ナンシー・リー&セイバー ◆devil5UFgA
大通りに面した喫茶店の中に、二人の男女が居た。
一人は金髪のコーカソイド女性。
一人は簡素なブレザー型制服を身にまとった女子高生。
コーカソイド女性記者のインタビューだった。
内容は、『紅い満月』の話。
記者の言葉を信じるならば、オカルト雑誌への持ち込みのための取材だ。
「つまり、紅い満月の噂はもうクラス中に広まってるのね」
アナログな録音機をテーブルに置いたまま、記者と名乗ったコーカソイド女性はコーヒーに口を運ぶ。
コーヒーで喉を潤す記者の優雅な動作に、取材対象である女子高生はハッと息を呑む。
金髪をアップにして、その髪を華美なカンザシでとどめている。
レディーススーツに身を包んでも隠し切れない女性的な豊満な肉体。
ともすれば下品にも移る姿は、しかし、その記者――――ナンシー・リーの内から溢れる情熱によってかき消される。
瞳から社会正義熱とも呼ぶべき情熱を溢れさせるナンシーの視線を真っ向に受けて、女子高生は小さく頷いた。
「みんな噂してます。中には、天体観測みたいなことしだした友達もいますし」
「天体観測?」
「夜に集まって、お菓子とか食べるだけです。みんな本気にはしてないんです」
「……そう」
ナンシーは額に指を当て、少しの時間だけ思案する。
そして、その思案に答えが出たのか、席を立った。
真っ直ぐに卓上の伝票に手を掛ける。
「ありがとう、雑誌に載る際に一度私のアカウントで知らせるから、今回の件で問題があったら連絡してきて」
そう言ってナンシーは伝票を手に取り、代わりに名刺を一枚、テーブルの上に置いた。
ペコリ、と女子高生は一礼し、ナンシーは微笑んだ。
会計を済ませ、喫茶店を出るナンシー。
一度だけ、店内を見渡し、足早に大通りの中の民衆へと紛れ込んだ。
「サーヴァントの気配は?」
ナンシーは自らにしか聞き取れない程度の音量でつぶやく。
誰も彼もが早足で、ナンシーのことになど気にも留めない。
いや、少々ではあるが、好色な視線がナンシーの肢体を舐めるように浴びせられていた。
『異常はありません。
ただ、この人混みの中で襲ってくるとすれば、搦手に秀でたキャスターかアサシン。
気配察知の特殊スキルを持たない『僕たち』では、対応が遅れるます。
マスターも気を抜くことのないようにしてください』
幼い声色の硬い口調で念話が送られる。
念話を送った相手は自らのサーヴァントであるセイバーであり、その中の一人の『魔法の派』だ。
LAN直結とは違い、しかし、肉声による会話とも違う奇妙な感覚。
ナンシーはどこか背中にむず痒さを覚えながら、その言葉を受け入れた。
警戒に置いては魔術に造詣の深い『魔法の派』が最も優れているだろう。
ナンシーは自らのサーヴァントの言葉通り、警戒を怠らずに気を張り詰める。
「今は『魔法の派』のまま、警戒を続けて」
ひとまず、自室へと戻り、聖杯戦争の根幹であると思われる『紅い満月』に対する取材データをまとめよう。
◆
「……」
ナンシーは女性向け高級マンションの自室から東京を眺めながら、思案にくれていた。
ここは東京。
恐らく、全盛期の電子戦争が行われずに十数年の幾月が流れたという『シチュエーション』で再現された空間。
煽るように、ミネラルウォーターを口に運んだ。
中級層でもある程度の嗜好を我慢すれば、オーガニック水を浴びるほどに飲んでもお釣りが来るような経済社会。
ある種の理想郷とも言える。
しかし、社会の悪は残っている。
据え付けのテレビを起動させると、大企業の不正や政治家の悪政を報道している。
しかも、その報道もまた指向性を持って歪められている。
ネオサイタマと比べれば楽園とも言えるが、しかし、そんなことに意味は無い。
悪は正されなければいけない。
社会悪はこの『シチュエーション』内の東京にも残されていた。
「マスターもいい物、飲んでるね」
そんなナンシーに、一人の少女が語りかけた。
「貴方も飲む? 剣術の城も、魔法の派は要らないって言ったけど」
「剣術の城は固くて、魔法の派は根暗だから」
ケタケタと笑いながら、金髪の少女はナンシーと同じくミネラルウォーターを口にした。
髪色を除けば、先ほどの女子高生となんら変わりのないような少女。
しかし、この少女もまた英霊、人類の規格外存在である。
最優のサーヴァントとも呼ばれるセイバークラスの英霊だ。
と言っても、この聖杯は少々通常の聖杯とは異なる。
セイバーであるからといって、他のサーヴァントと比較して優秀であるとは限らない。
「この時間帯って面白い番組やってねーなー」
セイバーはソファにドカッと座り込み、据え付けのテレビを見て不満気にこぼした。
どちらがこの部屋の主かわからない姿に、思わずナンシーは苦笑がこぼれた。
しかし、咎めはしない。
