エイサップ鈴木・ランサー ◆Ee.E0P6Y2U
「止めろ! その槍で東京を焼き払うというのか」
東京上空。躍り出たエイサップは叫びを上げた。
青い空を突き刺すように伸びる摩天楼たち、その先にある者こそ彼が相対すべき敵だ。
白亜の巨人がその存在を響かせている。生物的的なフォルムが陽の光を浴びて照りかえっていた。
白き槍を巨人は街に向けていた。エイサップは身を乗り出して叫ぶ。「やめろ!」
「黙っていろぉぉぉぉぉぉ」
対する巨人が叫びを持って返す。その声は強いエコーがかかっており、元の声色はおろか性別すらつかめない。
しかしその声に込められた想い、いやに生っぽくて恐ろしい願いの丈――その怨念は余すところなく伝わってくる。
東京の空を怨念の声が埋め尽くす。エイサップはただひたむきに己が呼び出してしまったものに呼びかけた。
「その槍はそうやって使うべきものじゃない筈です。これは悪しきオーラ力が為すようなことだ!」
「悪しきものにオーガニック・エンジンは応えない! あのプレートは私に応えてくれたのだ」
「そのオーラは悪ではないないんです! だから! こんなことをやってはいけない!」
「お前の言葉など聞かない。 ただ呼ばれ、流されただけの者! その言葉に私は動じない」
「分かってもらうことすら放棄する。そんな者が正しくあるものか!」
「未熟者があああああ」
巨人が叫びを上げこちらを蹴りあげてくる。
エイサップは舌打ちし、オーラバトラーを駆った。ブウウウウンと翅音が響き、その肢体が駆動する。
深い翠を湛えたオーラバトラーは機敏に反応し、巨人の足を擦り抜けた。
脚で殴ってくるか! エイサップはそこに込められた怨念を間近で感じ、そして己が従者の想いの強さを感じ取る。
オーラバトラー・ナナジンの軌道を整えながら――ナナジンもまた巨躯である――エイサップは自らの従者と相対した。
地上界とバイストンウェルを巻き込んだ戦いの最中、彼は突如として東京上空へと舞い戻ってきてしまった。
しかしそこは彼の知らない東京。そして呼び出してしまった巨人が東京を焼かんとしていた。
「未熟なるマスターはただそこで見ていればいい!
これは私の願いを叶える戦いだ!」
「そうは行くものか。ただ焼き払うことで叶う願いなど、認める訳にはっ!」
「呼び出した者が語ることではない!」
エイサップの言葉は届かない。巨人はなおもその身に光を纏い東京へと襲いかからんとする。
光が円環となってその身を包む。それはオーラ力とはまた別の――より根源的でオーガニック的な力だ。
エイサップはその発露を止めるべくナナジンを駆った。翅音を立てナナジンは巨人へと接近する。
「邪魔をするなああああ」叫びと共に、巨人が腕と一体化した槍を振るう。
ビシュン! ビシュン! 鞭がしなる音を立てナナジンを襲う。エイサップはそれを必死に擦り抜ける。
「オーラ力よりプリミティブだというのか!」
その攻撃は鮮烈を極めた。サーヴァントとマスターという関係はこの瞬間何の意味も持たなかった。
青く白い槍はナナジンを捉えるべく幾多の攻撃を為してきた。捉えられれば即ち死。エイサップは直感的にそのことを把握する。
研ぎ澄まされた意識に巨人の叫びがこだまする中、彼はそれでも巨人と戦うことを選んだ。
「死ねよやああああああああああああああ」
強烈な殺意と共に両肩より槍が放たれる。鋭くも柔らかな、矛盾した性質を持ったフィンがナナジンを狙う。
させるか! エイサップは目を見開き、剣を抜く。腰より柄を引き抜き、オーラの刃を解き放つ。
燃える! 陽光を浴びたソードが炎を纏った。ソードを手に、オーラを火に、エイサップは槍と対峙した。
「斬るぞぉぉぉぉぉぉ」
叫びが衝突し、オーラとチャクラが渦を巻いてぶつかった。
オーガニック的な力に対して、エイサップは聖戦士の神秘で対抗する。
バチバチと弾けるような音が東京の空に響く。その下では多くの人が視える。
あそこには人がいる。この街を生き、そして明日を生かんとする者たちが。
そこにこんな力を落す訳には行かない。この力はこんな風にあってはいけないものだ。
オーガニック的ということは、それ即ち破壊とは相反している。それをエイサップは自然と感じ取っていた。
