佐々井夕奈&ランサー ◆devil5UFgA
――――かつて、銀は月からこぼれ落ちた雫を集めて作られたと言われてきた。
それは現実とは異なる美しい夢物語として伝わり、いつの間にかお話の中だけの世界として消えていった。
どんな願い事も叶うという不思議な銀の糸。
古来より、月はそう言ったものだった。
夜にだけ姿を見せ、妖しく白銀に光る月。
それに恐怖を抱き、同時に、超越者としての願望を抱いた。
不可思議な銀、人を殺す刃と同じ色。
そんな銀へと、人は幻想を見た。
ならば、紅はなにから生まれたのであろうか。
人の源であり、人が忌み嫌う色。
人が飾り立て、人を人たらしめる色。
朱い月よ、かつて繁栄を誇った異星の王よ。
紅い月よ、幻影を照らしつける偽りの月よ。
お前たちは、何を示す。
お前たちは、何を落としてこの朱紅を創りあげた。
お前たちは、お前たちは……なぜ、我らに希望を与えのだ。
◆
ランサーのサーヴァント、クイーン・ミラージュは目を覚ました。
小さなソファーで眠っていた彼女は、ソファーに脚と腰をかけ、上半身を床に投げ出した状態だった。
鏡が見える。
吊るされた女としてランサーを映し出すはずの鏡は、彼女を正しく映していた。
吊るされた女の逆位置だ。
この歪んだ鏡こそが、彼女の宝具なのだ。
浅い眠りだった。
思えば、自らが怪物となった瞬間から、少女の頃を夢で見続けていた。
彼女は常に怪物として観測されている。
少女であり、英雄であった頃の彼女はすでに消え去っている。
どのようなことがあっても、余程の例外でなければ。
彼女は『光の戦士・キュアミラージュ』ではなく、『災厄の女王・クイーンミラージュ』として顕界する。
特上のスキルランクを誇る無辜の怪物によって、己が精神すらも時を止めて。
「……」
人々が、ムーンセルが、世界が焼き付けた少女の姿。
それは世界を災厄の渦に貶めた罪の姿であり、強烈な乾いた願いの末路だった。
失われた愛から生まれる悲哀と憎悪が、彼女を焚き付けていた。
鏡を見る。
そこには、歪んだ己が映っていた。
「起きましたか、ランサー」
ランサーのマスターから声をかけられる。
マスターは長い、銀のように薄い色素の髪をしていた。
瞳は充血しているかのように赤みがかっていた。
古めかしい給仕服を身に纏っている。
ランサーはその少女の内に眠る狂気に気づいていた。
自らのものと、同質だったからだ。
裏切りから生まれる悲哀と憎悪、マスターとランサーが共有している感情は、まさしくそれだった。
銀の紐を握っていた。
少女の運命を弄んだ、願望器だった。
ふと、鏡を見た。
鏡は、『災厄の幻影<ディープ・ミラー>』は、ランサーの宝具であった。
そこに写されるものは災厄が現実を蹂躙する、最悪の未来。
彼女は鏡から力を引き出し、人々を自らが使役する『最悪の災厄』の化身へと変える。
世界を侵食する、災厄の力だ。
「貴方の夢を見たわ」
「……そう」
瞬間、マスターである少女、佐々井夕奈から柔らかな色が消えた。
若くして洋食屋を切り盛りする落ち着きと溌剌とした雰囲気を併せ持つ少女の顔が消えた。
憎しみに色を染めた顔だった。
妹を憎む顔。
己の恋人を奪った裏切り者。
その恋人すら、歪んだ願望器によって妹が呼び寄せた、己の幸せとは異なる幸福を呼び寄せた裏切り者。
憎しみ。
募り始める、憎しみ。
「貴方の願いは、あの夢を消し去ることかしら」
「願いなんてないわ」
唾棄するように、夕奈は言った。
願いに、夕奈は弄ばれた。
己の心のすべてを、弄ばれた。
そこから生まれる強烈な、願望器に対する嫌悪。
ここに来る前、夕奈は妹に裏切られた。
己の愛した男性を、妹に――――
願いを叶える、父母の形見を持った妹に――――
誰よりも愛した妹に、裏切られた。
願望器に、裏切られた。
だから、夕奈はここに来るまで、裏切り者への殺意と同時に、考え続けた。
願望器を破壊することだけを考えて。
運命を弄んだ願望器の嫌悪だけを抱えて。
己以外の全てを憎んで。
それが、憎み続ける願望器――――銀の糸によって捻じ曲げられた想いだとしても。
憎み、憎み、憎み。
その結果、彼女の憎しみは巨大な願望へとなった。
願望は、紅い月に観測され。
彼女は紅い月を観測した。
故に、彼女の願いは、願いを侮蔑すること。
願望器にすがった裏切り者を、侮蔑すること。
「強いて言うなら……死んでいく人の前で、肉を吐き出したいわ。
母から教わったように、ゆっくり、噛み続けるんです。
ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと咀嚼して――――まずそうに吐き出すの」
裏切り者の肉を口に含み、吐き出す。
お前の肉は、そう言ったものだ。
栄養にする価値もない、生命の円環の中にすら存在しないものだと。
そう宣言するために、吐き捨てるのだ。
「聖杯を手に入れて、聖杯に唾を吐きかけてあげるの」
「……」
「万能の願望器、軽々しく願いを抱いたあの裏切り者の全てを否定してあげたいわ」
空虚な瞳のまま、頬を釣り上げた。
憎しみだけに囚われていた。
だのに、願望器の欠片である銀の糸を手放そうとしなかった。
「死んでも許してあげない」
「……いいわ、マスター。幸い、私にも願いがない」
