あの日々まで届きますように ◆TAEv0TJMEI
東京の夜に輝く赤い満月ねェ。
そいつは嫌なものを思い出させやがる。
何をって?
ドラゴンさ。
東京を――地球を襲ったクソったれなドラゴン共の中には死人を操り、月に擬態するドラゴンがいたんだよ。
ハッ、つまるところ見えている異常なんざまだマシなんだよ。
本当にこええのは外面を取り繕い、心のなかで爪を研いでいる奴らさ。
あの月にも――ムーンセルにも――月の聖杯にも――この戦いの裏側にも。
案外そういうクソ野郎がいやがるんじゃねえか?
▽
窓側にて赤い月を見上げ、とりとめのないことを考えていた俺の耳に、ふと、女の歌声が響く。
それはどこかで聞いたことがあるようでないような歌で。
――紅く染…る 揺ら…世界 7…響く 夢 の終…り――
かつての戦いを唄ったようにも、来るべき戦いを唄うようにも聞こえる、そんな歌。
(七体+αの帝竜たちとの戦いを経て、今度は七騎+αの戦いにランサーとして呼ばれるとは因果なものだ)
思わず顔を顰めるものの、聞こえてくる歌自体はどこか懐かしさを感じさせるもので、悪くなかった。
歌が聞こえてくるのは一階の庭からだろうか。
もっと近くで聞きたいとそう思い、宛てがわれた一室を出て、音を立てないようゆっくりと階段を降りていく。
――紅く…… 揺らぐ…… 7つ……人の 別れ
命枯…て 願い生ま…… ……叶え 夢… 欠片――
歌に誘われるままに歩を進める。
独特な歌詞が繰り返される中、歌もまた進んでいく。
――ああ…… 此処は何処……
何故だろうか、自然と涙が出てきそうだった。
らしくもない。が、仕方がないのかもしれない。
歌なんていう人間の文化に触れたのは、一体いつ以来だったか。
――存在 証明 機械じかけ… ……
人竜になって以来聞かなかったはずだ。
そうなると、ああ、千や万じゃ済まない数えるのも億劫な程の時ぶりなのか。
――あなたが居た 世界…愛してやまない日常 明日を迎え………――
(今の俺はあいつだけじゃない、ネコやダイゴたちもいた頃の俺として現界しているはずなんだがな。
年をとったら涙もろくなるっていうのは本当みてぇだぜ)
苦笑しながらもリビングの扉の前に立つ。
このまま扉を開ければそのまま部屋を通って、窓から庭に出られる。
でもそうする前にもう少しだけ、この歌を聞いていたかった。
――幻想…海…彷徨… 遠いあなた… 唄は 何処?――
久しぶりの人間の肉体に、久しぶりに聞く歌が染み渡っていく。
ただ、だからこそ気付いた。
どれだけ染みわたるように思えども、この歌は俺に向けて歌われたものじゃない。
――何時か貴方が ………… 泣かないで ……… この唄を――
これは彼女にとってのたった一人のために歌われたものだ。
きっと自分がそうだったように、彼女もまたこいつのためならなんだってできるという奴のために命を賭けたのだろう。
記憶の夢で見た彼女の記憶は、どこまでも自身のものと似通っていた。
――………… ただ想う 遠いあなたの …………――
勢い良く扉を開ける。
これはこのまま盗み聞いていい歌じゃない。
彼女にとってのたった一人に届けられて然るものだから。
「あ……」
紫陽花の枯れた庭で歌っていた彼女がこちらに振り向く。
「すみません。勝手にお庭に出てしまって。危険なのは分かっていたのですが。
でも、月をこの目で見ていたくて」
困ったような笑みを浮かべる彼女に、なんと返していいのか分からなかった。
垣間見た夢の中で、彼女は降り注ぐ月の欠片から地球を守るために命を散らしていた。
「そう、か」
「あ、気を使ってくれなくても大丈夫ですから。
月が憎いとかそういうのではないんです。ただ、本当に月が赤いんだなあって。
最初見た時なんて、びっくりしました。タイミングがタイミングでしたから。
月の欠片を壊すつもりで、うっかり月本体にまで悪影響を与えてしまったのかと血の気の引く思いでした」
言われてみれば夢で垣間見た彼女は天然ボケでどこか間が抜けていて。
最強のアンドロイドだということが信じられない、どこにでもいるような一人の人間だった。
「くっくっく……」
「もう! 笑わないで下さい、本当の本当にびっくりしたんですからね!