「令呪を以て命ずる!」
「な、何をおおおおおおおお」
オーラとチャクラがぶつかる中、その手を翳した。
ナナジンの視界を通じて巨人が視える。バロン・ズゥと名のついた巨人を止めることができるのは自分の役目だ。
故にエイサップは言った。
「止まれ! その力が振るうべきはあの街じゃない!」
ギン! と音を立て、その手の甲が明滅する。
それは与えられたこの戦争にて印の一角。力を御する象徴だ。
摩訶不思議な力! それをエイサップは行使する。ただ歪んだ力より街を守る為に。
「ぬう!」
絶対の縛りを受け巨人が苦悶の叫びを上げる。
如何な強大な存在であろうと、それに対抗することはできない筈だった。
「こんなもので私の、私が――」
しかし巨人はなおも蠢いた。
その身をぶるぶると震わせ、立ちふさがる障害を跳ね除けんとした。
その様にエイサップは息を呑んだ。なおも動くその願いの意志。その正体は――
「――ジョナサンに。息子にしてあげられなかったことに」
――その言葉と共に、オーガニック的な光が炸裂した。
キイイイイイイン、と甲高い音が割れるように響く。
そしてその怒張したチャクラが輪となって巨体を包み込んだ。
「行けない! そちら側に行ってしまえば」
「ジョナサンの為にいいいいいいいい」
エイサップの本能的な叫びも届かず、東京の空を光が埋め尽くした。
エイサップのオーラ力すら退け、オーガニックエナジーがナナジンを取り込む。
そしてエイサップは触れた。巨人の――ランサー/バロン・マクシミリアンの光の一端に。
そこにあったのは――母性だ。
ここでないどこか。そこには一人の母と、その息子がいた。
母は母であった。息子もまた母を求めていた。それは人であるということだった。
しかしどこで間違ったのだろうか。二人は噛み合わず、すれ違い、決裂してしまった。
その別れが――母が息子に銃を向けるという悲劇になって帰ってきた。
「これが……貴方の願いだというのか」
エイサップの口からは思わず言葉が漏れていた。
エナジーが記憶となって意識を瞬く間に走っていく。
流れるように繰り広げられた愛憎劇。それを通してエイサップは巨人が母であると知った。
そう母は、息子に銃を向けた母は、それでもなお母であった。あらんとした。
それ故に彼女は全てを捨て、息子へと走った。その願いの重さにプレートが――宇宙の孤児(オルファン)が応えたのだ。
母の想いがリバイバルを呼び、巨人となってカタチを得た。
――それこそがこの力の正体! 何とオーガニック的で原始的な想いの丈か。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「それで貴方はこんな力を……!」
母は叫びを上げる。そしてその身に更なる光を、より強きエナジーを、遥かな巨躯として体現する。
ハイパー化。令呪ですら留められない強烈な願いの光。そういうものに、エイサップは触れてしまったのだ。
「ジョナサンの為に死ねえええええええええええええ」
母の叫びが東京にこだまする。その光を持って東京を焼き、戦争に勝利する。そのつもりであるか。
それを理解した上で、エイサップは臆さず口を開いた。
「駄目だぁぁぁぁ!」
「息子を想う母の気持ち! そういうものを私は振るう!」
「駄目です! 貴方のそれは、ただそうありかったと思っているだけです。
母でありたいではない。母でありたかった――未来を創るではない。過去を埋めようとするものだ。
過去を力にして振るってはいけないんです。それは未来を滅ぼす行いだ!」
「私も、ジョナサンも、過去はつらいものでしかなかった!」
「だからこそ未来を向いて居なくてはならないんです。間違ってもそんな風に振るっていいものじゃない。
親と子は傷をなめ合うような関係じゃない!」
エイサップの言葉に迷いはない。
彼もまた親との距離を見失っていた者だった。
不貞の仲でできた子ども。アメリカと日本という、異国の血を混ぜ合わせた者。
そんなのだから、エイサップは自分の居場所というものがあやふやだった。
だが、それでも母は母だ。父は父だ。それだけのものだ。
認められない関係を、親を求める心を力にして振るってはいけない――!
