ライオコット島、コンドル島にある塔の上、コンドルスタジアムで行われたアメリカ代表ユニコーンとイタリア代表オルフェウスの試合。
今、試合終了のホイッスルが鳴り響き、得点を示すボードには2-2…つまり引き分けというスコアが映し出されていた。
「のせ君っ!」
随分と聞きなれた声にボードから視線を外す…と同時にドンっと何ががぶつかってくる衝撃。
またか……と思いつつも悪い気はしない。日本にいた時は日常だったから。
「璃斗、苦しいよ」
ため息をこぼしながら衝撃の元凶…いや元凶じゃないな原因か?まぁとにかくそんなものを引きはがす。このままでもよかったけど前から、それと後ろからの視線が凄く突き刺さってきたから仕方なく……ね?
むー…と唸りながらもしぶしぶ引き剥がされてくれた彼女は少し機嫌を損ねたのかむっとした顔でこちらを覗きこんでくる。
「どうしたの?」
人差し指と中指でつん、と璃斗の眉間をつつけば彼女はさらにむっとした顔で
「のせ君少しおっきくなってる……」
前は僕の方が大きかったのに…と続ける彼女に思わず笑いがこぼれる。
「仕方ないだろ?成長期なんだから」
「やだ!なんか癪だもん!」
頬を膨らませた璃斗が拳骨でぽこぽこと叩いてくる。……ごめん、痛くない。
寧ろ微笑ましいな、と暫く何もしないで置くと背後からディランの俺を呼ぶ声が聞こえて。
どうやらマークの機嫌が最低レベルを突破したらしい。ちらりと後ろをみればこちらをじーっと睨むキャプテンの姿が。
そして前方の、ライバルチームのキャプテンも同じように……。
睨むだけで璃斗を連れて帰ろうとしないところをみるとどうやら彼女の意思を尊重しているらしい。
いいチームに出会えたな、そんな兄貴か父親のような…母親役は土門に任せる…そんな気持ちを抱きながら璃斗の黒髪をぽふぽふと撫でる。
「む!子供扱いすんなし!」
「してないよ」
「してる!」
まるで子供のようなそのセリフに苦笑しながら彼女の頬をつまむ。
「さっきのお返し!」
「あう!フィディ君、マーク、ディラン助けてー!」
………そういえば…俺だけ…
「一哉…」
「ふぇ?」
「一哉って呼んだら止めてあげる」
どうして俺はそんなことを口走ったんだろう。
目の前で困惑する彼女の瞳を見つめながら思う。
マークをいじるため?何時もの遊び?それとも………
「っと……かず…や?」
「―――っ!」
結論が出そうとした瞬間呟かれた一言に何故か顔が熱くなる。
どうしたの?とこちらを覗きこんでくる璃斗と目が合わせられない。
目の前にいる彼女は雷門でのクラスメイトで友達で、今はFFIでのライバル。本当に、ただ少し仲のいい友達。……それだけのはずなのにどうして……ポジションが同じだから隣にいることの多かった璃斗。クラスでも前と後ろの近い席、いつも寝ている彼女を起こすのは俺の役目で、でもたまに豪炎寺や鬼道が代わりに起こして、その時はなんだかむっとして……
アメリカへ行って、暫くして璃斗が遊びに来て、マークがだんだん惹かれていってることに気づいた時も……
……そっか…俺……
ストン、面白いようにはまる感情のピース。
ずっと気付いていなかっただけでずっと共にあった感情。
「ねぇ……どしたの…――っ!?」
「な……っ!?」
「お、やりやがった」
「カズヤ!?」
徐々に離れていく璃斗の驚いた表情。唇に残る柔らかい感触。
目をぱちくりさせて驚く彼女にくすりと笑いがこぼれる。
「の……のせ君っ!?」
「一哉。これからはそれでいいから」
つん、璃斗の額に人差し指を立てる。
そのままくるりときびすを返し、土門たちのいる方へ歩いていく。
ディランとマークのあっけにとられた顔を見て、携帯電話を持ってこなかったことを心底後悔する。
――宿舎に帰ったら地獄だな
肩をすくめる土門の表情がそう言っている。
構うもんか、気付いてしまったからには負けたくはない。
「じゃあね!」
何時ものように指を立て、挨拶をする。


――今はこの想いはしまっておこう。君は友達、そしてライバル。
でももしもまた、同じフィールドに立てたその時に、この気持ちを伝えよう。
それまでは友達以上恋人未満、そんな関係に満足していてあげるよ。
……なんてね

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最終更新:2010年07月29日 10:09