桜塚星史郎&セイバー ◆GM1UsJ3g8.
その日、桜が雪のように散っていた。
雪と違うのは、舞う花弁は薄紅色をしていることか。
赤く染まる世界で、二つの人影がある。
二人は『賭け』をした。
当時15歳だった学生服の男は面白そうに微笑んでいる。
その引締った肢体を血に濡らし、桜の木を背後に、とある未来を賭けた。
9歳と幼い少年は何が何だか分からないと言った様子で不思議そうに見て、聞いている。
――懐かしい『記憶』だった。
――あの一年を経るずっと前の、契機である。
男は問うた。
桜がどうして薄紅色をしているか。
少年は首を振る。わからなかった。
間をおいて、丁寧な口調で言葉を続ける。
答えは、桜の木の下には死体が埋まっているからだ。
そして、死体の血を吸っているから桜の花は赤いんだ、と。
少年は疑問を覚えた。覚えた疑問を、男に打ち明ける。
血を吸われる『人』たちは苦しくないのか。
そう、真摯な瞳で投げかけた。
あの瞳。
あらゆるものを許容する絶対的な瞳。
今でも鮮烈に思い出すことができる。
――ああ、懐かしい。
――これが意味するのはなんだろうか。
懐古の念を押しこめ、夜空を見上げる。
今宵は新月の日。夜空を彩るのは自身の名の一部でもある星々の数々。
しかし、文明の発展故に廃れた東京には、星の煌きなど微塵も感じさせない薄汚れた虚空があるはずだ。
なのにどうして、ぽっかりと空いた暗闇の中で紅い月が禍々しくも艶やかに輝いているのだろう。
彼は、噂で聞き及んでいた紅い月の逸話を思い出す。
ならば自分は、あの月に選ばれ、導かれたということか。
途端にまどろみを覚え、混濁する意識の渦の中、彼はぽつりと呟く。
紅い月――。
あの月は『願望』のために、どれだけの屍を啜っているのだろう。
× × ×
死者の魂を目撃するのはもう何度目だ。
墓地やパワースポットなど、霊験あらたかな舞台でなくとも、それらは観測できる。
あまつさえ、カラオケボックスなどという現代的な場でも何食わぬ顔で在住しているのだ。
特にあの少年の隣で、ここ一年数多くの魂と観測したのだ――何を今更と、鼻を鳴らす。
生前の不幸を呪い、未練の体現として顕現することの多い、俗に言うところの幽霊を彼は恐れたことはない。
さもありなん、彼は陽の陰陽師・『皇(すめらぎ)』と対称となる陰の陰陽師・『桜塚護』だ。
幽霊を恐るるどころか、撃退する側の人間である。
死者の遺した感情なんて関係なく、ただ邪魔な『物』を排斥するように術を使役していた。
「そうか」
彼は、眼前の存在を確認する。
目の前の、人型をしたそいつは、有体に言えば幽霊だ。
聖なる杯により再現された、とある人物の過去を元にした復元体。
仕組みこそ異なれど、何も知らぬ人間はそれを、幽霊と呼ぶのだろう。
だが、未練のみで死に永らえていた幽霊と英霊は違う。
たった今この瞬間、彼は、桜塚星史郎は肌で感じ取る。
今まで巡りあったどれとも違う――まさに異質。超凡の名に足る存在だ。
「私を招喚したのは、あなたですか」
一本の三つ編みを尾のように振るいつつ、常世から逸脱した存在はこちらに問う。
制服のような衣装に、宝玉が嵌めこまれた籠手などを身に付けた、風変わりな意匠だ。
風体が小学生さながらの矮躯であるがために、どうにも不釣り合いな気がする――。
反して、それらの装備はまるで彼女のためだけに作られたかのような、奇妙な感覚を覚えた。
「…………」
「…………あの」
「ん――ああ、失礼」
少女の戸惑いに、星史郎は微笑みで返す。
彼の意識は一点に行っていた。
あどけなさが残る幼げな面とは裏腹に、精悍な眼光を放っている。
かつて見た、皇の少年と同じ瞳だ。無垢で素朴で、優しさを秘めた面構え。
「もう一度訊きますけど、あなたが私を招喚したんですか」
少女が再度問うた。
慣れた調子で、しかし引き締めた表情で。
そんな様子をおかしそうに笑うと、星史郎はいよいよ答える。
「そうですね、僕が君のマスターです」
「……そうか、私はセイバーだよ。名前は獅堂光」
セイバーは背を差し伸べる。
僅かな間をおいて、星史郎は手を握り返した。
小柄な体格通り小さな手のひらは、温かな、人間とまるで変わらない手のひらである。
「最優のセイバー、ですか。それは幸運かもしれませんね。よろしくお願いします」
手を放し、ふと自分の手の甲に目が付いた。
自分の手の甲には、一筆書きで描かれたような紅い『☆』印がポツリと滲みでている。
小さく笑みを零す。皮肉と言えば皮肉なものだ。
「それでですけど」
セイバーが切り出す。
「星史郎さん。あなたは、どうしたいんですか」
「……どうしたい、とはどういうことでしょう」
少し、意地が悪いだろうか。
それでも、星史郎はとぼけた調子で訊き返す。
僅かな間をおいて、星史郎の瞳を射抜き。
