぇ……」
あたりを見回しながらピュイと口笛を吹く。
そのままのんびりとあたりをぶらついていると…
「――――っ!!!」
視界の脇に移った人影に思わず走り出す。何人かにぶつかった気もするが気にしない。
「……っ!!」
「わ……っ!!……ユーリ……?」
目的の少女と目が合う。そして――
「アリア……っ!」
目の前の少女を固く抱きしめる
「アリア…会いたかった……っ」
「ちょっと!?ユーリっ!?」
「よかった…無事で…っ」
もしも、何かの事件に巻き込まれていたら。もし、彼女の身に何か起こっていたら。ユーリは深く息をつき、安堵した。アリアもまた「ふぅ…」とため息をつき…
「此処がどこだかわかってんのか馬鹿ユーリ!!!!」
ユーリのわき腹に、アリアの正拳付きがクリーンヒットした。
「ぐふっ!!」
思わずアリアを離し、その場でうずくまるユーリ。そんな彼から3歩離れ、アリアは続ける
「ばっかじゃないの!?いきなりっ!」
「馬鹿とか言うんじゃねぇよ!こっちがどんだけ心配したと思ってんだ!3年だぞ!?」
しかもあんな手紙だけの別れなんて!!!ユーリが怒鳴る。アリアはそれに耳をふさいだ後
「どうせ言ったら行かせてくれなかったでしょうアンタ達2人は!!」
「もちろんじゃねえか!!!」
「もちろんじゃない!馬鹿ユーリ!3ヶ月で騎士団辞めるとかあり得ないし!」
そのままぎゃんぎゃんと続く口喧嘩。数分が過ぎ、落ち着いたのか肩で息をしながら向かい合う2人。
「……っアリア…ひとついいか……っ!?」
「なに……っ?」
「……おかえり」
唐突な言葉にアリアが眼を丸くする。
「え…ユー…」
「よく俺のところへ帰ってきてくれた!!」
再びの抱擁。
「お前のいない下町があんなに退屈だったなんて知らなかった!アリア!やっぱり俺にはお前が必要だ!愛してる!!」
好きだ!結婚しよう!たたみかけられる愛の言葉にアリアは肩を震わせる。
「……うれし泣きか?やっぱ…ぐふっ!!」
「阿呆ユーリ!!!さっきすこし感動した私が馬鹿だった!!!」
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最終更新:2010年06月24日 01:35