園原杏里&アサシン ◆7bpU51BZBs
月の光を意識した事は無い。
否――自分が意識して何かを視る事など、一度としてなかった。
両親を亡くしてから、自分はずっとそのままでいて。
――あの声も届かない。
自分は、人を愛せない。
何かに寄生しなければ生きていけない。
常に客観視している。
額縁の中に存在する世界を、外部から眺めている。
それは多分これから先も変わらない事なのだと――園原杏里は思っている。
――今、この時ですら。
杏里がいるのは額縁の外だ。
学校からの帰宅の途中だった。
杏里には友人と呼べるような人物は一人しかいないし、その友人も近頃は杏里と距離を置いている。
自分から物理接触《リアルコンタクト》を図るような事も殆どない。
一人で帰宅するのが常だったのである。
平素とまるで変わりない。
昏い路。
それを辿る途中。
善くないものに――行き会った。
男の眼は明らかに正気ではなかった。
紅く染まった、歪に光を反射する両眼。
何かに憑かれたでもしたか。
そもそも、人ではないのか。
杏里は。
すぐに背を向けて逃げ出した。
怖かったのだと思う。
その男の――眼が。
その眼を、杏里は知っている。
それは杏里の――母親の眼だった。
母が、父へと向けた眼だった。
知らない筈は無い。
なのに――それを知っているという事が、今ここにいる杏里の記憶と矛盾していて、それが怖かった。
――愛してる。
躰と心が乖離する。
幽々と眩暈が起こる。
気が付けば杏里は人気の無い路地裏にいて、大柄な男に頸を絞められている。
聲が出せない。
出したとて――周囲に人の気配はない。
逃げ場も――無い。
額縁の外で視ている杏里は何処か冷静に状況を把握している。
だから。
目の前の男を。
――どうする?
手段はある。それが思い出せない。
男の力が強まる。
壁に押付けられた杏里の躰は宙に浮いている。
――愛してる。
意識が遠のく。
額縁が遠のいて、何も視えなくなる。
その――寸前。
大きな満月を背にした、
狼の姿を視た。
男が手を離して、後ろを振り向いた。
杏里は尻餅をつく。
鋭い刀のような凶器を持った狼は。
文字通り音も立てずに男の許に駆け寄り、振り向いたその喉首を。
掻き切った。
ただひゅうひゅうという音を出しながら、男はそのまま倒れて、
死んだ。
「――あ、」
杏里は顔を上げる。
狼が――少女が、そこに立っていた。
澄んだ凛々しい眼。
ヴェリーショートの髪。
端正な顔立ち。華奢な腕。
何もかもが血に染まっている。
真っ赤な血潮を蒼い月光が照らしている。
「あなた、は――」
――知っている。
目の前の少女が如何なる存在であるのか――杏里は知っている。
サーヴァント。聖杯戦争。紅い月。
自らが寄生する相手の事も――明瞭と思い出している。
人を愛する妖刀。
人でないものを断つ妖刀。
杏里の中で常に愛の呪いを唱え続ける罪歌は――沈黙している。
まるで――目の前の少女が人なのか、そうでないのか、判断できないとでも言うように。
サーヴァントは。
高校生の杏里と、精々が二三程度しか歳が変わらないように見える少女は。
迚も悲しげな表情で。
「僕は」
人を殺しましたと言って、血に染まった手を翳した。
杏里は――何も言えなかった。
おとうさん。
おとうさん。
苦しいよ。
罪歌が無ければ。
母が、父を殺していなければ、杏里は既に死んでいる筈だった。
そして、今この時も――杏里は少女に助けられたのである。
けれど。
「僕は善悪の基準も物事の真贋も正否も判らないけど――仮令止むを得ない状況でも――どんな時でも――ひとごろしは」
良くない事です。
「悪者を退治した訳じゃない。正当防衛でもない。正義の天誅でもない」
僕は単なる殺人鬼なんだと少女は言った。
その――罪を。
決して正当化してはいけない。
こびりついたけものの匂いを、消してはいけない。
僕は。
「だから――ここに来た」
酷い矛盾だと杏里は思う。
或いは少女が召喚された事そのものが何かの間違いなのかもしれない。
聖杯は最後の勝利者の願いを叶えるものだと言う。
ならば――其処に辿り着く為には。
――厭だ。
それは杏里も厭だった。
少女も。
殺人という行為を――決して自ら進んで行う事はしないだろう。
ただ、それをする時は。
魔物が――降りている。
――愛してる。
「――私には――聖杯にかける願いは――ありません」
色々な想いを振り切って――杏里はそう言った。
それは慥かな事実である。
他者を蹴落としてまで叶えるべき望みを、杏里は持ち合わせていない。
あるとするならば。
「私は、この戦いを――止めたい」
聖杯がどのようなものなのか。
本当に願望機としての機能を持っているのか。
それは理解らないし、杏里にとっては重要な事ではない。
ただ。
この戦いは――果たして一度だけで終わるのか。
杏里がここにいるのなら――その周囲の者達も巻き込まれる可能性はあるのではないか。
その想像は。
自身に降り掛かった事態よりも遥かに、杏里を惧れさせた。
自分は人を愛せない。
罪歌は――人を愛している。
少女はどうなのだろう。
判る筈もない。
人の心は箱に入っている。
箱の蓋は決して開けられない。
ラベルが貼られていようが中身が説明されていようが、結局は想像する事しかできない。
それが普通なのだと杏里は思う。
自分でさえ自分の事を全て知っている訳ではない。有耶無耶である。
強かな所もあれば褻らわしい所もある。
杏里の内部には愛を謳う妖刀が入っていて杏里はそれに寄生している。
完全に支配している訳でもなければ、その逆でもない。
