朱鷺宮神依&バーサーカー  ◆q4eJ67HsvU



 ――普き諸仏に帰命し奉る。


 ノウマク サマンダボダナン オン ダリタラシタラ ララ ハラマダナ ソワカ オン

 ヴィハタシャ ナガヂハタエイ ソワカ ノウマク サマンダボダナン ヴィロダキヤ 

 ヤキシャヂハタエイ ソワカ ノウマク サマンダボダナン ベイシラマンダヤ ソワカ。


 傲慢なる尊、持国天よ。夜叉の長、増長天よ。龍族の主、広目天よ。そして毘沙門天よ。

 魔都“東京”を四方より守護せし御仏達よ。


 ハラ ドボウ オン ボッケン シュタン シリィ。


 随求滅悪、“穢土”を浄土と成し、吉祥在らしめ給え。


 ――東京を、この眠らぬ都に蠢く闇を、救いの光にて照らし給え。




   ▼  ▼  ▼




 蝋燭の仄かな明かりが、彼女の横顔を揺らめかせる。

 東京の喧騒の狭間で忘れ去られているような寂れた寺の御堂に腰を下ろし、彼女は一人心を鎮めていた。
 歳の頃は十六、七。艶やかな黒髪を髷のように大きくひとつに結い、身には当世の学生服を纏っている。
 女性としてはやや長身にして、華奢ながら引き締まった体つき。
 先刻から微動だにしないその洗練された佇まいには、心身ともに相応の修練を積んでいることが伺われた。
 凛とした、という形容がこの上なく当てはまるその姿。

 その一筋に閉じられた瞼がぴくり、と動き、次いで彼女はその瑪瑙色の瞳を見開いた。

「――気配が、変わった」

 その実感は、彼女にとっても戸惑いを孕んだものであった。
 気配。人や人ならざる者の、というよりはもっと大きく、漠然としたものの気配が、今、確かに変わった。
 不可思議な表現ではあるが、それはこの街の――『東京』の纏う気配に違いなかった。

「まつろわぬ者共の蠢きが天に地に満ちている。これが聖杯戦争の始まりを告げる嚆矢だとすれば、次なる動きも近いか」

 少女は立ち上がることなく、そのまま傍らにある刀を手に取り、静かにその刀身を抜き放った。
 奇妙な刀である。それは確かに日本刀の形をしていながら、刃と呼べる部分が存在していなかった。

 銘を『珠依姫 三門守宗(たまよりひめ みかどもりむね)』。

 肉ではなく心を、骨ではなく魂を斬るこの刀こそ、彼女を――あるいは彼女の宿命を象徴する刃であろう。

 ――『千年守(ちとせのもり)』。

 古来より人の世と聖霊の世の理が乱れるとき目覚め、その刃を振るいて異変を折伏する定めを負う者。
 歪みを正したのちはその時代へと別れを告げ、再び悠久の眠りの中に落ちてゆく者。
 他の誰とも異なる時の流れの中にその身を置き、ただひたすらに世界を救うことを宿命付けられた者。

 朱鷺宮神依――彼女が赤い月によりこの魔都・東京に招かれたのは、まさしくその宿命によるものだろう。

 少なくとも、神依自身はそう考えていた。
 後に東京事変と呼ばれた危機を鎮め、その余波として起こった幾つかの事件を解決しながら今の世の暮らしに馴染んできた矢先。
 聖霊界の新たなる歪みかと思われたあの赤い月が、神依を彼女の知る、同時に彼女の知らない東京へと連れてきた。
 目に映る姿は疑いようもなく東京でありながら同時にどこか違和感を覚えざるを得ない街並みの中で、
 神依はこの街を、そしてその裏で進行する企てを――聖杯戦争のことを考え、感じ、知っていった。

(私が招かれたのが偶然か必然か、もはやどちらでも変わるまい。この街が孕む闇は、世界を滅ぼしかねん。
 千年守としての使命を全うし、聖杯を邪なる者の手に渡らせることなくこの東京の歪みを正すのみ)

 聖杯戦争。
 個人のエゴによって世界の理すら捻じ曲げる、究極の自己本位によって執り行われる傲慢なる儀式。
 それに縋らねばならぬ者もいよう。それでなければ叶えられない願いもあろう。
 しかし神依には、それは人の手には余るものであるとしか思えない。
 応仁の世より今に至るまで、人は自分の叶えられる望みしか叶えられはしない。
 だからこそ、人は一生懸命に今を生きるのだ。

