少女地獄 ◆lnFAzee5hE
◇
「ねぇ、死神様ってしってる?」
◇
カチ。
シャープペンシルがノックされる音。
カチ。カチ。
私の目の上で芯が伸びていく音。
カチ。カチ。カチ。
目を閉じる。
カチ。カチ。カチ。カチ。
無理やり、目を開けさせられる。
カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。
「しけい」
カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。
や、え
グヂュ。
◇
「では今日は、転校生を紹介します」
都立某小学校――六年二組は、極一般的な小学生の集まった教室である。
つまり、人を殺さず、性交をせず、窃盗、その他犯罪行為には手を出さず、見える範囲でのいじめもなく、生徒全員で授業のボイコットをすることもない。
そんな平和な六年二組に、この時期になって転校生が訪れた。
「えっ、どんな子?」
「かっこいい?」
「女子だろ、俺見たんだぜ」
思い思いに声を上げながら、生徒の誰もが皆、廊下で待機する転校生を盛大な拍手を送る。
手製の打楽器に迎えられて、ざっ――と、音を立てて扉が開く。
「はじめまして――」
息を呑む。
時が止まる。
どのように形容すべきだろう、彼らは皆、十二歳の少年少女でしかなかった。
美しい――たった、それだけのことを表現するだけだというのに、脳髄のどこを探しても彼女を形容するに相応しい言葉が浮かばない。
「蜂屋あいです」
パチ。パチ。パチ。
まばらな拍手が響き渡る。
手を動かす余裕など無かった、それでも彼女に嫌われぬために意識を振り絞って拍手を行ったのだろう。
少年少女の全ては、彼女を瞳に焼き付ける――ただ、それだけのために、捧げられていた。
彼女が微笑む。にこり、と。
担任教師に案内されて、己の席へと向かう。
歩く度に、異邦人を思わせるストロベリーブラウンの髪がゆれる。
匂う。
甘い、甘い、匂いが。
理性を狂わせる毒の匂いが。
教室中の全ての目を奪って、歩く。
誰かが呟く。
「……天使様」
言った本人は、己の発言の後に気づいた後、顔を赤らめ、ぶるんぶるんと首を振った。
だが、それは的を射た発言だったのかもしれない。
神秘学【オカルティズム】が、人に理解出来ぬ現象を仕舞いこんでおくための箱であるというのならば、
彼女という存在もやはり、人に永遠に理解できぬ天使という括りに入れてしまうべきだったのだろう。
彼女が、微笑む。
まさしく、それは天使の微笑みに他ならなかった。
酩酊から覚めたかのように、素面へと戻った少年少女達は天使――蜂屋あいを取り囲む。
転校生とはすなわち、六年二組にとっての異邦人である。
分解されぬ未知は恐怖に他ならない。
質問が飛ぶ、蜂屋あいは笑って質問に答える。
それは、好きなテレビ番組の話であり、好きな本の話であり、好きな料理の話であり――だが、大した話ではない。
ただ、彼女も同じ人間だと確認し、彼女を分解するための取っ掛かりを見つけ、そして彼女を理解していくための必須手順。
そして、蜂屋あいはクラスに馴染んでいき、いつしか転校生であるという彼女の特異性も薄れていく。
それだけの話である。
それだけの、ただそれだけの、つまらない、話。
一週間が、経過した。
蜂屋あいは六年二組に馴染み、六年二組もまた、彼女を受け入れた。
もう時間は残り少ない、それでも一緒に思い出を作っていこう、と。
彼女は微笑んだ。
放課後、夕日は世界を丸ごと焼きつくしてしまいたいかのように紅く燃えていた。
冬だった、あるいは凍てついた世界を否定したいのかもしれなかった。