瞭然と領解る部分など何一つない――。
――魍魎の匣。
けれども。
今表層に出ている園原杏里という外的側面《ペルソナ》は。
「それに――私は」
池袋を。
「この街を――守りたいんです」
偽物でも。
傲慢かもしれないけれど。
ここに――彼らがいるのなら。
太陰が浮かんでいる。
三十八万四千四百キロの距離から届く青白くて弱い光が杏里と少女と、死体を照らしている。
杏里は額縁の外部からその景色を視ている。
これは――現実である。
データではなく。リアルだ。
少女は――杏里から離れる。
そのまま背を向けて、去ろうとする。
「ま、待ってくださいッ」
杏里の声に少女が振り向いた。
澄んだ眼が杏里を直視して、杏里はその視線に耐えられずに目を逸らした。
「僕は人殺しです」
だから一緒には――いられない。
「でも――」
言葉を続けようとする杏里の頸に。
ナイフが当った。
――愛してる。
罪歌は杏里に戦い方を教えてくれる。けれど。
「僕は喧嘩は弱い。戦い方なんて知らない。でも――殺し方なら知っている」
身体の内部から罪歌を顕現させる事さえ出来なかった。
少女がその気になっていたのなら。
――僕はそんなことはしたくない。
「あなたの事だって僕は殺してしまうかもしれない。それに僕は――ひとりの方がいい」
ごめんなさいと言って少女はナイフを持った手を引いた。
杏里は何もできない。
少女を受け入れられない訳ではない。
ただ。少女は――杏里と同じ場所にいない。
――愛してる。
少女はどこまでも人間で。
そして。
「僕は――狼だ」
行き遭う者を屠る――。
忌避すべき狼《ルー=ガルー》だと少女は言った。
【クラス】
アサシン
【真名】
神埜歩未@ルー=ガルー 忌避すべき狼
【パラメーター】
筋力E+ 耐久E 敏捷D+++ 魔力E- 幸運D 宝具E-
【属性】
秩序・中康
【クラススキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
【保有スキル】
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失っても一日間現界可能。
直感:E+
戦闘時、常に自身にとって最適な展開を感じ取る能力。
相手を殺害する時――ただ、その一太刀にしか活路がないその時のみに発動する。
情報抹消:B
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶・記録から、彼女の能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。
たとえ戦闘が白昼堂々でも、カメラなどの機械の監視でも効果は変わらない。
……自身の犯した罪がなかったことにされたアサシンの逸話の具現。
狼は絶滅した。
そういうことになっている。
【宝具】
『忌避すべき狼(ルー=ガルー)』
ランク:E- 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
通り悪魔の一種。
何万分の一秒の僅かな隙間、「今ならできる」というその時が訪れた時、あらゆる制約、条件を無視し、アサシンの目の前に立つものを殺害する。
由来、動機、不明。
アサシン自身もこの宝具をコントロールすることは出来ない。
出合ったものを屠る忌避すべき狼。
【weapon】
特殊セラミック製ナイフ『アームブレイド』。
研磨せずとも劣悪な環境下で百年以上性能を維持できる凶器。
【人物背景】
携帯端末《モニタ》という鎖に繋がれた管理社会で生きる少女。
ヴェリーショートの髪に男言葉で話す。
ある満月の夜、「殺人衝動を抑えきれなくなる」という男に襲われた歩美は、その男を殺害してしまう。
既に男は落ち着きを取り戻し、謝罪し、凶器を手放し、殺す理由などない。
正当防衛でも、制裁でも、復讐でもなく、殺した。
憎かった訳でも怖かった訳でもなく、何の得もない。
歩美は自らの殺人の動機を考えていた最中、ある連続殺人事件に巻き込まれる。
人を殺したくなるようなことも、殺す事で満たされるようなこともなく、ただ殺すだけの狼。
罪への罰を求める殺人者。
【マスター】
園原杏里@デュラララ!!
【マスターとしての願い】
戦いを止めたい。
【weapon】
妖刀・罪歌。
普段は杏里の身体の中に収納されており、任意で顕現させる事ができる。
「人を愛する」人格を持つ罪歌によって斬られた人間は精神を犯され、持ち主である杏里の命令に服従するようになる。
デュラハンの首と身体の繋がりを断ち切るなど、霊体を斬り裂く事も可能。
【能力・技能】
罪歌の持つ力と経験を引き出す事で強大な戦闘力を発揮する。
学校での成績は優秀だが、PCや携帯電話、インターネットに関する知識は極めて薄い。
【人物背景】
池袋に存在する来良学園に通う高校生。
おかっぱ髪に眼鏡をかけた、地味な風貌の少女。
幼い頃に父親に殺されかけ、その際に母が父を殺し自殺するのを目撃する。
直後に、死んだ母親が持っていた妖刀・罪歌の新たな所有者となる。
自身の心を常に対象となる事柄や人物から「額縁を隔てた」形で捉えるようにしている為、本質的に他者との付き合い方が理解出来ておらず、また常に恐怖感も抱いていた。
これらの理由から、本来取り付いた人間の精神を蝕む罪歌の声すら彼女には届かなかった。
自らを「寄生虫」と称し、他人に依存する生き方を行う杏里は、親友である張間美香が行方不明となった事をきっかけに、歪んだ愛の物語に巻き込まれる。
【方針】
不明。
最終更新:2015年01月01日 04:03