本当に……本当に、びっくりしました。
砕いたはずの月が真っ赤に輝いていて……、死んだはずの私が生きていて……」
そうだ、このどちらが従者(サーヴァント)なのか分からないメイド服の彼女は本当に、本当に驚いていた。
聖杯戦争に巻き込まれたことにも。意図せず召喚してしまった俺にでもなく。
自分が今なお存在していることに、一番驚いていた。
聖杯に何を願うと問いかけた俺に対して、まずは落ち着くための時間を下さいと言って彼女が一人部屋に篭ったのは数時間前の話だ。
「……願いは、見つかったか?」
「はい……いいえ。本当は見るけるまでもなく気づいたんです。
だって私はそれを願ったからきっとここにいるのですから。
でもそれが、その願いを抱くのが正しいことなのか、私には分からなくて。たくさんたくさん考えました」
そう言って女は自分の胸に手を当てて、少しずつ言葉を綴り始める。
「きっと今の私は幽霊なんです。たった一つの未練からこの世にしがみついているそんな、幽霊。
おかしいですよね、アンドロイドなのに幽霊だなんて。
修理されたと思うよりも、ずっと腑に落ちるんです。ああ、私は幽霊になってしまったんだな、って」
おかしいとは言いつつも、そこにどこか嬉しそうな響きを感じて、俺は彼女の意見を肯定する。
「おかしくねえよ。身体が何だろうが、アンタには意思が……心があるんだ。
化けてだって出られるさ」
幽霊になる。
それは魂があるということ。心の存在証明。
「心……。そうですね、私には心があります。私の心が本当に、心と呼べるのか悩んだ時もありました。
皆さんは私のこと、完璧な心を持っていると言ってくれましたが、それは単なるプログラムでしかないとしたらと」
自分が大切に思っていたものの全てが、組み込まれたものなんかじゃない、自分自身のものだったという証。
「でも、今はこうも思ってしまうんです。単なるプログラムだったならよかったのに、って。
心を持っていてよかったって、やっと、そう思えたはずなのに。なのに……!」
けれど、心があるということは幸せなだけじゃない。
「痛いんです、苦しいんです。叶えたい願いがあります。でも、でも私は、私の願いのために、拳を振り下ろせない!