「……ぐすん」
六年二組、教室の隅、ロッカーに寄りかかって、一人の生徒が泣いていた。
六年の冬、初恋で失恋だった。
彼女は同じクラスの男子生徒に惚れていたが、その男子生徒が他のクラスの女子とキスするのを見てしまった。
燃えるような思いは、失恋の衝撃で彼女の心をどろどろのケロイドハートに変えていた。
彼女とその男子生徒の家は隣同士だった、帰りたくなかった。
排出される涙と一緒に自分もどこかに流れてしまいたかった。
泣く、泣く、泣く、泣く、泣く。
「どうしたの?」
見られていた、元々真っ赤になって泣いていた顔が、さらに赤くなる。
振り返る、涙で視界がぼやけていた。
ただ、目の前の少女が白いワンピースを着ていたことしかわからなかった。
涙を手で拭う、ハンカチが差し出されていた。
ありがとう――そう言えたかはわからなかった、涙と鼻水で声までぐじゅぐじゅだった。
ハンカチで、涙を拭う。
白い、白い、ハンカチ。
「……ありがとう」
今度ははっきりとお礼を言うことが出来た。
「ううん、いいの」
相手は、蜂屋あいだった。
やはり彼女は天使なのかもしれない、と少女は思った。
夕日を背に立つ彼女は――まるで、宗教画のように神々しかった。
「わたしでよかったら、おはなし聞くよ?」
思いがこみ上げてきて――少女はもう一度泣いた。
そして、いかに幼馴染の少年のことが好きだったかを、切々と語った。
蜂屋あいは、何も言わず、頷くだけだった。
話し終えると、もう一度ハンカチを借りるまでもなく、少女はいつの間にか泣き止んでいた。
もう、どうにもならないけれど、吹っ切っていけるような、そんな気がした。
「ねぇ、死神様ってしってる?」
天使の――その言葉を聞くまでは。
◇
死神様は、最近この小学校を中心として広まるようになったうわさ話だ。
その内容はありふれたもので、つまり殺したい人間を死神様が殺してくれるというものである。
少女は、蜂屋あいの言葉を聞いた瞬間、走りだしていた。
「何で気付かなかったんだろ!私、私、私、私、まだ、間に合う!」
恋人がいなくなれば、自分にもチャンスが生まれる――至極簡単な帰結だった。
再び着いた恋の炎が、彼女の倫理観を燃やし尽くす。
殺してでも、愛されたい。
死神様を呼ぶのに必要なものは、死体だ。
猫、犬、虫、何でも良い。
とにかく、死体を十三個集めて、校舎裏にある動物の墓に供え、死神様と三回呟いた後、殺したい人間の名前を大声で三回言う。そして最後に殺して、と叫ぶ。
そうすると、死神様が殺してくれると、そういう噂だ。
何故、死神様という噂が誕生したのか、その由来は明らかになっていない。
だが、飼育小屋のウサギだけに留まらず、とにかく場所に困った動物を埋葬する、この場所が、
あるいは近年、起こっている奇妙な事件が、
または、そのような噂を作り、信じこまなければならなかった程の誰かの憎悪が――そのような噂を作ったのだろう。
死体は全て、虫だった。
首無し死体の方が効力が良いという噂を聞き、首は足で潰しておいた。
少女は虫を嫌っていたが、それ以上に幼馴染を奪った少女が嫌いだった。
「死神様」
自分の恋が叶う、そう考えると人を殺すというのに奇妙な高揚感すらあった。
「死神様」
息が荒くなる、息が荒くなる、息が荒くなる、心臓が高鳴る。
「死神様」
とうとう、言う。
告白の言葉は言えなかったけれど、この殺し文句は確実に言い切る。
「森小春!」
自分から幼馴染を奪った、憎い相手。
「森小春!!」
死んでしまえば良い、私が想像も出来ないような苦しい死に方で。
「森小春!!!」
彼の隣にいるべきは私なんだ!!