「つまり、『願い』のために殺し合ったり、するんですか」
セイバーは逃げず、改める。
どこか後ろめたさを感じながらも毅然と振る舞うその姿は、『少年』と重なった。
ああ、と星史郎は確信する。
だとしたら、だとしたら――――こう応えるべきだろう。
「ええ、僕は『桜塚護』……有体に言えば暗殺者です。
理由がなくとも人ぐらい殺しますし、それが自分のためになるというなら、尚更です」
セイバーは悲しそうに目を伏せる。
彼もそうだった。そして彼は、黙し、自らを喪ってしまった。
彼女が、彼と全くの同一であるならば、これからの旅路は彼にとってまるで意味のないものとなる。
だからこそ、見定めなければならない――紅い月が選り抜いた、自らのパートナーの価値を。
「わかった」
セイバーは星史郎と向き直る。
彼女は確と、長身の星史郎を、ひいては空に浮かぶ紅い月を見上げていた。
「誰にも『願い』は否定できないよ。『願い』は誰かの『心(おもい)』の形だから」
『願い』のために生き、死にいった者、殺してしまった者を、セイバーは覚えている。
セイバーもまた、『願い』のために人を殺めた人間の一人だ。
「それでも、『わがまま』なのは分かってるけど――私はもう二度と後悔したくない。
成し遂げる為に、人を殺しても、誰かの悲しみを生むだけだって、分かってるから」
故に悩み、悔み、泣いた。そんな過去(でんしょう)がある。
だからこそ、セイバーは続ける。
「私はサーヴァントとしての『使命』を背くことになるかもしれない。だけど私は誰かを犠牲になんてしたくない!!」
サーヴァントとしては異端な在り方だろう。
英霊としての格を宿す者は、その身を血に染めたものは多い。
何かのために戦い、争ってきた。他者の犠牲を前提にしないサーヴァントは珍しい。
同時に、柱を殺める為の伝説・『魔法騎士(マジックナイト)』としても、外れた存在である。
セイバーの英霊たる由縁は、騎士だからでもなく戦士だからでもない。
彼女は思いの力で世界を救った――救世主・『獅堂光』なのだから。
「『心(おもい)』、ですか。なるほど」
星史郎はセイバーの意向に耳を傾ける。
しばしの吟味の後に、――彼は言う。
「僕は君の言うような、悲しみなんて僕には分からない。
僕は生れてこの方、誰かに対して特別な感情を抱いたことがない。勿論、誰かを殺したとしてもです」
表情が曇るセイバーを傍目に、星史郎は過去をなぞるように告げる。
「それではセイバーちゃん、『賭』をしましょうか」
「賭け、ですか」
「ええ、これから私はしばらく様子を見ます。
あなたの意向を尊重すべきかどうかを――殺さないでいて、何かが変わるかどうかを」
ああは言ったものの、急な提案に戸惑いを隠せないセイバーは、どうして、と問う。
彼女の知る『願い』は、その人の命を賭してまで思い続けるものが大抵だった。
だから、『願い』によって招かれたマスターが、こうも簡単に方針を変えるとは、正直考慮していなかった。
困惑したセイバーに、星史郎は優しく応じる。
「あなたが僕と正反対だからですよ」
かつて、『少年』に対してそうしたように。
「今度こそ、あなたが僕の『特別』になるのなら、僕は変われるのかもしれない――」
かつて、『少年』に対して期待したように。
桜塚星史郎はセイバーに滔々と語る。
あの時は、初めての目撃者だからこそ――。
今度は、紅い月が仕掛けたサーヴァントだからこそ――。
試しに遊んでみる価値は、あるのかもしれない。
「うーん……、よくわかんないや」
セイバーは正直な所感を述べる。
星史郎の言葉通り――彼女と彼は正反対の性質の持ち主だ。
理解しがたくても、ある種当然と言えよう。
「でも」
それでもセイバーは、星史郎の瞳を捉え続けた。鈍く輝く左目と、空虚に輝く義眼を。
「約束する。私はあなたの『特別』になる」
星史郎は表情を変えずに、その言葉を受け入れる。
そんな様子を窺いつつ、セイバーは言葉をつづけた。
「だって、『特別』な人がいたら頑張れるし、残された人たちを思う気持ちは芽生えてくるから」
彼女にはかつて仲間がいた。
同じ『魔法騎士(マジックナイト)』の龍咲海と鳳凰寺風。
それに導師(グル)のクレフをはじめとする異世界の住人たち。
彼女たちが支えてくれたからこそ、セイバーは救世主たるほどの偉業を成し遂げられた。
彼女たちを通じて、『特別』な人を喪う気持ちを知った。
その気持ちを、マスターである桜塚星史郎にも知ってほしい。
誰も『特別』な人がいないだなんて、そんなのとっても寂しいから。
「きっと、約束を果たしてみせます」
「ええ、期待してます」
星史郎の励ましを、セイバーは首を振って受け取らなかった。
「違うよ。あなたも一緒に」
セイバーは最初そうしたように、もう一回手を伸ばす。
きょとんとする星史郎に向け、セイバーは微笑みかける。
