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 結構シリアスに締めた続きなのに悪いけども、私も真面目なことばかり考えて生きてるわけでもなかった。  運動をするとお腹が空く。  だから、ぐうぐう鳴ってるお腹の、出てるへその上あたりを覆って私がいそいそと食べ物屋に急ぐのも、何の不思議もないわけである。  関係ないけどレンジャー連邦では、愛はお腹に宿るといって、既婚者はへそを覆う風習がある。未婚者は、へそを覆わない服装がデフォルトだ。関係ないけど。今の話の流れと、すっごく関係ないけど!  むかしから女系の強いお国柄だけあって、甘いもの屋はそこかしこにある。甘いものと言えば帝国の星鋼京、なんだけど、そこはさすがに地産地消という奴で、観光立国もしている我が国には、ちゃーんと非輸入もののスウィーツがいっぱいある。原材料までは手に入らないものも多いらしいと教えてもらったが、あるったら、ある。  女子高生、運動部、部活帰り、甘いもの。なんて違和感のないキーワード群だろう。  だから当然私がケーキ屋なんかに足を運ぶのも、高校生がドーナツをパクつくように、水が高きから低きに流れるように(ルリハちゃんがなんか使ってた。由来のあることわざじゃないのでさすがに私でも意味がはっきり分かるぞ、これは物理だ!)、自然の法則と言っても過言じゃないのだ。  競技場のある通りから大分進んで10分くらい、家のある側とは反対方向の西向き、角のやたら大きな一軒家を目印に住宅街の中へと分け入ると、一つ、二つ、三つ目のブロックの奥角っこに、紳士のかぶる背高帽みたいな、白くて、横幅の割に少し縦長に見える、ひょうげた形の二階建てがある。  大きな金のリボンでハートを作った上に文字プレートを並べた意匠の、お店の看板には、こうあった。 『スウィート・ハート』  ガラス張り南向きの店構えは、今は西日よけに布製シェードが降ろされていて、客席のあたりは中の様子が伺えない。「AM10:00~PM10:00(月木定休日)」と、ドアの横に据え付けられた黒板には白墨で書かれていた。添えてあるイラストのケーキは、実は毎日種類が変わっている。  けれど、そう。そんな芸の細かさは問題じゃない。  どきどき、緊張しながら中に入ると、コックコートにバンダナ姿の彼が、レジにいた。 「いらっしゃいませー」 /*/  告白してしまおう。  私は甘いものが苦手だったりする。  どーしてケーキ屋なんかに行くんだよ! って、怒られてしまいそうな気もするけど、カレーなら断然辛口5倍以上、部活帰りにカレーのおかわり三皿はいけるほどの辛いもの好きだ。なんでケーキに対する比較対象がカレーなのかはあまり深く考えないでほしい。好きとか嫌いとかではない。重力と戦う乙女には(走高跳とあわせて二重に物理に抗っているのです、女の子がみんな甘いもの好きだなんて誰が決めた!)、カロリー源の炭水化物と、肉・魚介、なんでもタンパク源を受け容れる、カレーのタフな香辛料パワーが必要なだけだ。  ……べ、別にクミンシードとかレモングラスの小瓶を持ち歩いてたりしないよ?  ほんとだよ? 「ご注文はお決まりでしょうか」  おっと。  ぼうっとしてしまっていた私に、あからさまな棒読みで注文を促してくる、スウィート・ハートの店員が、彼だった。  あ……、かかか、彼といってもただの三人称表現ですよ?  具体的な描写をまだ避けているのも他意はないですだよ?  とにかく私は慌ててショーウィンドウの三段に並んだスウィーツを眺める。ガラス張りの向こうで、定番の生クリームやらフルーツやら、スポンジ生地、クッキー生地、パイ生地と、素材はみんな砂糖だろうに(暴論)、どうやって作ったんだかわからないくらいに、可愛らしくてびっくりする商品が、ちんまりと選ばれるのを待ちながら座っていた。  