折木奉太郎&アサシン ◆Gnjocyz9X2
多くの学生が夢見るのは薔薇色の青春だ。
部活動。友情。恋愛。
それらに彩られた華やかな高校生活を望むだろう。
尤も、俺は――――折木奉太郎は、そんなことに興味は無かったのだが。
やらなくていいことは、やらない。
やるべきことは手短に。
それこそが自分のモットー、省エネ主義というものだ。
毎日を平穏に過ごせるのなら、灰色の高校生活でも良い。
無味無色の静かな青春でも構わない。
そう思っていた。
――――折木さん!
姉の命令で古典部に入部するまでは。
部活で出会ったのは、町の名家のご令嬢。
名前は千反田える。
思えば、氷菓の秘密を解き明かしたことが始まりだったか。
古典部の文集である氷菓、それに記された千反田の叔父の真相を解き明かして以来。
千反田は俺を「探偵役」として頼る様になった。
天真爛漫、そして好奇心旺盛。
そんなあいつの「気になること」に毎度付き合わされ、その謎を解き続けてきた。
最初は面倒だと思ってたし、のらりくらりと避けようとさえ思っていた。
しかし、そんな現状に居心地の良さを感じつつある自分がいた。
自分を特別扱いしてくれるあいつを意識しつつある自分がいた。
いつしか彼女の存在が自分の中で大きくなりつつあることに気付き始めていた。
自覚しつつある想いが、自らの主義に反することも理解していた。
これがジレンマという奴だろうか。
伊原のアプローチを躱し続けてきた里志も、こんな思いを感じていたのだろうか。
――――ねえホータロー、『願いを叶える紅い満月』の話って知ってるかい?
そして、唐突な始まりはそんな噂話から。
友人の福部里志から聞かされた、些細で胡散臭いオカルト話である。
◇◇◇◇
「はぁっ――――はぁっ――――」
真夜中の路地裏を、ふらふらと小走りで進む自分がいる。
何故俺はこんな所にいるのだろう。
記憶はぼんやりと覚えている。
自宅の窓から『紅い満月』を偶然目撃して―――――
そこから意識が途絶えている。
気がつけば、見慣れぬ都市で自分は彷徨っていた。
此処はどこなのだろうか。
ただ漠然と解るのは、此処が自分の知る町ではないということ。
足下に転がるゴミを意に介さず、小汚い路地裏を進んでいく。
理屈ではなく、推理でもなく。
ただ『行かなければならない』という感情に動かされて。
この先に何かがあるということを、頭ではなく心で理解していた。
何があるのか。
解らない。
だが、何かがある。
そんな曖昧な直感を頼りに、歩を進めていた矢先。
―――――ベチャリ。
靴の裏が認識したのは異物の感触。
咄嗟に足を止めてしまう自分。
恐る恐る足下を見下ろし、月明かりに照らされる『それ』を目に焼き付ける。
紅。
紅。
紅。
紅。
あの時の満月のような紅。
ペンキを一面に打ち撒けたかのような紅。
よく出来た塗料だ。
余りにも精巧で、まるで本物そっくりだ。
自身の頭が現実を認識することを拒む。
小刻みに震えだす自分がいる。
ただただ、目の前の事象を理解したくない。
そう思っていたのに、俺の視線は路地の先へと。
そして、『真上』へと向けられる。
―――巨大な、蜘蛛の巣だ。
路地を挟むビルの間に、有り得ないサイズの蜘蛛の巣が張り巡らされている。
蜘蛛が捕らえるのは蝶などの昆虫。
だが、あの蜘蛛の巣に捕らえられているのは。
月の光に照らされ、俺はそれを認識してしまった。
身体中を糸で雁字搦めにされた女性。
全身を裂かれ、血をポタポタと垂らし続ける女性。
手足を切り落とされ、達磨同然となっている女性。
「っ、おげえ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛――――!」
ついに耐え切れず、俺は胃の中のものを吐瀉物として地面に吐き出してしまった。
有り得ない。有り得ない、有り得ない。
こんなの夢に決まっている。
どうせたちの悪い夢だろう。余りにも非現実的だ。
「ひひひへはははは、あははははハハハ、ハハハハハハハハハハハハ―――――――!!!!!!」
そんな俺の現実逃避を踏み躙る様に、狂った哄笑が響き渡る。
声の主は―――――『蜘蛛の巣を張り巡らす怪物』。
あの女性達を蜘蛛の巣に嵌めて惨殺したであろう張本人
文字通り蜘蛛の如く巣にしがみついていた軍服姿の男は、颯爽と地面へと降り立つ。
「御機嫌よう我が主よ、お目にかかれて光栄の至り」
軍服姿の男は慇懃無礼な笑みを浮かべながら、こちらへ会釈をしてくる。
――――我が主?
