火倉いずみ&ライダー ◆devil5UFgA
これは地獄を照らした少年達と鎧達の輝き。
避けることのできない人の最期。
人の最期の側に存在した『光り』。
◆ ◆ ◆
やつれていることは自覚していた。
それでも立ち止まることは許されなかった。
孤拳一撃。
慣れない徒手による攻撃は、しかし、すでに死に体だった魔物、<光狩>を吹き飛ばした。
そのまま、ふらふらとした足取りで歩いて行く。
傍目には満身創痍に見えただろうが、実際のところはそれほど疲労はしていない。
ただ、歩きやすいように歩いていた。
心の揺れを感じないように、身体を揺らしていた。
ご丁寧に横並びに整列していた魔物を、大鎌<カイリ>で生命を刈り取る。
なんてこともなく、消滅した。
周囲から魔物の気配が、ひとまずは消えた。
「……」
特異な紅い眼で、『蒼く凍った』夜空を見上げる。
<凍夜>と呼ばれる、不気味な空間。
光狩が生み出した、時が凍った終わらない夜。
その終わらない夜に現れる、蒼く輝く二つ目の月、『真月』。
「蒼い夜を……」
二つ目の月である『真月』は、魔物のものだ。
魔物を照らし続け、魔物に人間を誑かさせる月だ。
人間に夢を見せ、誑かす魔物。
永遠の夢を見せ、決して夢を叶えさせない月だ。
「蒼い夜を、終わらせる……」
そんな、残酷で無慈悲な蒼い夜に終わらせる。
そのために、いずみは戦い続けていた。
仲間は居た。
だけど、仲間は大事な人だった。
自らが仲間を信じられ続けることができれば、仲間に自らを信じ続けられることができていれば。
きっと、今も仲間が側にいたかもしれない。
「私が、蒼い夜を終わらせる……」
しかし、その繋がりも自らが断ち切った。
自らの紅い目が発する異能の力で。
仲間たちの『記憶』から自身を消したのだ。
もはや、彼らにとっていずみは愛憎など抱くわけのない『他人』なのだ。
「私、だけで……」
一人だけの道が、どこまで続くのか。
そんな単純すぎる弱音が心を支配した。
その弱い心を叱咤する。
どこまで続くなんかなんて、決まっている。
どこまでも続くのだ。
『蒼い夜』を終わらせるために、どこまでも続く道を歩き続けるのだ。
それでも、疲れたように、憎むように。
空を眺めた。
蒼い夜空に広がる蒼い月に、視線を合わせる。
――――そこには、紅い月が輝いていた。
目が奪われた。
皓い月は、幾度と無く目にしていた。
蒼い月は、幾度と無く目にしていた。
しかし、紅い月は初めて目にしていた。
ふと、いずみの脳裏にある噂話が蘇った。
――――在る筈のない紅い月が、願いを叶えてくれる。
自らの紅い目を同じ、紅い月。
仲間との繋がりを失っても、残された自身には最後の願いがあった。
蒼い夜を終わらせる、願いがあった。
紅い月は、いずみを聖杯戦争へと誘った。
そこで、異常な結果が起こった。
聖杯の、出来の悪さを示す、そんな、頻出しているありきたりな異常だった。
『問おう、貴方が俺のマスターか』
此度の聖杯戦争に用いられる聖杯は急ごしらえの聖杯。
未熟な聖杯に継ぎ接ぎし続けた結果の『異常<バグ>』。
聖杯が用意したバイタルデータとして再現され、英霊の身体の各部に0と1のノイズが走る。
それでも、ざんばらに乱れた髪をした英霊は、肉体と呼ぶにも躊躇われる堅牢な筋肉と硬化した骨を持っていた。
紅い月に奪われていたいずみの目が、英霊へと奪われた。
『願いを叶えたいか』
空気を振動させない声で、いずみへと問いかけた。
英霊へと奪われた瞳が、英霊の後方に聳える再び紅い月へと注がれる。
願いを叶える、紅い月。
心を疲労させたいずみは、その願いを求めた。
蒼い夜を終わらせる、そんな願いを。
その願いを感じ取ったのか、英霊はいずみへと語りかけた。
『英霊の魂を記録した、英霊の座。永遠と記録し続けた月の観測器。
二つを結び、異常な世界を作り、異常な現象を起こす。それこそが聖杯戦争。
聖杯に注がれる贄は天魔外道の欲望と、牙なき者の血と、踏み潰された願い。
そこから、叶うはずのない願いに捧げられる』
聖杯戦争の
ルールを魂にダウンロードされていないいずみには知り得ない知識。
伸ばした手が、ふと止まった。
安易な願いへの、忌避感。
甘い話には裏があり、実在する聖遺物は得てして悪魔を産みだす物である。
『願いを求める前に、伝えねばならないことがある』
止まった手が、その先へと伸ばそうか、引っ込めてしまうべきか迷っている中。
英霊の言葉は、続いた。
『我ら『正義を行う者<エクゾスカル>』の輝きを見よ。
絶望の果てに、我らは居る』
英霊は、腰だめに拳を構えた。
忠犬のようにそびえ立った重自動二輪から、光が発せられる。
荷台に備えられた黒塗りの鞄が不可思議に開き、触手のように英霊の身体にまとわり付く。
それは鎧だった。
暗色に輝く、人類を照らし続けた光だった。
頭部には『七生』、永遠を意味する言葉が紡がれている。
ならば、この鎧の光は、永遠の光か、永遠の終わりにそばにある光か。
