「レンジャー連邦のモットーは!」
「1にソックス!」
「2にメガネ!」
「「3,4がなくって」」
「5に女装ぶあ!?」

すぱーん! 猫士・じにあの巨大ハリセンが炸裂する。

「全部違いますっ!!
 ていうか華一郎さん、あなたは復讐とか言ってたんじゃないんですか!?」
「ネタになればよかろうなのだよ、文族にとってはな。表面上の変化なぞさしたる問題では、ない!!(かっ!!)」

これがほんとに法官1級を取った人かしら…と、じにあは頭を抱えた。ちなみにハリセンはどこへともなくしまわれている。

今日は仮想飛行士と猫士の訓練日。大気中に舞う砂の粒が見えるほど、よく晴れた早朝から、藩都の国立大学グラウンドの上でみんな一列に並んで、目の前にあるハテナボックスの中に手をつっこみ、順番に一枚ずつ紙を引いていく。

「惜しいっ!」
「愛佳ちゃん、よろしくね」

愛佳、マーブルペア。

「浅葱殿、よろしくでござる!」
「ひゃー、フェ猫さんとかー…パイロットコンビですね、がんばりましょう!」

浅葱空、ビッテンフェ猫ペア。

「♪」
「おっ、ジョニ子ちゃんか。よろしくな!」

ジョニ子、華一郎ペア。

「護民官ペア、か…」
「いっちょやりますか!」

虹ノ、楠瀬ペア。

「わーい山下さんとだー」
「蝶子さん、がんばりましょうね」

蝶子、山下ペア。

「よろしく」
「こちらこそ」

ドラン、じにあペア。

「おお、夜星くんとかあ」
「よろしくだにゃん!」

小奴、夜星ペア。

「よーし、負けないぞ…!」
「…」

双樹、ヒスイペア。

「よろしくね!」
「ああ」

サク、マキアートペア。

「わあ…よろしくね」
「ふにゃ」

ミサゴ、にゃふにゃふペア。

「今日一日、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ!」

アスカロン、豊国ペア。

「よろしく、ハニーくん!」
「よろしくね、青海さん」

青海、ハニーペア。

「これで全員揃いましたね」

抽選の結果審判役として選び出されたのは、マグノリア女史であった。ちなみにこの抽選、実際に紙でクジを作って引いたものなので、作意はない。藩国一のおだやかな気性である彼女が選ばれたのはまさに天の配剤といえよう。

厳正なクジの結果、それぞれペア同士に分かれた総勢24名は、アイドレスフル着用の格好で並びながら、朝礼の時に校長が立つような台に登っていったマグノリアの前に、整然と気をつけをした。

マグノリアは審判役が読むことになっていた紙を広げ、マイクの高さを律儀に調節し、それから、記念すべき第一声を、こう発した。

「…それではこれより第一回、レンジャー訓練サバイバルレースを開催いたします」

 * * *

12組24名で開催されるこの大会仕立ての訓練の内容は、こうだ。

ここ、レンジャー連邦国立大学第一グラウンドからスタートして、まずはトラックを一周。体が暖まったところでにゃーロードを北上、港に用意された第一関門を突破し、そこから右に曲がって東都へと。そこで更に用意された第二関門、そしてそこから途中の補給ポイントを通過し、西都の第三関門と突破して、最後にここまで戻ってくる。

企画者曰く、

「何をするにもこれらみーんな必要よ!」

とのことで、知力、体力、時の運が要求されるものとなっているらしい。

実際のゲーム処理で言えば、こうだ。着用アイドレスの性能に対し、課題との評価値の差をダイス判定にかけてかかった時間の度合いを決める、どたばたレース。ある程度の有利不利は発生するが、どの組が勝つかわからない、スリリングな展開である。