こいつは何を言っている。
俺が、この男の主?
言っている意味が、分からない。
兎に角理解が及ばない。現状を上手く認知出来ない。
脳内の警鐘がけたたましく鳴り響いている。
だが、そんな中で自分の頭は現状をどこか客観的に理解していた。
否、この『東京』に導かれた時点で。
何もかも解っていたのかもしれない。
そう、これは殺し合いだ。
願いを叶える為の―――――――――
「私はアサシンのサーヴァント、真名は『紅蜘蛛“ロート・シュピーネ”』。
以後お見知りおきを」
今の俺は、全てを理解していた。
紅い月に導かれた者達による『聖杯戦争』。
マスターとなった者はサーヴァントと呼ばれる従者を率い、殺し合う。
俺がこの路地裏を進んだのは、サーヴァントの存在を無意識に感じ取っていたから。
そして。
俺を選んだのは、醜悪な化物だった。
人の命を踏み躙ることに何の呵責も覚えない――――最低の狂人。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇
『――――××時になりました、ニュースの時間です』
『先日、相次いで発生した女性の行方不明事件――――』
あの出来事から幾日経っただろうか。
マンションの自宅、仄暗い食卓にてズルズルとカップ麺を啜りつつテレビへと目を向ける。
ニュース番組で報道されているのは女性の行方不明事件、殺人事件など。
いずれも物騒な出来事ばかりだ。その上近場でも何件か事件が発生しているらしい。
夜中に出歩く女性は毎日注意を払っているのだろうか。
実際に遭遇した際には、どうするのか。
他人事の様に考えながら、麺を箸で口に運ぶ。
(…あいつの仕業なんだろうな)
しかし、今の自分に取っては他人事などではなかった。
あの日見た凄惨な殺人現場。
月夜に浮かぶ蜘蛛の巣。
そして、人知を超越した怪人。
ほんの少し前までは未知の世界だった出来事が、今では間近に感じられてしまう。
――――紅い満月?
――――そんなオカルトじみた話、ある訳ないだろ。
そう思っていたのも、何日前のことだったか。
今となっては、認めたくないとさえ感じている。
あの悪夢を目の当たりにして以来―――――
「自らは自宅に引き蘢り、身の安全を確保ですか。
随分と気楽なものだ。いや、寧ろそれも戦略の一つと言うべきですかねぇ」
唐突に背後から声が響く。
びくりと一瞬背筋が震えるも、すぐに俺は振り返る。
「ア、アサシン…」
「いえいえ、ご冗談ですよ。寧ろ私としてはその方が好都合。
貴方はマスターとしては弱小だ。ですので、下手に出歩くよりは得策でしょう」
いつの間にか俺の背後に立っていたのは軍服姿の醜悪な男。
自分に与えられた唯一の従者、アサシンことロート・シュピーネ。
シュピーネは不敵な笑みを浮かべ、こちらに会釈をしてくる。
――――こいつは、いつもこんな調子だ。
物腰こそ礼儀正しいが、その実こちらを見下している。
無力な俺を嘲笑うように気味の悪い笑みを浮かべている。
この幾日でこいつの性格は大まかに把握出来ている。
そして、俺の知らぬ間に何をしているのかも――――何となく。
「…また、誰かを殺しに行ってたのか」
「さぁ。どうでしょうねぇ?少なくとも私は情報収集の為に外へ赴いていたのですけどね」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらシュピーネは答える。
声色、表情から見て取れる。
諜報活動を行っていたことは事実だろう。
現にこいつは勝つ為にここに来ている――――聖杯に望む願いがあるのだから。
その為に行動を起こすことは至極真っ当だ。
だが、ただの情報収集だけで終わらせる程真っ当な人間でないことも理解している。
魔力収集の為に、快楽の為に。
この男は何人も殺し、何人も犯しているのだから。
「なあアサシン、もういい加減―――――――」
「あぁマスター、先んじて言っておきますが。
もし貴方が令呪を用い、この私を縛り付ける命を発しようとした場合」
シュピーネの表情から一瞬だけ笑みが消える。
まるでこちらを脅しに掛かる様に、冷徹な声色へと変わる。
俺はただ、びくりと恐怖を覚えることしか出来なかった。
「――――聡明な貴方ならご理解頂けますよねぇ?