「殺してッ!!!!!」
「まかせて」
ぞう――と、鳥肌が立つ。
周囲を見回しても、誰もいない。
しかし、声だけはあったのだ。
それでも、少女は笑った。
「やったあ」
死神様はいたのだ。
翌日、森小春という少女が刃物でめった刺しにされて死んでいた。
しかし、休校にならなかったのは他でもない。
彼女の家族も皆死んでいたために、誰も学校に連絡するものがいなかったからだ。
翌々日、担任教師の訪問で、事件は発覚することとなる。
◇
森家の葬式が終わり、幾日かの臨時休校も終わり、それでも日常には戻れない。
森小春の恋人だった少年は、涙ごと心まで流し尽くしてしまったようだった。
そんな彼を慰めようとする、幼馴染にも何も思えない。
ただ、時間が解決するその時まで、彼は機械のように生活を続ける。
「ねぇ、死神様ってしってる?」
そのはずだった。
隣のクラスの死んだ彼女の机の上に置かれた花瓶、
集団下校のための教室移動の途中で、彼はそれを見るために2分程、ぼう――と立ち止まる。
それを憎々しげに見る隣の幼馴染にも気づかずに。
少年の手を取り、無理にでも連れて行こうとする少女の手を払い、彼はただ、立ち尽くす。
何度かそのやりとりを繰り返した後、少女と共に教室へ向かうはずだった。
その日、少女は風邪を引いて学校を休んでいた。
だから、少年はぼう――としていた。
そんな、少年を見て天使が――蜂屋あいが近づく。
「ねぇ、死神様ってしってる?」
それだけで、十分だった。
少年は、少女の死が発覚する前日、担任教師が朝礼で死神様のことを注意していたことを思い出した。
くだらない噂に踊らされて、命を玩具にするな、と。
何故、忘れていたのだろう。
いや、恋人が死んだのだ――細かいことなど覚えていられるはずがなかった。
それは小学生らしいあまりにも突飛な発想であった。
死神様の儀式が行われていた、だから恋人と家族が死んだ。
あまりにもバカバカしい、イコールで結ばれるはずがない。
だが、彼は真実がどうであれ、それを真実と決めつけた。
何故ならば、彼は少年だからだ。
彼女の仇を取ろうとするならば、自分の手に負える相手でなければならないからだ。
蜂屋あいの言葉に、少年は返答もせずに駆け出した。
死神様を行った犯人を、絶対に見つけ出して――殺す。
ただ、それだけしか考えられなかった。
天使は笑った。
◇
翌日の放課後、少年とその友人達、蜂屋あい、そして少年の幼馴染の少女は橋の下に集まった。
いや、幼馴染の少女に関しては呼び出された――という方が正しいか。
少年の友人達が集まったのは、まさしく正義のためである。
腑抜けていた少年が犯人を探すと言い出した、ならば友人のためにも、そして亡くなった少女のためにも、
そして、どこかワクワクする非日常感のためにも、犯人探し、そしてクライマックスに協力するのが筋というものだろう。
「お前が――死神様を呼んだのか」
「ちがう……私じゃない!」
少女が儀式を行った姿は誰にも見られてはいない、ならば誰もその犯行を特定できないはずである。
しかし、虫を集める彼女の姿を目撃した者は何人かいた。
疑わしきを罰する――例え、幼馴染だといっても、それが全てだ。
重要なのは、犯人が裁かれることだ。
「お前だろ」
「虫取ってたろ」
「謝れよ」
「死ね、ブス」
「そうだ、死ねよ、死神様呼んだんだろ」
「死刑だ」
「死刑」
「しーけーい」
「しーけーい」
「しーけーい」
「しーけーい」
「しーけーい」
「まって」
柔らかな声が、少年たちを止めた。
蜂屋あい――天使の言葉だ。
「魔女狩りって、しってる?」
まるで、童話を語るかのような優しく甘い声だった。
「魔女はみずにうかぶんだってね」
丁度、川の側で、橋の下だった。
行わない理由が無かった。
「わかったよ、俺信じるよ、お前のこと」
「ほ、本当……?」
これほど空虚な信じるもないだろう、それ程に少年の瞳は乾ききっていた。
だが、それを信じなければならないほどに、少女は恐れていた。
魔女狩りという響きを、自分が辿りかねない運命を。
だから、少年の言葉に信じて媚びなければならなかった。
「抑えつけろ」
少年の言葉と同時に、少女は逃げ出そうとした。
だが、少年の友人がまっさきに掴んだのは少女の腕だった。
犬がリードの範囲以上に走れないように、少女もまた囚われた。
「信じるから、川に顔付けろよ……浮かばないように、ずっと、ずっと」
「えっ、ちょっ……」
少年の友人達に抑えこまれ、少女は川の中に顔を沈めることとなった。
息が出来ない、力尽くで抑えこまれているため、顔を上げることも出来ない。