「へっ、双樹くん、俺が勝ったら次の小説ではバニーボーイにしてやるぜ!」
「城さんこそ、負けたらさらに着せ替えですからね!」

火花を散らす文族2人。ちなみに城華一郎は双樹真の手になるわんわん帝國になし藩国復興小説によって、ガーター着用の格好で出演させられている。因縁の、対決であった。

「青海さん、ハニー様にちょっとでもイカだのタコだのソックスだのやらせたらただじゃおきませんからね!」
「ふふふ…猫士のソックス、イイ!!」

綺麗な白い肌と日傘を差した、可愛らしい小さな女の子の猫士・愛佳は、王猫である美形にゃんにゃん、ハニーくんを、玉の輿で狙っている。

そして藩国唯一のサイボーグ歩兵として、また文士として名を馳せる青海は、その裏の顔を「ゲーム上 何の意味も ありませんが」ことGNA藩国である超国家組織イカナマニアの擁立者(現在国民あわせて3名)にして、ミサゴ、楠瀬ら風紀委員と、この大儀式魔術アイドレスが始まる一年前の大絢爛舞踏祭の頃から、レンジャー連邦の前身を舞台に、日夜激闘を繰り広げるソックスハンターとしての顔を、持ち合わせていた。

現在、彼の大望であった「はんおーのくつした」は、洗われてしまうという悲劇の元にその価値を暴落させてしまい、ここしばらくはソックスを狩る気力もなくして失意のどん底に落ちていたのだが、彼が、運動をしてかぐわしく靴下の熟成されるこの機会を逃すはずはない。ぐいんぐいんと準備体操の腰のうねりがイカよりもタコよりも艶めかしく、見るものの足(主に靴下を履いている女性陣の)を震わせた。

「楠瀬~、虹ノさんの足引っ張ったら駄目だからねー」
「じにあこそ、ドランくん困らせたら駄目だぞ」

ショートカットの女性、猫士のじにあと、吏族の楠瀬とは、みな、口にこそ出さないが、公認カップルとして見られている。先日のバレンタインの折りにもチョコレート交換しているところをばっちりカメラに収められていた。(そのテープはあとで没収されてしまったが)

今日も、組こそ別々なものの、そのパートナーシップは揺るぐことなく続いているようで、互いの健闘をたたえあう清々しい雰囲気が漂っていた。

ちなみにそのじにあとペアを組んだ猫士・ドランは、ちょうどこの国に現在逗留しているACE・ドランジ氏の若かりし頃はこうであったろうというような少年である。厳正の絢爛舞踏の名を由来に持つだけあり、引き締まった表情をしている……猫士の証である、ぴょこんと立った猫耳と尻尾が、どことなくかわいらしさを添えていたが。

そのほかにも、各方面でいろいろな思惑が交錯し、レース前から早くも熱く火花やら友情やらが燃え盛っていた。

「それではみなさん、スタートラインについてください」

紙に書いてある通りの手順に従って行われるマグノリアのアナウンスと共に、ぞろぞろと横一列に並ぶ面々。こういう催しものは、猫の例に漏れず大好きだったので、みんな、スタートの号砲が今か今かと待ち構えている。

ぐ…と、緊張感が高まる中、それを後押しするように、最後のルール確認が行われた。

「現時点での着用アイドレスの性能を利用した、ダイス判定によるタイムトライアルバトル。猫士の人は猫士・猫士でデータを判定します。技の使用は各組一回、レース中の妨害行為は認められません。
 みんな、正々堂々と戦ってくださいね、よーいどん!

 なお、最下位のペアには次のアイドレスで現在有力候補である観光地の候補となりうる、閉鎖されていたにゃんにゃんタワーの整備をついでに命じちゃっておきます、ゲームの順位に罰ゲームはつきもの、これはレースの開始の合図と同時に読んでくださいね…?」

『なにー!!!!?』

どどどどど、と、走り出す出鼻をくじかれ総ツッコミ、している間もなく、各人の目の色が変わった。

アプローの涙時代に観光地の一つとして建てられたにゃんにゃんタワーであったが、タワーと称するだけあり、高層建築物である。現在は登録するチャンスがなかったために、おやすみちうの看板がかけられているものの、その一階から外観までの手入れをするとなれば、ちょっとどころの大変さではない。

しかし、そんな大事なことを一体誰が…?