「だが、血で血を洗うこの聖杯戦争。人を殺めてでも聖杯を得ようとする者共と相対するからには、こちらにも剣がいる。
 私の心だけを斬る剣ではなく、修羅の剣が……返り血を浴びてでも使命を果たすための剣が、それを振るう覚悟が、必要となろう。
 ……このはが傍にいないのは寂しいが、これで良かったのかも知れん。修羅道を征く主の姿など、見せたくはない」

 蝋燭が揺らめく。

 御堂の床の板目に影が落ちる。

 二つの影。

 神依と、もう一人の影が。

 見上げるばかりの大男である。神依を見下ろすように仁王立ちするその姿は岩のごとく大きく重い。
 鬣のように弧を描く白髮と、武芸者めいた時代がかった衣装は見る者を威圧する。
 そしてその片腕には、一振りの抜身の刀が握られている。その巨体に見合った、並外れた巨刀である。

 要素の一つ一つを抜き出せば、古き世の侍であるかのように映るだろう。
 しかしその面構えが、その目が、その身に纏う殺気が、この男が武士などというものではないと如実に語っていた。
 この男は人殺しだった。この男は修羅であった。この男は――『鬼』と呼ばれた存在であった。


 ――バーサーカー『壬無月 斬紅郎』。かつて江戸の世を震撼させた人斬りである。


 神依のサーヴァントとしては考えうる限り最も忌まわしい、英霊と呼ぶより怨霊と表現したほうが相応しい悪鬼。
 ただ力に呑まれ、衝動の赴く限り女子供までも手に掛けた男。意味なき殺生それ自体を生きる目的とした男。
 狂化スキルによって理性を失ったその姿は、まさしく鬼である。人と呼ぶべき者の姿ではない。

 目の前に鎮座するその巨体を睥睨し、神依は口を開いた。

「我が従者、狂戦士の英霊よ。忌むべき殺人者よ。私は貴様を英霊の座に相応しい存在だとは思わん。貴様の生涯に敬意も払いはせん」

 それは拒絶であり、断絶だった。生涯を懸けて人を殺め続けた鬼と、人を守るためにその身を捧げた千年守との。
 しかし、それでも、この狂戦士は神依のサーヴァントとして召喚されたのは事実なのだ。
 ならば。

「だがこの使命を……この魔都・東京の歪みを断ち切るという使命を果たすために、血を浴びることが避けられないのだとしたら。
 私はあえて人斬りの剣たるお前を振るい、その罪を背負おう。全てが終わった暁には、その咎を受けもしよう。
 我が狂戦士、壬無月斬紅郎よ! この朱鷺宮神依の刃は魂を斬る! ゆえに貴様は、私の代わりに命を斬る役目を帯びよ!」

 修羅の剣を求めた自分に与えられた、血塗られた刃。
 それを振るってでも成さねばならぬ使命があるのならば、その宿命に従おう。
 聖杯を、この魔都・東京を、人の世を脅かす力を、誰の手にも渡すわけにはいかない。

 狂戦士が唸り声を上げた。その響きが大気を揺るがし、蝋燭の火を掻き消した。


 再びその姿を取り戻した闇の中で、ふた振りの刀が、それぞれ赤い月の光を浴びて煌めいていた。 

 心を斬るは、朱鷺宮神依の珠依姫三門守宗。

 命を斬るは、壬無月斬紅郎の紅鋼怨獄丸。



 ――我ら二刃にて、帝都幻想の悠久を斬る。


【クラス】
バーサーカー

【真名】
壬無月斬紅郎@サムライスピリッツ

【パラメーター】
筋力A+ 耐久A 敏捷C+ 魔力B 幸運C 宝具E

【属性】
混沌・狂

【クラススキル】
狂化:B
「狂戦士」のクラス特性。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
Bランクだと全能力が1ずつ上昇するが、理性の大半を奪われる。

【保有スキル】
無限一刀流:A+
「鬼」をその起源に持つと語り伝えられる剣の流派。「無限流」とも。
相手を一刀のもとに斬り伏せる剛の剣であり、地や虚空を走る斬撃をも生む。
その極意「無双剣」は莫大な気の奔流を刃とし、相手を塵も残さず斬り飛ばすものである。

剣鬼:A
人斬りという概念そのもの。
バーサーカーは、たとえ狂化していようとも人斬りの技量を一切衰えさせることはない。
無限流の奥義の数々や宝具発動に至るまで、半ば無意識にて生前同様の殺人剣を使いこなす。
無窮の武練スキルとの違いは、修練の極みではなく殺戮の果てに辿り着いた境地であるということ。

