【アミーゴの国を行く・メヒコ旅行記】
第3話)恐ろしいトッピング
《メキシコ旅行記|グアナファト・ケレタロ・モレーリア》
想定外の800ペソという大金をデジカメの記憶媒体に費やしてしまった。旅の初めはなるべく節約したかったのと、別のホテルを探すのが面倒だったのとで、結局一泊100ペソ(約1000円)の安ホテルに連泊することにした。昨日はシャワーも浴びずに寝込んでしまったから、今日はたとえ水シャワーであっても我慢だ。さあ修行するぞぉ、修行するぞぉぉ、修行するぞぉぉぉ。僕は出るはずのないお湯の栓をひねった、肌を突き刺すつめたい水を覚悟して。
おっ!
すると奇跡が起こった。なんと生ぬるくはあるがお湯っぽい水が出てくるではないか!そうか時間帯によってはお湯が出るんだぁ(←安宿にはよくある話)。これで100ペソならお得ではないか。
一日遅れの時差ボケと今日一日の疲れを流しきったら、あっという間に睡魔が襲ってきた。寝床につくとそのまま翌日の昼前まで爆睡してしまった。
グアナファト2日目は市の観光局が行っているミニバスツアーに参加した。チケットは広場のキオスクで簡単に買える。ガイドブックによればこのツアーで一部マニアに有名なミイラ博物館にも行けるという。
ツアー同行者は皆メキシコ人で、老夫婦とおばさん二人連れの計4人。少しばかり期待していたラテン美女は残念ながら皆無であった(←定番だと言うなかれ!)。そしてガイド兼ドライバーの親父はと~てもおしゃべりな典型的メキシカンだ。
「セニョール、スペイン語は分かるかい?」(と言ったのだと思う。以下同じ)
「ノン」
「そうか、じゃ、ゆっくりしゃべるからな?」
ゆっくりと言ったって分からんものは分からん! だが、そんな言いわけはアミーゴの国では通用しない。どーみても外国人旅行者の僕なのに英語で話しかけてくれるなんて甘い夢であった。この国では空港を離れた瞬間からスペイン語のシャワー攻撃が待ち構えているのだ。
「ゆっくり話す」とのたまったガイド氏のトークは、いつしか他のメキシコ人客との会話に会わせてどんどんテンポが加速してゆき、車の中はあっという間にスペイン語の速射砲が飛び交う戦場となってしまった。その流れ弾は容赦なく僕にぶち当たる。こちらもかじったことのある英・仏・ポルトガル語の知識を総動員して、適当に「~ドス」だの「~オス」だのスペイン語風の語尾をくっつけて応戦を試みるのだが、ま~るで歯がたたない。
ツアーは郊外にあるカーサと呼ばれる鉱山王の邸宅を回った跡、鉱山の坑道跡にたどり着いた。石造りの小さなトンネルから観光客も坑道の中に入ることができる。入り口は小さいが、長さは半端ではない。さすが世界の銀の1/3を産出していただけあって、無数のトンネルがアリの巣のように縦横に針巡らされていた。植民地時代にはこの陽のあたらない坑道のなか、先住民が奴隷状態で働かされていたのかと思うとなんだかゾっとする。
鉱山跡の坑道に入る。坑道内には教会も設けられていた。
いくつか郊外の見所を回った後、最後にツアーは変な館に到着した。これがミイラ博物館だろうか? いや、入ってみると中には恐ろしい拷問器具のオンパレード。樽の内側に鉄の針がついた器具やら、貼り付け台で骸骨と化した蝋人形やら。一体ここは何だったのだろう。拷問博物館? ともかくミイラ博物館でないことは確かなのだが、こんな所でもメキシカンのカップルたちはお熱くチュー三昧だ。こういう所の方がかえってラブラブ・モードが高まるとでもいうのだろうか? ラテンの血は理解できん。
昼過ぎにツアーから戻ると、空はからりと晴れて気温が少々高くなってきた。古びた教会の横で子供たちが蟻のように群がっている。何だろうと寄ってみるとアイスクリーム売りだった。むむむ、何だ?このアイスクリームは。見た目はパイナップル味のようなだが、妙なオレンジ色のトッピングが降りかけてある。まあ、とりあえず一つ試してみよう。
「ウノ、ポルファボル(ひとつ、ください)」
「OK、チーレ?」
"チーレ"って何だ?まあいいか。ここは潔く"ハイ"と言ってしまうのが男前ってものさ!
「シン!(おねげぇしますだぁ)」
するとおじさんはカップの内側にアイスを少量バターのように塗り、不思議なオレンジ色の粉をたっぷりとまぶしつけた。次にアイスをカップに盛ると仕上げにその毒々しいオレンジ色の粉をどっさりと降りかけた。
あっ。チーレってもしかしてチリ=唐辛子じゃん!!。アイスにそんな恐ろしいトッピングなんて実存していいのかぁ!
まあ、これも旅の土産話になるから我慢して食べてみよう。唐辛子アイスなんて絶対激マズに違いないが覚悟は決まった。僕は恐る恐るあってはならぬ存在を口にしてみた。
すると、
あれれ~、
辛くな~い。
意外であった。唐辛子アイスは辛くないどころか、かえってパイナップル風味のアイスの甘みが増して感じられる。そうだ、これは我々日本人がスイカに塩をかけるのと同じ発想だ!! 嘘みたいだが、唐辛子アイスおいしいじゃん!
想定外のB級グルメの味を堪能し終えると、カップの底には解けたアイスがねっとり沈殿し、そこに唐辛子粉が混ざってペースト状になったものだけが残っっていた。僕は最後にそれスプーンで口に運んだ。
ア”チチチチッ~!!
その最後の一口だけは唐辛子の塊と言ってよかった。アミーゴの国を甘く見てはいけない。
最終更新:2016年08月27日 16:57