「なお、この罰ゲームは次のアイドレスの決定に影響を与えるものではなくまた観光地の実際の選定・作成作業になんら影響を与えるものではありませんあしからず。ほんとにただの罰ゲームだよーん…とのことらしいです、みなさーん」

ぐるりとトラック一周しながら、マグノリアが読み上げるのを聞いて、みんな、この企画作ったの誰だよと思ったが、そうと決まれば手を抜いてなどいられない。慣らし走行ではまだ大した差もなく一直線状態だったが、我先にと、ペア同士で固く力をあわせて、この先少しでもリードをしようと思ったのであった。

 * * *

~第一区画・南都―北都コース 判定使用値:走力A(筋力・敏捷力/2)~

 * * *

事件は最初に起きた。

すてーん!!

「い、いたた…」
「すみませんすみません、大丈夫ですか、マーブル様!」

愛佳・マーブルペアがすっ転んだのだ。この区画でもっとも有利な走力3のペアの中どころか全体で一番出遅れた。

愛しの王猫ハニー様の双子の妹であるマーブルの機嫌を損ねまいと必死に謝りまくる愛佳。マーブルは、持ち前のおっとりさで、いいのよ、愛佳ちゃん、と謝りまくる彼女をなだめてすぐに走り出した。

不利な中では走力1にもかかわらず、出目の良さに救われアスカロン・豊国ペアが3位と善戦、歴戦の猛者である豊国と、武人であるところのアスカロンがその力を存分に発揮したと言える。

「いい感じだねっ!」
「ああ、この調子で上を狙おう」

トップを爆走するのはブロンドも麗しい美少年・王猫ハニーくんと、ぐいんぐいんその横で腰をくねらせながら靴下を両手にはめた青海ペア。

「ふははははは!! 靴下ムテキィ!!」
「青海さん、後ろからまだぴったり来てます、油断できませんよ!」

2秒差でこれに張りつくのはミサゴ、にゃふにゃふの真面目コンビ。この二組を先頭集団に、少し遅れて三組が追随、残りはおおむね団子状態で、まだまだレース展開は予測不可能である。

ちなみにこの時点ではどの組も技判定の発動に失敗しており、序盤にスタートダッシュをかけることなく温存した形となった。

もっとも距離の短い区間であり、途中にオアシス公園の穏やかな風景を臨む第一区画のレースはこれで終わった。

 * * *

「着用アイドレスの習熟…それってやっぱり」
「うん、実戦仕様の判定でないと出来ないよね」

双眼鏡でコース上の仮想飛行士と猫士たちを観測している一組の影。通信機を手に取りどこかへ合図を送った。

「こちらA地点、最初のペアが第一チェックポイントに到着したわ…例のブツを」
『OKわかってる、いよいよここからが本番よ』

通信を終えると、その人影たちは、にやりと笑って東へ向かって走り出した。

 * * *

~第一チェックポイント 判定使用値:釣り(器用・幸運・感覚/3)~

 * * *

「今のところ、サバイバルレースと言ってもただのマラソンよね…」
「うむ、面妖なところなど一つもござらんが…おや、あれは?」

後方集団の浅葱・ビッテンフェ猫ペアが、繁華街を抜けてトップに遅れること約66秒で港に到着すると、そこには釣り糸を垂らす面々の姿が。

どうやらそれに乗って先回りしてきたらしい軍用ジープの荷台の上にマグノリアが立って、到着したペアへと釣竿と餌の入った小さなカップを順に手渡していた。

「第一チェックポイントは釣りです、どちらか一方が一匹釣り上げた時点で通過になります。お魚さんはあらかじめ養殖のものを放流しておいたので、港内ですがすぐに釣れるようになってます。それでは、幸運を」

うーむ…と釣竿を受け取りながらポイントに向かう。

「どーいてどいて、一気に挽回ですわー!」
「愛佳ちゃん、ちょっと早いー」

どーん、とその横をものすごい勢いで駆け込んできたのは愛佳・マーブルペア。2人はなんと二本の釣竿を持っている。

せーの、でびゅん!と釣竿を投げる手はなんと三本いや違う、尻尾だ、尻尾が釣竿を一本しっかり絡めて握っていた。

猫士の技、『尻尾は第三の手』が、発動したのだ。

「やりましたわー!」
「うお、マジでござるか?!」

ビッテンフェ猫が見ているその先で、すぽーんとほとんどタイムラグなく釣果を上げる愛佳。このペアこれでビリから一気に四位浮上。ちなみにこのチェックポイント所要時間では一位。