わからない。
わからないが――――鎧は、英雄だった。
『――――零式防衛術に甘言を操る術はない』
いずみが抱いた、『在り得る筈のない』願いのもとに紅い月へと伸ばされたいずみの手。
その手に、英霊――――エクゾスカル戦士・葉隠覚悟は拳を合わせた。
ゆっくりと伸ばしたいずみの手に合わせるように、ゆっくりと伸びる。
その技は、零式防衛術。
零式防衛術は心の防衛術。
――――英霊は、実体を持たぬ孤拳でいずみの心に因果を極めた。
流れ込むはずのない情報が、いずみの心に流れた。
それは映像でもなく、音声でもなく、触感でもなかった。
いずみの知り得る法則とは異なる、言語化できないものが流れ込んでくる。
いずみは、眼球以外の何かで七つの鎧を見た。
暖かなものがいずみの心を包んだ。
それは、人を照らしつづけた『光り』だった。
涙が、こぼれた。
◆ ◆ ◆
「だから、記憶は返せません。返す方法が、全くわからないんです」
いずみはズレた眼鏡を両手で直しながら、向かって正座をする白い軍服の英霊に語りかけた。
ここは聖杯によって用意された自室。
質素な、しかし、いずみの嗜好そのままの部屋。
その中で、いずみと軍服の英霊は互いに正座をして向かい合っていた。
いずみは眼鏡の位置を直すと、自身の柔らかな短い栗色の髪にそっと触れた。
「……」
「……」
沈黙が場を支配する。
目の前の英霊は、紅い月によって聖杯戦争に導かれたいずみの従者<サーヴァント>だ。
与えられたクラスは騎乗兵<ライダー>のクラス。
機械化軍用犬、月狼<モーントヴォルフ>に跨っているからだと、本人は言った。
そんなこと、いずみは知っていた。
ライダーは、生前の記憶を失っているようだった。
いずみと紅い月に誘われる前に出会ったことも覚えていなかった。
記憶を失っていた。
いずみの心に流れてきたものが、ライダーの記憶だったのだと思った。
申し訳なくなりつつも、あの強い『光り』こそがライダーをライダーたらしめるものの一つなのだと思うと、腑に落ちた。
「……あの」
いずみは、ライダーへと問いかけた。
ライダーは、いずみとは対照的にきっかりと眼鏡をかけている。
美形というのは少々異なるが、目鼻立ちに筋が通った顔をしていた。
女性であるいずみよりは背が高く体格もいい。
だが、人知を超えるほどの異常な体格はしていない。
軍服の下には鍛えるという言葉が生温いほどの肉体が眠っていることはわかるが、それでも『異常』ではなかった。
想像できる範囲の、ひょっとすれば、出会えるかもしれない。
少なくとも、『服の上から』覗く肉体はそんなものだった。
しかし、目の前の存在が、英霊であることを強く感じ取っていた。
顔全体から、強い意志を感じる。
背筋を伸ばした身体から、曲がり得ない信念を感じる。
「……問題はない」
沈黙を破ったのはライダーだった。
やはり強い視線のままいずみを見据えている。
ライダーが咎めているわけではないことは理解できたが、咎められているような気分になった。
ライダーはそんないずみの心境を知ってか知らずか、言葉を続けた。
「失ったものは消えてしまったものだ、もはや、この世の何処にも存在しないだろう。
だが、誰かに授けたものならば、この世の何処かにはある」
強い視線を浴びせられ、それでもいずみは視線を逸らすことが出来なかった。
男女の垣根を超えた、人としての感情が胸にあふれる。
欲しいものを見つけた瞬間だった。
指先に触れぬまま、仮初の温もりを求めかけた、目を逸らしかけたいずみを正したものだった。
感謝だった。
「ならば、問題はない」
ライダーの言葉に、いずみは不思議と心が安らいだ。
「私は、聖杯を必要としません」
「……」
「ライダーは?」
「仔細なし。捧げる願いは我が身と我が生にあった、もはや終わったものだ」
ライダーの声に、いずみは同意する。
聖杯を求めるつもりはなかった。
『光狩』でないものを切り捨てる覚悟は、すでになかった。
ある意味で、いずみはすでに願いが叶っていた。
自らを超える孤独が有り、しかし、孤独で人を照らす光があった。
孤独だが強い光がどこかに有り、そして、自分は自分が持っていた仲間という光を守るためだと思えば。
いずみは、幾らか心が暖かくなった。
その事実だけで、いずみは救われていた。
「……」
ライダーと視線があった。
いずみは微笑んだ。
ライダーは微笑まなかった。
だが、意思の強い目に光があった。
やはり、光だった。
人間の尊厳を照らし続けていた鎧の輝きだった。
暗色の其れは、闇の中に居ても光り輝いていた。
ライダー――――葉隠覚悟は、光だった。
仲間という光を失っても、輝き続ける光だった。
本物の英雄が、いずみの目の前に居た。
【クラス】
ライダー
【真名】
葉隠覚悟@エクゾスカル零
【パラメーター】