もしも私みたいにただ、愛する誰かに会いたいだけだとしたら。もしも愛する誰かのために聖杯を求めている人がいるとしたら。
私はそんな人を殺したくありません。誰にも悲しい涙を流させたくないんです」
心があるからこそ辛いこともある。
「だから、選べないんです。前は選べたのに。世界中の命と美里良、自分自身と美里優
女が、泣いていた。
目の前で、女が泣いていた。
ああ、どうしてその涙を拭えずに英雄などと名乗れようか。
「まほろ」
目の前の女の名前を呼んで、そっと、手を伸ばす。
「タケ、ハヤ、さん?」
名前を呼び返してくる女を抱きしめてやることはできない。
こいつは俺の女じゃない。それは優とやらの役目だ。
俺にできるのは涙を拭ってやるくらいだ。
「選ばねぇでもいいじゃねえか。いいや、どっちも選んじまえ」
「……え? で、でも、そんなこと」
まほろの顔に困惑が浮かぶ。
自分と他人を天秤にかけて悩み続けるくらい真面目な奴だ。
そんなこと、考えもしなかったのだろう。
或いはアンドロイドの性故か。
正しい答えを、正しい判断を、これまでは完璧にこなしてきたのだろう。
けれど。それはもう過去の話だ。
「お前は自分のことを幽霊だなんて言いやがるが。
ちげえよ、お前は生まれ変わったんだ。
一度死んで、人間に、生まれ変わったんだ」
たった一つの願いに気づいてしまったから、こいつは完璧(アンドロイド)ではいられなくなった。
「人間なら欲張ってもいいし、矛盾していてもいい。その上すげえぜ、人間は。
不完全だからこそ、成長できる。敵わぬ敵にも勝てるし、叶わない願いだって叶えられるんだ」
完璧ではいられなくなったけど、それが、どうした。
本当に大事なのは完璧であることなんかじゃない。
意思だ。
自分がどうしたいかという意思だ。
不可能に立ち向かう意思だ。
「だからさ、言えよ。
お前の、願いを」
その言葉が、トドメとなった。
「私は……、私は、逢いたい! 優さんにもう一度逢って、ずっと、傍にいたい!」
塞き止められていた想いが、選べずに無理だと諦めていた願いが止めどなく、まほろの口から溢れてくる。
「でも、誰にも悲しい涙を流させたくなんてない!」
相反する願い。矛盾した願い。
どちらかを選んだら、どちらかは成り立たない、そんな願い。
だけどそう願ってしまう2つの想いはどちらも本物で。
その両方が偽物なんかじゃない彼女の心で。
「だったら答えは一つだ。誰にも悲しい涙を流させないで、愛する人の元の所へ帰ればいい。
誰かが決めたシステム通りに人を殺したりしないで、願いだけ叶えちまえ」
その意思を好ましく想い、その心を救ってやりたいとそう思ったから。
俺が、叶えてやる。
俺がこいつの願いを両方共叶えてやる。
「それって、ずるですよね」
「それもまた人間らしいだろ?」
苦笑するまほろに対し、シニカルに笑い返す。
「タケハヤさんは、いいんですか?
タケハヤさんにだって逢いたい人が……」
彼女の言うところの泣かせたくない人には、俺やあいつのことも入っていたのだろう。
今更に気づき、全く、どうしてもこうも俺の周りにはお節介が集まるんだと贅沢な悩みを抱きつつも首を横に振る。
「俺は……俺たちはいいんだ。
人間よりずっと長い時間を共に過ごせて幸せだったから」
だから、今度は、お前の番だ、まほろ。
俺はもう十分に幸せだったから。
今度はお前に俺の時間をくれてやる。
「解き放ってやるよ、まほろ。お前をこの紅い月の聖杯戦争から」
その選択に後悔はない。
胸を張って言い切れる。
「なんたって俺は、正義の味方だからな」
▽
あ? 俺たちはどうなのかって?
そりゃそーか。
片や人の姿をしたアンドロイドで。片や人の姿をしたドラゴンだ。
それでも。
それでも俺たちは人間だ。
納得出来ないって言うんなら、こっから先はアンタらの目で確かめな……!