ペアをリードする愛佳の性格がもろに出て、アップダウンが激しい。

「おっ先ーですわーマイゴッドファーザー様ー」
「お、おのれ~!」

ぴゅー、と目の前を走り去られ、悔しがるビッテンフェ猫。ごめんなさいね、とマーブルちゃんに手を合わせて謝られたのも、屈辱だった。

「浅葱殿、まずいでござるよ! それがしたち、なにやらずるずる遅れを取っている様子にござる!」
「そんなこと言われても、なかなか釣れないし…あっ」

すぱーん。

「私の指は銀の指、宿れ海の精霊よ!」

蝶子・山下のパイロットペアも、技が炸裂した。まるで振るう指につられたかのように、釣り針に魚が引っかかっていた。

「ナイス!
 よーし、いいペースだよ山下さん!」
「はい、やりましたよ!」

その横でも豪快な光の明滅と共に、ざっぱーんとなぜか打ち寄せてきた荒波と同時に魚が釣り上げられていた。

「フハハハハ、連邦の釣りテク・ライブラリからブッカーのテクをインストールすればこれしきの課題ィー!!」
「やったにゃん!」

とどまるところを知らぬ勢いの、青海・ハニーペアであった。靴下に魚を放り込み、釣れたのがイカナではなくて残念だと高笑いしながら西の都へ向けて爆走を再開する青海、そのあとを、てってこ一所懸命にちっちゃな体で追いかけるハニー。

「お先ですー」
「すまないね」
「なんと!?」

今度はヤガミを追って故国を離れた舞踏子・サク&美形青年猫士・マキアートペアに、さらっと挨拶された。

このターン、他にも虹ノ・楠瀬ペアが技を発動させており、なんと12組中5組が早くもここで技のブースト効果により+1シフトを得ていた。なお、今回は実際上のシフト効果とは別に、使用値を単純にシフトする仕様になっているが、これは関係ないところで空振りしたら悲しいからであった。

「よし、釣れ申した!」
「ほんと!? やった、急いで追い上げよう!」

2人も早々に切り上げると、まだ粘っている最後のペアを見やった。

「あああまずい、まずい、このままだとバニーボーイの刑に…!!
 いくら復讐とはいえそれはまずい!!」
「……」
「ヒスイー、手伝ってよー!」
「ふふふ…双樹殿とヒスイペアであったか。苦戦しておるようでござるな」

じっと海面を見つめたまま、なかなか動こうとしない、猫士・ヒスイ。その様子は物憂げに思索に耽る黒衣の美青年の風情を漂わせているが、かっこいい雰囲気とは関係なく、釣竿に当たりはない。

「あ、フェ猫さん!」
「済まぬが先を急ぐゆえ、これにて御免!」
「うわー!」

双樹・ヒスイペア、この時点でトップと100秒以上差をつけられて最下位。

 * * *

「こちらBポイント、今ようやく最後のペアが釣り上げたわ」
『了解、こっちは既に準備に入ってる。俺たち謹製のハンマーをとくと味わわせてやるぜ!』

にやり。コース上、気付かれないようペアたちに付きまとう人影をよそに、レースは進行していく。

現在のトップはミサゴ・にゃふにゃふペア。地道にこつこつやるタイプの二人が組んだ成果が最大限に発揮されていた。しかもこのペア、まだ技を温存している。

少し遅れて、これはさすがの蝶子・山下ペア、それにほとんど並走している青海・ハニーペア、ここからさらに愛佳・マーブルペアとアスカロン・豊国ペアの第三集団があり、それに遅れてサク・マキアートペア、またさらに遅れて虹ノ・楠瀬ペアが来ている。

あとは大分遅れてドラン・じにあペア、華一郎・ジョニ子ペアの平均的ペースの集団と、そう離れたところではなく、小奴・夜星ペア、浅葱・ビッテンフェ猫ペアが順繰りに、そして最後尾が双樹・ヒスイペアという順番になっている。

レースはまだまだ前半戦、日は今まさに彼らの真上を指していた……

-The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎

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最終更新:2007年03月07日 05:02