筋力C 耐久C+ 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具A+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
【保有スキル】
零式防衛術:A
零式防衛術は相手を殺す技でなく。己を殺す技。
零式防衛術は認識の技、己こそが己の身を滅ぼす。
零式防衛術は愛憎怨怒を滅殺する技術なり。
覚悟は己から受け入れぬ限り、あらゆる精神干渉魔術を無視できる。
戦闘続行:EX
霊核が破壊されても長時間の戦闘を可能とする。
また、マスターから主従の契約が断たれても通常時のパフォーマンスを発揮することが出来る。
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
【宝具】
『七生輪廻、正義に報いる(強化外骨格・零)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1人
いかなる攻撃もはね返す『盾』、いかなる防御も突破する『矛』。
最強の『盾』と『矛』が同時に存在する奇跡の解答。
しかしその時、果たして正義は完成するのであろうか。
ジェットバーニアや無味無臭無色の毒ガスやプラズマ兵器や特殊ナパームなど、あらゆる武装が内蔵されてある。
筋力・耐久・敏捷を1ランクアップさせる。
『法滅の光輝(エクゾスカル零)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
強化外骨格・零と人機一体となり、人類の救世主たるエクゾスカル戦士となった際に発する、人が最後に見る『光』。
それは、人が死にゆく際に、人が絶望に堕ちる際に、それでもなお人を照らし続けたかつての栄光の輝きである。
強化外骨格・零を装着している際には常時発動されており、覚悟はマスターが死亡しても一度の戦闘が可能とされる。
マスターが死にゆく時、あるいは、自らが散りゆく時に限り、全てのステータスを強化外骨格・零装着時からさらに1ランクアップさせる。
少年が愛した友や歌が『世界/少年』の中から消えようとも、友と歌を照らし続けた『少年/鎧』の光りは消えはしない。
【weapon】
斬魔挺身刀/神武挺身刀、零式連装機銃「残月」、零式防衛術正式拳銃「曳月」。
この三つを愛犬である機械化軍用犬『月狼<モーントヴォルフ>』のシート裏に収納した状態で携行している。
また、身体に八個の『零式鉄球』を埋め込んでいる。
零式鉄球は、普段こそ球状だが、覚悟の意思に応じて体内に吸引され、血中に溶解した後、任意の箇所を 『メタルスキン』 で覆う。
【人物背景】
未来現実という地獄に落とされた、白い軍服を纏う少年。
「牙を持たぬ人」を守るため、世界征服を企む超能力者や科学者、カルト教団を相手に人知れず戦ってきた一族の末裔。
彼の生きた時代での活躍が終わった後に冷凍睡眠に就いている。
目覚めた後は零式防衛術の倫理と、戦闘経験以外全ての記憶を失っていた。
そのためか、心に欠落したものがあることを自覚しており、必要と判断すれば、容赦ない攻撃を躊躇なく行う冷酷非情な“死神”となっている。
常に冷静で、表情を崩すことはほとんどない。
「不当な攻撃には正当な報復を」という理念の下、危害を加えようとする者に仮借ない反撃を行う。
習得した戦技“零式防衛術”は、防爆服で身を包んだ兵士をも容易く絶命させ得る威力を持つ。
『正義失格者』として『傲慢』の罪を持つとされ、絶望に満ちた世界でも頑ななまでに「正義」を守ることに拘っている。
神武の超鋼よ、我を立たせ給え。
牙無き人の明日の為に。
無限の英霊よ、我を砕き給え。
それが永遠への礎なら。
我が身は、既に――――
【マスター】
火倉いずみ@夜が来る! -Square of the Moon-
【マスターとしての願い】
紅い空と蒼い夜を終わらせる。
【weapon】
『カイリ』と呼ばれる大鎌。
【能力・技能】
『繕い』と言う傷を癒やす能力と、名も存在しない記憶を奪う能力を持っている。
また、『光狩』と呼ばれる怪物と戦うための戦闘技術も所有している。
【人物背景】
夜空にもうひとつの月、蒼く輝く『真月』が出現するとき。
『光狩<ひかり>』と呼ばれる異形の魔物が人々を欲望に誘い、その心を蝕んでいく。
火倉いずみは、魔物である『光狩』と戦う『火者<かしゃ>』である。
いずみの一族自体が『火者』であり、『光狩』に対して様々な知識を持っている。
私立桜水台学園の学生として生活しながら、夜空が蒼く染まる『凍夜<とうや>』の中で『光狩』と戦っていた。
心優しい性格をしているが、同時に責任感も強い。
『光狩』の策略によって崩壊した仲間たち、その仲間たちを独立しての危険な戦いから遠ざけるために記憶を消して、一人で戦い続けている。
夢を見続ける凍った夜を終わらせ、夢を叶えるための朝を望んでいる。
【方針】
紅い月から脱出する。
最終更新:2014年12月25日 19:21