お願い致しますよ、貴方に手を上げるのは私とて心が痛むものですから」
再び、シュピーネが慇懃無礼に笑う。
「…解ってるよ」
適当な空返事をしながら、俺は心底思う。
ああ、やっぱり―――――こいつを信用なんてしたくはない。
こんな恐ろしい男を、信じたくはない。
『サーヴァントは主にマスターとの相性で選ばれる』とはこいつの談だったか。
何故こんな怪物が俺を選んだのか、理解出来ない。
―――――ハナから俺のような、体よく使える『弱者』を好んで選んでいたのではないか。
「ならば安心しました。貴方とは良き信頼関係を結びたいですからね。
しかしマスター、一応言っておきますが…身の安全を優先することはまぁいいでしょう。
だが、貴方はマスターとしての自覚も足りないようだ。もう少し気を引き締めた方が宜しいかと」
そしてシュピーネは再び一礼をし、こちらに助言のような一言を投げかける。
俺は何も答えない。投げかけてくる言葉を無視する様に。
「聖杯に託す願いがあるのならば、ね」
ククッと不気味な笑みを浮かべながら、シュピーネは姿を消した。
再び何処かへと出かけてしまったらしい。
(俺の、願いか)
シュピーネが姿を消し、俺は食べ終えたカップ麺をテーブルに置く。
『聖杯に託す願い』。
あいつが言い残した言葉を脳内で思い浮かべ、ぼんやりと右手の甲の令呪を眺める。
思えば、あの紅い満月は『願いを叶えてくれるもの』らしい。
ならば俺にも何かしらの願いがあったのだろうか。
省エネ主義の俺が何かを望むことなんてあったのだろうか。
―――――折木さんは、特別な人ですよ!
(…まさか)
正直に白状すると、自らの願いは薄々理解している。
自らの主義と反する、たった一つの願いを。
だが、己の理性がそれを拒んでいた。
あいつとの薔薇色の青春が、殺人の免罪符?
切り捨てられないプライドと淡い想いの為に、殺し合いをする?
余りにも巫山戯ている。
そんなちっぽけでつまらない願いが、戦争に参戦する権利足り得るのか。
そんな理由で、殺人が出来るものか。
しかし、願いの心当たり等それしか存在しないのも事実。
やらなくてもいいことは、やらない。
やるべきことは、手短に。
では、やるべきことが解らない時は?