「あら」
そうだ、願いなどない。
ランサーの裏切り者は、裏切ったランサーの幸せすらも願っている。
ならば、幸せになどなってやらない。
私<ミラージュ>を愛していないくせに、私<人>を愛している神。
その全てを、あの青い星を蹂躙してやり。
最後には、自分が不幸になってみせる。
「愛は幻」
「幸福は仮初」
「望むものは『私から生まれるもの』じゃない」
「私達から捨てられるものが、裏切り者の苦しみを生みだすのなら」
「私達は、願いを唾棄する」
少女たちは、思わず笑った。
少女たちの純な想いは、捻じ曲げられ、怪物となった。
銀の月が落とす雫の塊は、仮初の願望。
紅い星が落とす雫の塊は、偽りの憎悪。
【クラス】
ランサー
【真名】
クイーン・ミラージュ
【パラメーター】
筋力B+ 耐久C 敏捷A+ 魔力A 幸運E 宝具B
【属性】
混沌・悪(秩序・善)
【クラススキル】
対魔力:A
旧神から授かった力と、星神から与えられていたかつての力の残効によって、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
【保有スキル】
無辜の怪物:A+++
生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられなった怪物。能力・姿が変貌してしまう。
このスキルは外すことができない。
かつて人知れず地球の対惑星を支配する旧神の脅威から人類を救ったプリキュアではありながら、
恋慕と憎悪の果てに地球という星を『最悪の災厄』という旗を翳して地球の半分を征服した『災厄の女王』クイーン・ミラージュ。
彼女はもはや最悪と災厄の代名詞であり、プリキュアとして召喚されることはない。
星神の加護:-(A+++)
今なお輝く青い地球の神、ブルーから授けられた光の戦士へと変身するためのスキル。
神の愛を受けたミラージュは、かつて人類最高のスキルを誇っていた。
しかし、無辜の怪物スキルによってこのスキルの効果を発揮することが出来ない。
旧神の宣託:A(-)
もはや失われた赤い星の神、レッドによって授けられた憎しみという神託。
憎悪の神であるレッドに選ばれた巫女であるミラージュは憎悪を力へと変える。
ミラージュの本来持ち得る穏やかで慈悲深いミラージュをミラージュたらしめる精神性が反転している。
【宝具】
『災厄の幻影(ディープ・ミラー)』
ランク:B 種別:対星宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:上限なし
最悪の災厄によって星を蹂躙するための鏡。
その正体はかつて滅びを迎えた朱い地球の神、レッド。
ミラージュを誑かした赤い星の神、レッドのアバターとして再現されている。
ミラージュの憎悪が歪んだ時、ミラージュの憎悪を呼び覚ますように動き続ける。
ミラージュの姿を常にハングドマンの逆位置として映し出す。
<吊るされた男・逆位置>
徒労、痩せ我慢、投げやり、自暴自棄、欲望に負けるの意。
【weapon】
自らの憎悪の暗黒を邪なる力へと変換させることが出来るミラージュ。
その力をコントロールする王翦が兵装だが、刃物としても扱うことが出来る。
【人物背景】
世界を救うために神の愛に選ばれた存在、光の戦士プリキュアであった少女。
失われた赤い地球を支配する憎悪の神との戦いを続けていく内に、少女は神へと愛を抱くようになった。
しかし、神は神であるために人である少女の愛を受け入れなかった。
そこに生まれた哀しみを、倒したはずの憎悪の神によって付け込まれることとなる。
この瞬間こそが、光の戦士を災厄の女王へと変えた瞬間であった。
届かない愛を憎悪の神に誑かされた彼女は、狂気に侵される。
その狂気の激しさと危うさがために、己が愛した神によって封印されることとなった。
三百年の間、彼女は失った愛の悲しさと抱いた憎悪の激しさに泣き続けていた。
世界各国を『最悪』の名を冠する災厄によって蹂躙し続けた。
自らの幸福すらも願っておらず、かつて愛を捧げた神が愛する地球を破壊するためだけに
【マスター】
佐々井夕奈@銀色・完全版
【マスターとしての願い】
裏切り者への復讐
【weapon】
全ての願いを歪んで叶える銀色の糸を持っている。
【能力・技能】
夕奈は特殊な技能を持たない普通の少女だった。
銀色の糸によって、弄ばれただけなのだ。
【人物背景】
父母を亡くした佐々井夕奈は妹とともに形見となった洋食屋『佐々井亭』を切り盛りしていた。
しっかりとした性格で、残された肉親である妹を大事に思っている。
女手で父が遺した店を切り盛りする夕奈を手伝う妹の朝奈。
そんな日々に忙殺され女としての幸せ、即ち色恋に無縁になってしまっている姉を想うあまり母から託された「銀糸」に願いを掛けてしまう。
願い通りに、店に来客した青年、鍋島志郎を意中の人として夕奈は思慕を募らせていく。
だがどんな願いも叶えてしまう「銀糸」の負の力により夕奈は豹変してしまい、姉妹の関係は取り返しの付かない結末へ向かっていくのだった……
【方針】
彼女たちは憎しみに囚われている。
しかし、彼女たちを囚える憎しみは愛から生まれたものなのだ。
最終更新:2015年01月18日 15:52