侍魂:C-
サムライスピリッツ。
怒りの爆発を刃に乗せて力に変え、あるいは自身を無の境地に置くことで静なる剣を引き出す奥義。
バーサーカーは狂化の影響で感情のコントロールが利かず、このスキルを有効に機能させにくい。



【宝具】

『斬撃にて破天を得ん』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:自身

その生涯を懸けてただひたすらに人を斬り続けた『鬼』が追い求める剣の道、その極致。
壬無月斬紅郎が『そこに在る』と認識したものは『斬れる』。ただそれだけの理を世界に強要する宝具。
あらゆる矛を通さぬ盾も、いかなる術式にて固められた魔術結界も、たとえ低級宝具を寄せ付けぬ神秘の守りであろうとも。
ただ目の前にあり、振るう刃が届くのであれば、斬紅郎は至極当たり前のようにその存在を『斬る』。

白兵戦においては事実上無敵の宝具であるが、魔力の負担は切れ味に比例して大きくなり、それに当然バーサーカーの多大な維持魔力が上乗せされる。
つまり発動の瞬間を誤れば即ち自身の劣勢を招くという、捉え方によっては敵味方双方に一撃必殺の『死合い』を強いる宝具である。
なお、所詮は人斬りの極意に過ぎぬため宝具ランクは低いが、前述の通りこの宝具の前に宝具ランクを基準とする防御は意味を成さない。


【weapon】
「紅鋼怨獄丸(あかはがね おんごくまる)」
人並み外れた巨体の持ち主である斬紅郎にとっても太刀と呼べるほどの巨大な刀。


【人物背景】
「鬼」が開祖として編み出したといわれる剣術「無限一刀流」の伝承者。
身長8尺4寸(約252cm)。寛保三年(1743年)九月六日生まれ、出身地は京。

かつて山賊に捕らえられた息子を敵ごと斬殺したことで「鬼」となり、幾つもの村を地獄絵図と変えた人斬り。
やがては己の村をも襲い、その際に妻を殺害して以降は剣客のみを狙うようになり、その後も意味なき殺生と死合を求め続けた。
数多の命をただ力の赴くままに奪い続けたその悪行ゆえ、多くの剣客達にその生命を狙われ、遂には死合の果てに命を落とす。
力のみを信奉する人斬りではあるが、その狂気の奥には力に飲み込まれた己を悔やむ心があり、最期は自分を討った者に感謝しながら絶命した。
死後、その魂は冥土にあったが、天草四郎時貞の秘術によりもう一度現世へと舞い戻ることになる。

上記の通り、まごうことなき反英雄であるが、修羅の剣を求めた朱鷺宮神依に応える形でサーヴァントとして召喚された。


【マスター】
朱鷺宮神依@アルカナハート

【マスターとしての願い】
魔都東京の歪みを正す

【weapon】
「珠依姫 三門守宗(たまよりひめ みかどもりむね)」
実体としての刃を持たない刀。
人体を覆う霊的エネルギーであるエーテル体、あるいは魔力や霊体だけを斬ることができる。

【能力・技能】
「時のアルカナ『アヌトゥパーダ』」
神依が契約している聖霊(高次の霊的存在)。
失われた古代文明が残した意思を持つ機械時計。時空を操る能力を持つ。
最古のアルカナとされているが、その詳細の全てが謎に包まれており、意志の疎通も不可能。
神依の睡眠中は肉体の老化を止め、戦闘時は限定的な時間停止などでサポートする。

【人物背景】
聖霊界と物質界の調和が乱れるたびに目覚め、異変を解決する『千年守(ちとせのもり)』の少女。
外見年齢は十六、七歳だが、これは眠りに就いている間は肉体の時間が停止するためであり、実際は室町時代(応仁年間)の生まれ。
十歳の時に『千年守』となって以来、世界の理の乱れに呼応して目覚め、事態を収拾したのち永い休眠に入るというサイクルを繰り返している。
古風な口調や達観した物言いが印象的だが、これは今の時代に適応し切れていないためでもあり、機械類や外来語が苦手。

時を操る聖霊「アヌトゥパーダ」を契約アルカナとして持ち、我流剣術を含めたその戦闘能力は作中トップクラス。
過去に高位の悪魔を撃破し、聖霊界屈指の錬金術師パラセ・ルシアを幾度となく退けたなど、千年守として申し分無い実力を持つ。

【方針】
無益な殺生は好まないが、使命のため避けられぬならば咎を背負ってでも斬る。

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最終更新:2014年12月21日 15:22