あと、芸も細かいんだ。  例えばショーウィンドウを形成している銀色の、多分アルミか鉄なんだろうけど、甘味を載せた三段のプレート。この先っぽの方が丸められていて、のぞきこんでいても威圧感をまるきり受けない。私だったら載ればいいやと四角いプレートを差しちゃうだろう。  華やかな手製カードの品評と共に値札が添えられていて、主役の甘味たちをひっそりと盛り立てているのも心憎い。一個あたり平均7~8にゃんにゃん(日本円で計算するなら100倍換算)という価格設定も、財布に憎い。カロリー的には等価値なのかもしれないけれど、チェーン店なら連邦カレーの蝶盛りが食べられてしまうお値段だ。  でも、悔しいけど、納得してしまう味、らしい。  何故疑問形かというと、 「えっと、じゃあ、この、マスタードケーキを珈琲セットで」  私が選ぶケーキは必ずキワモノだから、だった。  ううー、だって、だって、キワモノでもおいしいんだもの!  何故か週替わりで置いてくれてるんだもの!  珈琲とマスタードの風味が合ってたっていいじゃない!  ほんのり甘いくらいなら食べられるんだもん!  見た目だって、細いビターチョコで飾り付けられてて、蝶が飛んでるみたいで綺麗だし、形だって華やかだし、味を引き締めるためのナッツ類のクラッシュも絶妙そうだし、うー、うー、うー! 「ぷっ」 「はっ」  表情に、出てしまっていた、だろうか。  耳の錯覚でなければ、笑われちゃった気がする。  パッとショーウィンドウから顔を上げると、いつもと同じに彼は、棒読みとマッチングする無愛想な鉄面皮を貫き通していた。しみじみ思うけど、接客業としてはありえない。  けど……。  体をよく動かす人にだけ伺える、精悍な肌の張りをした、力強さに満ちた顔立ちや、ああ、白状してしまおう、それなのに野蛮になったり男臭くならない、太すぎない骨格……もっとありていにいうと、見た目がものすごく格好良いんだ。  身長は180にはギリギリで満たないぐらいだろうか。押しなべて体格がいいとも悪いとも言えない、ニューワールドの中では平均的なレンジャー連邦でも、やっぱり平均よりかはちょっとだけ抜きん出た背丈は、頼もしさを醸し出していて、163センチの私と、ちょうど手のひら一つ分くらい違うはずだ。  フライパンで叩いてもびくともしなさそうな、男の人らしい肩幅に、コックコートの上からでもわかる筋肉の張り。しゅっと逆三角形の広背筋が、体をねじったり、かがんだりする、ふとした動作に浮き上がって、も、たまらない!  これを言うとルリハちゃんに趣味がマニアックだよと引かれると思ったので連れてこなかったんだけど、運動部なんかをやっていると他人の筋肉の具合が気になってきたりする。一種の職業病なんだろうか、佇まいだけを見ても、その人の鍛え方がわかるようになる。漫画じゃないが、「出来ておるのう」と、歩き方だけで感心しちゃう相手にたまに出くわした時の感動ったらない。  このスウィート・ハートの店員さんの彼も、ちょっと胸を突いたぐらいじゃ、たじろぎもしなさそうな見事な鍛え方なんだ。 「お待たせしました。ただいまご案内いたします」 「はい」  レジの左手からするりと出て、奥に広がる20席程度の小さな客席へと案内される。私は私で、うっとりした感じで男の人の後ろ姿を眺めている不審者顔になるのを必死に抑えながら、それについていく。体当たりしてむしゃぶりつきたくなる背中だ……。  そう。  私、卯ノ花ミハネは、恥ずかしながら、  この店員さん目当てで店に通いつめている、ある意味嫌な常連さんなのでした。 [[→次へ>無限爆愛レンレンジャー:第一話(4)]] (城 華一郎)

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