(どうしろって言うんだよ…)
――――折木奉太郎。
――――ちっぽけな願いを抱いた『探偵役』は、まだ動けない。
【クラス】
アサシン
【真名】
ロート・シュピーネ@Dies irae
【ステータス】
筋力E+ 耐久D 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具C
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
気配遮断:B+
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は非常に難しい。
ただし自らが攻撃体勢に入ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
精神汚染:C-
殺戮と略奪を謳歌する狂人。
同ランク以下の精神干渉系魔術の効果を軽減する。
ただしシュピーネの行動原理は我欲と恐怖であり、自身を上回る力や器に対し強い恐れを抱く。
そのため「威圧」等の対象を畏怖させる精神干渉系魔術はランクを問わず効果が倍増する。
慧眼:C-
騎士団首領代行より見込まれた先見の明。
敵の策略・戦術の察知に長け、また目的の本質を見抜くことが出来る。
ただし生前の逸話に基づき、敵の力量を侮り油断した際には効果が半減する。
諜報:A
偵察や情報収集の際に有利な判定・補正が与えられる。
生前のシュピーネは軍の諜報機関に所属していた時期があり、騎士団でも諜報活動を任されることがあった。
【宝具】
「辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)」
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:50
かつてワルシャワ収容所において幾多の捕虜を絞殺した縄を素体とする聖遺物。
シュピーネの身体から自在に伸びる無数のワイヤーとして形成される。
主に拘束や切断、絞殺に使う他、ワイヤーを蜘蛛の巣のように張り巡らすことも出来る。
単純な強度や切れ味は非常に高いが、神秘を持つ攻撃であればワイヤーを断ち切ることが可能。
尚、シュピーネは聖遺物と霊的な繋がりを持つ為、聖遺物の損傷はアサシンへのダメージフィードバックとなる。
神秘の無い攻撃に対しては頑健である為、サーヴァント戦よりもマスター暗殺で真価を発揮する宝具。
【Weapon】
宝具『辺獄舎の絞殺縄』
【人物背景】
ナチスの裏の裏で結成された魔人の集団「聖槍十三騎士団」の一員。
本人曰く本名は「昔に捨てた」らしく、魔名である「紅蜘蛛(ロート・シュピーネ)」を名前として名乗っている。
殺戮や簒奪を好む残虐な狂人。物腰こそ丁寧だが慇懃無礼であり、本質は俗物的な小物。
元はナチスの研究施設・諜報機関に所属するマッドサイエンティストだったが、
首領代行であるヴァレリア・トリファにスカウトされ騎士団へと入団する。
騎士団の首領、副首領を強く恐れており、二人の復活を避けるべく計画の鍵である藤井蓮に協力を持ち掛ける。
しかし蓮の幼馴染みを人質に取ったことで交渉は決裂、そのまま交戦に縺れ込む。
まだ未熟な蓮を聖遺物の能力で追い詰めるも、最終的に土壇場で成長した蓮に敗北。
命辛々で生き延びるも、ヴァレリアに用済みと判断され処刑された。
他の団員同様に超人的な戦闘能力を持つものの、実力自体は騎士団の中で最も低い。
藤井蓮との対決もヴァレリアによる「蓮を成長させる為の策」に過ぎず、当て馬として利用されていた。
彼の本職は諜報や斥候であり、元々戦闘者ではなかった模様。
【サーヴァントとしての願い】
永劫の自由を獲得し、殺し犯し奪うことを謳歌し続ける。
【方針】
基本は諜報や偵察メイン。
情報を掻き集め、敵マスターの暗殺を狙う。
サーヴァントとの直接戦闘は極力回避。真っ向からの力比べでは分が悪い。
必要があれば奉太郎に協力を仰ぐが、主従の主導権は自分が握る。
【マスター】
折木奉太郎@氷菓(アニメ版)
【マスターとしての願い】
今はまだ上手く纏まらない。
【weapon】
なし
【能力・技能】
非凡な洞察力と推理力を持つ。
鎌掛けで相手の出方を伺うなど機転も利く。
とはいえ基本的には無気力省エネ主義。やる必要がない時には頭を使わない。
【人物背景】
神山高校に通う男子生徒。
座右の銘は「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」。
普段は無気力で怠惰、本人も省エネ主義を自称する程にマイペースな性格。
学校での成績は平々凡々であり、教養にやや乏しい面がある。
しかし洞察力や推理力は並外れており、根は非常に理知的。
訳あって廃部寸前であった古典部に入部し、そこで出会った千反田えるに見込まれ「探偵役」を担う羽目に。
当初はえるを邪見に扱っている節もあったが、次第に彼女への好意を自覚し始める。
因みに同じく古典部の福部里志、伊原摩耶花とは中学時代からの付き合い。
【方針】
やるべきことが何なのか、まだ解らない。
シュピーネの凶行を止めたいが、何も出来ない。
最終更新:2014年12月21日 15:53