まだ短すぎる付き合いではあるが、この少女が言動とは裏腹に優れた存在であることはわかっていた。
もしも、この状態で急襲が行われても、安定したその実力で落ち着いて対応するだろう。
「ん」
ザッピングしていたセイバーであったが、急に言葉を漏らした。
取材データをまとめていたナンシーはセイバーへと声を投げかけた。
「どうしたの?」
「何か、剣術の城が変われってさ」
「……いいわ、変わって」
「はいはーい」
のんきな顔を
0と1のノイズがセイバーの身体を包み、その姿を変えた。
長い金髪は短く切り込んだ短髪に。
女性らしい柔らかさを感じられた肉体は、硬さと青さを持った少年のそれへと。
セイバー――――アーサー王・技巧の場が剣術の城へと姿を変えたのだ。
「マスター」
「なにかしら、セイバー」
開口一番、剣術の城はナンシーを鋭く見据えた。
ナンシーは目を逸らすことはしなかったが、しかし、冷や汗をかく程度には威圧感を覚えていた。
やはり、英霊とは――――ニンジャ。
系列こそ違えど、本質は同じだ。
超常者なのだ。
「技巧の場も、魔法の派も、アレでブリテンの安寧を願っている。
百万人のアーサーは全て、そのために名前を捨てた」
「そう」
ナンシーは息を大きく吐き、剣術の城と向かい合う。
金髪碧眼をした剣術の城は、幾分も幼い。
青年というよりも少年と呼ぶべき姿だ。
しかし、ナンシーを見据える碧い瞳は何層にも重ねられたカタナのように鋭かった。
「我々に個はない、なるべきものが王になれば良い。
『アーサー』とはそういうものだ。
嫌な言い方になるが、一つの機関。
マスターが召喚した通り、アーサーとは、すなわち我が宝具である『王の器』なのだ」
アーサー王は一つの定形を持たない。
正確に言えば、『アーサー王伝説』を一人の『アーサー王』が成し遂げたと認識しているナンシーでは一つの定形に留めることが出来ない。
かつて、ブリテンに外敵が現れた。
外敵は強力であり、また、内部で完全に一つとなっていなかったブリテンでは対応できなかった。
そのために、時の魔術師、マーリンは王を求めた。
王を選定するための剣、エクスカリバー。
その剣を抜いたものこそ、『外敵』との闘争を指揮するにふさわしい人材であるとしたら。
しかし、エクスカリバーを抜いた存在は――――百万人にも及んだ。
結果、アーサー王は百万人のアーサー王となり、伝説を創りあげた。
その結果こそがナンシーの召喚したセイバーのサーヴァント、『アーサー王』の正体だ。
このアーサー王は一人であり、一人でない。
複数で存在することは出来ないが、一つの『器』に複数の存在から選定してダウンロードすることが出来る。
「マスターもこの選定の剣に誓え。
決して、ブリテンに害を成さないということを」
「誓わなければ」
「マスターを殺すか、あるいは拘束した上で自害をする」
正面から切り込んでくるその言葉に、ナンシーは微笑した。
少年王の鋭さが心地よかった。
「安心して、私は貴方の理想と相対することはないわ」
「……」
「ただ、誓うことは出来ない」
カチャリ、とセイバーの剣が翻る。
ナンシーの喉元に、すっ、と血が伝った。
「相対するときは、私の理想と貴方の理想が違った時だけ……こちらも、全力で殺しに向かわせてもらうだけよ。
だから、貴方の剣には誓えない。
私の誓いは、私の信念にだけ捧げられているわ」
セイバーはナンシーに鋭い眼光を浴びせ続け――――やがて、破顔した。
少年らしい、穏やかな顔だった。
そして、ゆっくりとソファーに座り込み、話を変えた。
「ブリテンには様々な奴がいた。
剣ではなく、バカみたいな鈍器を持ち歩いている騎士も居た。
誰もが『外敵』との戦いに必死だった」
「それ、ランスロット? ガラハッド?」
「ガウェインだ。カエルのような鎧を着た、フザけた騎士だったよ」
言葉とは裏腹に、セイバーの顔は柔らかかった。
貶しているわけではないのは、その顔で容易に察することが出来た。
「そんな奴らばかりいる国だ、誰かの思惑によって弄ばれることが我慢できなかった」
その声色には、ナンシーにも明かしていない色が感じ取れた。
ナンシーは追求しなかった。
セイバー自身から聞かされた、アーサー王の出生の秘密からすると。
セイバーもまた、己の存在意義を創りあげた存在に弄ばれたのだろう。
そして、自身と同じく、そこから立ち上がったのだろう。
「衝動ね」
「衝動……?」
それを、ナンシーは『衝動』と称していた。
かつての赤黒のニンジャのように、言語化の難しい、魂から生まれ出てくるものだ。
「社会正義の衝動よ」
「社会正義?」
「人々が創りあげた社会を、個人の思惑で壊し、隠蔽されることは許されるものではないわ。
その社会正義の衝動が、貴方に剣を抜かせたのね」