「私一人じゃ何にもできないから、一緒に頑張ろう」
「……そうですね、頑張りましょう」
そういえば、ずっとあなたは人を頼りませんでしたね。
星史郎は内心で独りごち、もう一度手を握り返す。それから――。
「やっぱり昴流くんとは違いますね」
「どうしたんですか?」
小さく漏らした言葉を、セイバーは聞き返す。
星史郎は小さく頭を振る。
そして一歩、歩きだした。セイバーもまた、その隣をついていく。
「いや、なんでもないですよ。行きましょう」
ここは――この地球でたったひとつ、滅びの道を楽しんで歩いている都市。
桜塚星史郎はおかしそうに笑みを作り、セイバーの隣を歩いている。
【クラス】
セイバー
【真名】
獅堂光@魔法騎士レイアース(漫画)
【パラメーター】
筋力D++ 耐久C 敏捷C 魔力B++ 幸運D 宝具B+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:B
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:A
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
魔法騎士:A
魔法騎士(マジックナイト)の伝説が色濃く残留したセフィーロの加護、特質を強く受ける。
いかなるクラスで顕現しようとも魔法を使いこなすことができたり、心次第でパロメータが上昇したりすることが挙げられる。
魔力放出(炎):
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。
絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。
【宝具】
『心象風景(エスクード)』
ランク:B++~EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
魔法の国・セフィーロにおいて伝説とされたエクシードという鉱石から錬られた剣。
何よりの特色は、心次第でこの剣は形を変え、徐々に成長していく点にある。
使わない時は手の甲の籠手に仕舞われる。また、獅堂光以外が使おうとしても炎と化し握ることさえ叶わない。
『魔神・輝きの庭(レイアース)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:40~90 最大捕捉:百単位
前述の『心象風景(エクシード)』を鍵として起動する、簡単に言うと巨大ロボット。
ただし、今回彼女はセイバーのクラスで顕現しているため、この宝具を使えるかどうかは不明。
しかし、剣を使っているといえば使っているので聖杯次第かもしれない。
【weapon】
宝具である『心象風景(エスクード)』
及び、保有スキルの加護を得て、魔法も使うことができる。
魔法などの描写はアニメやゲームを参考にするといいかもしれない。
【人物背景】
社会科見学で東京タワーを訪れていた際に、龍咲海、鳳凰寺風と共にセフィーロに招かれ、魔法騎士としてセフィーロを救うこととなる。
その道中、東京は常に『帰るべき場所』として思い描かれていた。
紆余曲折あり、獅堂光らは無事に魔法騎士としての定めを成し遂げたが、
その戦いにおいて彼女たちは消えない精神的な傷を負うこととなる。
その後、一度東京へ帰した彼女たちであったが、再び何者かにより誘われ、セフィーロへ降り立つ。
かつての後悔を踏まえ、獅堂光ら魔法騎士は自分のために刃をふるう。
そして真の意味で救世主となった彼女は、英霊としての格を宿し、この聖杯戦争へと招喚される。
【マスター】
桜塚星史郎@東京BABYLON
【マスターとしての願い】
描写なし
【weapon】
目立った武器はないが、札や式神を使うことがある
【能力・技能】
『桜塚護』としての陰陽師の能力。
本編ではおよそ底知れないものとして描かれている。
しかし、強力な術であるほど、『逆凪』という反動・副作用が大きい。
本編では動物に肩代わりさせることで、難を逃れていた模様。
また、実質的な続編である『X』では、『東京BABYLON』よりもはるかに好き放題やってる。参考になるかもしれない。
【人物背景】
暗殺集団(という建前の)『桜塚護』に属する男。
15歳の時に肉親を殺し、正式な『桜塚護』を襲名する。
彼にはおよそ、人としての感情が希薄で、何かを殺すなどと言った行為に躊躇がない。
1年間、皇昴流と共に生活し、そういった感情を身につけようとしてはいたが、本人いわく駄目だったようだ。
なお、桜塚護としての彼を知るには、続編の『X』を読むといいかもしれない。
【方針】
『賭け』の結果次第
最終更新:2015年01月16日 10:59