「私はただジョナサンの為に戦う! ただそれだけでいい。バロンであればいいのだ」
「その想いは間違っても悪じゃないんです。決して悪にしてはいけないものだ」
「私は……私はクリスマスすら祝えなかった――!
8歳と9歳と10歳と、12歳と13歳との時も――カード一つ渡せなかった」
「それを想う心こそ、その過去を忘れられぬつらさこそ、貴方の言う力でしょう!
それを戦争に使っちゃ駄目だぁぁぁぁぁぁぁ!」
言葉と言葉をぶつけあう。迸るエナジーに載せ、言葉が空間に広がっていく。
エイサップはバロンと名乗る母に相対し、その力を留めんとした。
「あの子は……あの子はただ悲しかっただけなのに、私は気づいていたというのに――」
「待つ子のつらさもあれば、待たせる母のつらさもあったでしょう。
それをまず思い出すんです!」
「思い出すものなど――!」
巨人、バロン・ズゥが再び動かんとする。チャクラ・エクステンションが高まっていく。
東京を焼き、息子への愛を力にして願いを叶えようとした。
そんなことをさせてはいけない。
強い意志を持ってエイサップは再び手をかざした。
令呪にオーラ力を乗せる。そして再び言うのだ――母よ、立ち止まれ。
「私はバロン・マクシミリアンだ!」
自らを縛らんとするオーラを、母はそう言って跳ね除けようとした。
だが、認めてなるものか。
息子想う母の心が、街を焼くようなものであってはいけない――
「仮面を被って親ができるものかぁぁぁぁぁぁ」
その言葉と共に、巨人の光は縛られ、収束していった――
◇
街に落ちたエイサップは「ン……」とうめきを漏らした。
土の匂いがする。どこかで人の雑踏も聞こえた。
そして意識が戻ったとき、はっ、として彼は立ち上がった。
そこは東京だった。
見慣れた東京の街。人がいて、生活している地上界。
そこに彼は帰ってきたのだ。
(いや)
エイサップは気付いた。帰ってきたのではない。
服は聖戦士のそれであるし、何より消耗が先の戦いが現実であったことを告げていた。
空を見上げた。しかしそこには何もない。バロン・ズゥもオーラバトラーも、全て消え去り元通りの空がある。
どうやらあの光に呑みこまれ、二つのマシンは消え去ったらしい。
バロン・ズゥ――ランサーの方はその性質上再び持ってくることも可能かもしれない。
(そうだ――あの人は)
聖杯戦争。エイサップが突如として巻き込まれた事態と、そしてそこで出会った一人の母。
全ては唐突だった。しかし本能的に理解していた。聖杯なるものの真意は掴めずとも、オーラ力が呼応して彼女を呼んだことは分かった。
そして呼ばれた彼女は、その願いを叶えるべく東京を火の海に包もうとした。
それを止める為に、自分は戦い、そして止めたのだ。
目を瞑り、力の流れを感じ取る。
聖戦士としてのオーラ力、それとオーガニック・エナジーとの接続が確かに確認されると、エイサップは思わず息を吐いた。
大丈夫だ。彼女はまだ近くにいる。ただ眠っているだけだ。
(これから……一体どうなるんだ)
エイサップは自身の身に起こったことに混乱していた。
突如としてバイストンウェルに呼ばれ、かと思うと唐突にまた別の東京に呼ばれた。
しかも呼ばれるままに戦ってしまった。己の従者の暴走を止める為に、令呪と呼ばれるものを二つも行使してしまった。
とはいえ――それでもこの東京を守ったことに後悔はなかった。
そこにある人々の生活を守ることができた。違う東京であっても、エイサップにとって知らない街ではない。
バロン・ズゥとナナジンの戦いは目立つものであっただろうが、実時間にしては数分。被害もほとんどなかったことだろうし、東京の日常はそのままだろう。
そして何より子を想う母の力で街を焼かないで済んだ。
それは絶対に正しいことだったとエイサップは感じていた。
【クラス】ランサー
【真名】バロン・マクシミリアン(アノーア・マコーミック)
【属性】中立・善
【ステータス】
筋力:B- 耐久:B- 敏捷:B- 魔力:C 幸運:E 宝具:A-