自室の窓から紅い満月を見上げながら、ナンシーはつぶやいた。
その瞳には、決して絶えることのない社会正義の熱があった。
己を薪にして、燃え上がる社会正義の炎。
【クラス】
セイバー
【真名】
アーサー王@実在性ミリオンアーサー
【パラメーター】
筋力D~B+ 耐久D~B+ 敏捷D~B+ 魔力D~B+ 幸運D~B+ 宝具A
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
全てのアーサー王は、選定の剣によってランク:Cに値する対魔力スキルを与えられている。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
アーサー王は、選定の剣によってランク:Cに値する騎乗スキルを与えられている。
【保有スキル】
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を"感じ取る"能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
アーサー王は、選定の剣によってランク:Cに値する直感スキルを与えられている。
魔力放出:C
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
アーサー王は、選定の剣によってランク:Cに値する魔力放出スキルを与えられている。
カリスマ:E~B
軍団を指揮する天性の才能。
全てアーサー王は、選定の剣によってランク:Eに値するカリスマスキルを与えられている。
下限としてのランク:Eであり、アーサー王の個体によっては高いカリスマスキルを所持している。
【宝具】
『選定の剣(エクスカリバー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
百万本存在する、王を選定するための聖剣。
引きぬいたものを『アーサー王』とし、引きぬくことの出来なかったものを『民』とする。
アーサー王を選定するためだけの剣であるが、それ自身も相応の神秘を宿した聖剣である。
『王の器(ミリオン・アーサー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
百万人のアーサー王が成し遂げた伝説。
その伝説を、一人のアーサー王という絶対存在が成し遂げたと改変されてしまった逸話型の宝具。
『サーヴァント・アーサー王』という器に、百万人のアーサー王の一人だけが顕現することができる。
ナンシー・リーは、アーサー王の中でも高いステータスを持つ剣術の城・技巧の場・魔法の派の三人を好んで顕現させている。
【weapon】
聖剣エクスカリバー。
選定の剣ではあるが、それ自体も優れた聖剣である。
【人物背景】
四方を海に囲まれた大地ブリテン。
ここは内戦と外敵の襲来により混迷を極めていた。
そこで国を救う真の王を見極めるため、エクスカリバーという名の剣を抜く試練が与えられた。
剣に選ばれし者こそ真の王アーサー。
だが、選ばれた者は――――100万人にも及んだ。
それはアーサー同士を競わせ不要な人材を淘汰し、本当の意味で国を統治できるアーサーを選ぶ計画だったのだのだ。
【マスター】
ナンシー・リー@ニンジャスレイヤー
【マスターとしての願い】
社会正義。
【weapon】
【能力・技能】
指折りのハッキング能力を所持しており、そのハッキング能力で重ねた罪による懲役は推定で数百年規模のものとなる。
かつては違法薬物を用いることで体内LAN端子を用いずとも無線アクセスを可能としていたが、現在は不可能。
【人物背景】
ニンジャスレイヤーと共同戦線を組むフリージャーナリスト。
過去にカルト教団に潜入した際、ハッカーの修行をしたこと、さらに違法電脳サイバネ手術を受けたことにより、ニンジャスレイヤーと出会った時点でテンサイ級のワザマエを持つハッカーでもあった。
その技術を生かしてハッキングやトラップ解除、情報収集・解析などの分野でニンジャスレイヤーをサポートする。
ソウカイ・シックスゲイツの一人ダイダロスとの電脳戦を経験して以降、急速に成長。
第二部ではヤバイ級ハッカーとして、タカギ・ガンドーのような事情通やサイバーゴス達に広く存在を知られており、英雄視されている。
IRCでは「YCNAN」というハンドル・IDを名乗る(「NANCY」を後ろから読んだもの)。
生身の戦闘能力も非ニンジャとしては高く、クローンヤクザ程度には遅れは取らない。
銃撃やコトダマ空間でのコマンド入力の際のシャウトは「TAKE THIS!」(「食らいな!」といった意味か)
時間軸では第三部に当たる。
【方針】
社会正義。
最終更新:2014年12月21日 15:14