いや、必死に暴れて顔を上げようとすれば、もしかしたら、水から抜けられるのかもしれない。
そして、それは浮く、ということになる。
浮けば魔女で、沈めば魔女ではなくなる。
いつまで息が持つかはわからない、それでも精一杯頑張ろう、と少女は思った。
少年に信じてもらいたい――それだけが望みだった。
あんな女のために、少年に嫌われてたまるか、そう思った。
「ぶく」
「ぶく」
「ぶく」
「ぶく」
「ぶ」
息が、1分も持たなかったこと。
そして、少女はそのために酷く暴れたこと、そこまでは覚えている。
「やっぱ、お前じゃん……死ねよ、ヒトゴロシ」
それ以降は、少女の記憶に無いし、刻み込まれることもない。
◇
蜂屋あいは、人の心の色が見えた。
青く燃える炎の色、蝋燭の炎のようにきらめくオレンジ、そして黒色。どす黒い闇の色。
心が揺れると、その色もそれに合わせてゆらゆらと変わる。
だから、少女は人の心を変えるために――教室を作った。
少女は決して、直接手を下すこと無く、命令することもなく、扇動することで誰かがいじめられ続ける教室を。
しかし、表面上では完璧で優秀な教室を。
小学生の行いではなく、
いや、人間の行いでも無かったのだろう。
彼女は悪魔だった。
天使のような微笑みを浮かべた、悪魔だった。
だが、悪魔はある少女――黒い天使によって、とうとう表舞台へと引きずり降ろされることとなる。
詳細は語るまい、少女たちは戦い――そして、結果は黒い天使の勝ち、ということになるのだろう。
彼女の意思を引き継ぐ者、彼女の作ったシステムを残し、彼女は奈落へと消えた。
闇の中、彼女は紅い月を見た。
そして、彼女は――別のシステムを作った。
死神様――願うことで、好きな人間を殺すことが出来るシステム。
聖杯戦争が本格化すれば、このシステムを稼働し続けることが出来なくなるだろう。
それでも、彼女のサーヴァントと利害が一致した。
彼女のサーヴァントは人を殺したがっている――おともだちを欲しがっている。
彼女はこのシステムによる心の変化が見たい。
「だから、アリスちゃん。わたしたちきっと、いいおともだちになれるわ」
「うん、きっとね」
◇
「きょうのことはぜったいにないしょだよ、バレたら……どうなるのかな」
【クラス】キャスター
【真名】アリス@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部)
【属性】中立・悪
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:C 魔力:A 幸運:C 宝具:E
【クラススキル】
陣地作成:A
魔力及び死者のマグネタイトを利用することで、彼女のための不思議の国(ワンダーランド)を形成することが出来る
道具作成:C
魔力及び死者のマグネタイトを利用することで、トランプの兵隊、偽アリスを生産することが出来る
また、このスキルによって拷問具(アイアンメイデン等)を召喚することが出来る
【保有スキル】
屍体蘇生術:A
彼女は堕天使ネビロスの寵愛を受けているために、屍体を蘇生し彼女のおともだちにすることが出来る。
精神汚染:E
彼女の常識を、人間のそれと思ってはいけない。
単独行動:D
彼女は保護者である魔王と堕天使から離れて、たった一人ワンダーランドで過ごしていた。
【宝具】
『不思議の国のアリス(アリス・イン・ワンダーランド)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:??? 最大捕捉:???
彼女が創りだすは不思議の国の遊園地、女王様は当然アリス。陣地作成スキルによって作り出される遊園地。
完成が進むにつれて、陣地作成、道具作成に有利な補正がかかり、陣地作成ならばミラーハウスやメリーゴーランド、
道具作成ならば、大量のトランプ兵やアリスを生み出すことが出来る。
また、彼女の逸話から偽りの東京内で死者が増えれば増えるほどに、この宝具が完成するまでのスピードが早くなる。
【人物背景】
魔王と堕天使の寵愛を受けた永遠の少女
【サーヴァントとしての願い】
おともだちをつくる
【マスター】
蜂屋あい@校舎のうらには天使が埋められている
【マスターとしての願い】
みんなの心の色を見る
【weapon】
特になし
【能力・技能】
小学生離れした身体能力と知能を持つ。
【人物背景】
人間の心を「色」に例えて見る感受性の持ち主であり、
いじめによってクラスメート全員の心を弄ぶことで「心の色」が次々変わっていくことを楽しんでいた。
【方針】
色を見る
最終更新:2015年01月16日 10:52