【クラス別スキル】
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
抗体:B
オルファンのアンチボディとなる適正。
ランクが低いと不安や恐怖を増幅させられ拒否反応を示すが、高いと攻撃的かつ野心的になり、オルファンを盲従し他人への関心が薄れ独善的になる。
チャクラ:B
物理的破壊効果を持つ輝きをアンチボディを通して扱うことができる。
瞬間移動や交信等、さまざまな不可思議な効果も生み出す。パイロットの精神状態などで威力が変わる。
母の愛:A+
子を想う母の心。決して揺るがぬ意志。限界を越えてもなお戦意は衰えない。
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。
【宝具】
『母から、息子に(ジョナサン・バロンズゥ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:10人
バロンと化したランサーがジョナサンへと与えた新たなアンチボディ。母の想いにプレートが応え、リバイバルした。
宇宙を漂う孤児、オルファンのプレートから生み出された存在。「オーガニック・マシン」とも呼ばれる。
ブレンパワードとグランチャーの二種がいるが、バロンズゥはグランチャーの変種とも言うべき存在で、オルファンの抗体化を促進するなどの特徴は強化された形で受け継いでいる。
この機体はバロンがリバイバルさせた機体をジョナサンに与えたもの。ソードエクステンションなどの手持ち武器はなく、胸部から直接チャクラ光を照射する。
また、両肩のひれ部分(フィン)は伸縮自在の格闘兵器であり、これが槍となって相手を絡め取るように切り刻む。
ランサーのステータスはこの宝具を使用している際のもの。
マイナス補正がついているのは、エイサップとの激突で宝具自体にダメージを受けた為。
ランサー自身も消耗した今、宝具自体も全長3メートル大にまで縮んでしまっている。
【人物背景】
『ブレンパワード』の登場人物。立ちふさがった最後の敵。
物語後半に突如として現れた謎の人物で、仮面や鎧・マントを身に着け、声もボイスチェンジャーで変えている。
自分が見込んだジョナサンにオルファンを掌握させようと目論んでおり、自身の所有するバロンズゥを与えるなど強く肩入れしている。
……その正体は行方不明になっていたノヴィス・ノア初代艦長でジョナサンの実母アノーア・マコーミックである。
ジョナサンと再会し、彼の為に地位を捨て仮面を被り彼を支援しようとしていた。
最終決戦では自らバロンズゥに乗り込み、その妄執から機体は巨大化しハイパーバロンズゥと化し、チャクラエクステンションすらものともしない圧倒的な戦闘能力を見せる。
無理にエナジーを消耗した末にハイパーバロンズゥは崩壊、ハイパー化の代償で心身ともに激しく衰弱しジョナサンに連れられる形で戦場を去った。
最後はジョナサンと共にオルファンの巣立ちを見つめていた。仮面を取り息子と二人で。
【サーヴァントとしての願い】
ジョナサンの為に。
【マスター】
エイサップ鈴木
【マスターとしての願い】
???
【能力・技能】
バイストン・ウェルの人間が扱う生体エネルギー。
地上人であり聖戦士であるエイサップは強いオーラ力を持っている。
魔力の代用となるかもしれない。
彼の駆るオーラバトラー。
東京に来る直前まで乗っていた為、一緒に召喚された。
が、バロンズゥとの激突でどこかへ飛んで行ってしまった。
【人物背景】
アニメ版『リーンの翼』の主人公。
日本・山口県在住の大学浪人中のフリーター。日本人の母と、アメリカ人の父を持つ。
友人である朗利と金本がアメリカ軍の基地へテロを起こしに行った事で、バイストン・ウェルから召喚されたオーラシップと遭遇。
自身もバイストン・ウェルへと召喚され聖戦士となる。
最終更新:2015年07月30日 04:18