【クラス】
ランサー
【真名】
人類戦士タケハヤ(タケハヤ シン)@セブンスドラゴンシリーズ
【パラメーター】
通常時:筋力B 耐久C 敏捷B+ 魔力C 幸運C(自己申告) 宝具C
人竜時(狂化込):筋力A+ 耐久B 敏捷A+ 魔力B+ 幸運C(自己申告) 宝具A+
【属性】
中立・善(通常時)→混沌・狂(人竜時)
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
狂化:D(人竜時)
筋力と魔力のパラメーターをランクアップさせるが、 言語能力が不自由になり、複雑な思考が難しくなる。
特に半竜の目覚め時はドラゴンの力を抑えきれず暴走した状態。
【保有スキル】
自己改造:A-
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
ランサーは幼少の頃人為的な天才(Sランク)に改造され、反動で寿命も尽きかけていた。
人竜となった後も無理を上乗せしたこともあり、竜の破壊衝動と肉体の限界に苦しめられることとなる。
魔力放出:A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。
絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。
勇猛:A-
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
ただし、ランサーのそれは自己犠牲が過ぎる面がある。
後述の宝具により狂化時も無効化されない。
戦闘続行:B-
絶望に屈さず戦い抜く意思の力。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、無茶しても生き延びる能力。
ただしランサーは長期戦に向かないため、効果を発揮するには仕切り直しや若干の間が必要となる。
そのため正確には戦闘続行というよりも戦闘復帰能力である。
【宝具】
『立ち向かいし希望の刃(天叢雲剣)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
人類の願いが込められた刀。
真名開放により本来はネコとダイゴとの合体技であるSKY・インパクトを一人で使用可能。
巨大な氷の刃で敵全体を薙ぎ払うことができる。燃費はいい。
尚、間違いなくタケハヤの愛刀だが、彼が人竜となった後は愛した人の手を通して“13班”と呼ばれる英雄たちに譲られている。
13班はこの刀で真竜を討ち一度目の竜との戦いを終わらせたとも伝えられているため、宝具としては13班が使った方がランクが上がる。
『人竜の目覚め(ドラゴン・クロニクル)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
タケハヤの身体に宿している情報キー。
竜の情報を分解し、他の生物や物質に組み込むことができ、この宝具を開放することでタケハヤは人竜と化す。
解放後は最強の幻想種としての能力に加え、若干の再生能力、ランクA+宝具級の威力を誇る超高速スピンなど多彩な技も使用可能となる。
また、攻撃時に結界破壊の判定を得る。
反面、宝具解放後は狂化:Bが付き、徐々に竜としての破壊衝動に飲み込まれていき、マスターへの負担も急激に悪化する。
加えてこの宝具は一度開放すると死ぬ寸前まで解除不能。
令呪や力ずくでの一時的な沈静化は可能だが、それも長くは保たない。
尚、この宝具に関する逸話は全て再現可能である。
『人類戦士タケハヤ』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
その身を竜と化そうとも、彼はどこまでも人間である。
タケハヤをタケハヤたらしめる意思の力。
真に彼を象徴する彼の在り方、生き様が宝具として昇華したもの。
性質としては複合スキルに近いが、宝具なだけあり、非常に多くの効果を持つ。
彼はいかなる判定でも人間として扱われる。彼に対する竜殺し系スキルは、『人間』によるA+以上のもののみ効果を発揮する。
神、魔、竜に対する攻撃の際、多大な補正が入る。
地球の守護者として地球上での戦闘の際耐久に補正が入る。月では本来意味が無いが、再現された東京が舞台なため、補正が最大になっている。
狂化して尚人としての意思をぎりぎりのところで保たせることができる。自らを抑えるに足ると判断した仲間の前では別である。
この宝具は無効化されない。
【weapon】
人類戦士の槍
【能力】
まほろと重なる一度目の人と竜の大戦の姿(セブンスドラゴン2020)で召喚された。
参戦時期自体は死亡後(セブンスドラゴン)なため、そこに至るまでの記憶や能力もある程度は所持していると思われる。
また、死亡直前にドラゴンクロニクルを引き剥がしたため、再度融合するまではSKY時代の姿及びステータスとなっている。
【人類背景】
誰もが彼のことを不幸だと言いました。
親を失い、明日を奪われ、押し付けられたのはできそこないの力。
それでも彼は笑いました。
それなりに幸せだったと。
家族ができ、愛する人ができたのだと。
だから彼は竜に――いいえ、ずっとずっと憧れていた正義の味方になりました。
大切な人たちを守れる、愛する女を救える正義の味方になりました。
そうして彼は路を拓き、戦友を助け、後を託して、眠りにつきました。
自らを刃と変えて、竜を貫くその日まで。
【サーヴァントとしての願い】
まほろを愛する人ともう一度逢わせてやる。
最終更新:2015年01月13日 01:22