たたかうのか。まいったなしだって。はんおうはうけたぜ。ほかのひとたちもでてこないね。どうなってるんだろう。

頭の中がぐるぐるした。ぐるぐるした、と一言で書けば簡単に済む。

頭の中がぱんぱんになりそうだった。

「?」

不思議そうにこっちを見て微笑む彼女。私は笑い返す。大丈夫ですわ、造作もない。ああいえけしてマーブル様のお相手をするのが造作もないということではなくて、ただの手合わせなんですから当然造作もありませんよね。ちょっと疲れてますけど、これぐらい、まだまだ平気ですものね。マーブル様はどうですかどこか痛めたところなどありませんか私はどこも痛くありませんけども嘘です一言も唇から言葉が出てこない。にこり、微笑み返すのが精一杯。

怖かった。

何をさせられるのかがわからないのは怖かった。

考えすぎそう考えすぎだよね。

ただの手合わせ、たったそれだけ。限界訓練の一種。ああこの言葉を口にしたフィクショノートは誰だったかしら、今からでもいい、それがどういう意味なのか教えて欲しい。

とても怖かった。

痛いのは怖くない。くたびれるのも嫌じゃない。けれど友達を傷つけるのは死んでも嫌。

ハニーくんの双子の妹だからじゃない。誰か知ってる人を傷つけるのなんて死んでも嫌。気持ち悪くて吐きそうになる。毛玉飲み過ぎた時より気持ち悪い。信じられない。

どうして周りの人たちはみんな平気にしていられるのかしら、それともみんな頭の中では同じようにぐるぐるしてるのかしら。ぐるぐる、ぐるぐる、思考が自分の中だけで空回り、ぐるぐる、ぐるぐる、誰かと喋ることもまともにできない。

ぎゅ、と手を握られた。マーブルちゃんだった。

やさしいなと思う。それとも彼女も不安なのかしら?

目を、見てみた。

まっすぐな瞳だった。

なんだろう。なんで普段はあんなにのんびりおっとりしてるのに、こんな目でいられるのだろう。私は引きつったような目しかできてない。きっとできてない。そうに決まってる。いつもの甘えた媚びた顔ができない。きゃらきゃらと笑う自分でいられない。何よ、私は可愛いんだ。えらくなってやる、もっと立派になってやるんだ。そのためには、いつもみんなから好かれる愛らしい子でなくっちゃ。

手を、握り返された。びくんと体が震える。嘘。いつの間に握り締めていたんだろう。まだ、笑えてるかな、まだ、笑えてるかな。気付かれないように周りを見回す。軽口の一つも叩こうと気構えながら周りを見回す。口がうまく動かない。唇が上下に開いてくれない。重たい。糊付けでもされちゃったんじゃないかしら。変だな、唇はそんなに乾いてないはずなのに。さっきマグノリアさんにもらった水を飲んで落ち着いてるはずなのに。たくさん運動したからもっとお水が必要なのかも。

「すみません、もう一杯下さいますか?」

はい、とマグノリアさん。私の声が私の頭とつながってない。きんきんして聞こえる。私、こんなにきんきん声でいつも喋ってたのかしら。ああどうしよう、どうしたらいいのかしら。

考えている間にもお水を手渡される。あ、あったかい。猫だから猫舌だから、きっと人が飲むものよりはずっと味も薄くてぬるいんだろうけど、あったかい。こくんと白湯を飲む。体ががちがちに固まってたことに気付く。寒いな。砂漠は。丸まって王城の秘密の談話室の暖炉の前で寝てたい。おなかすいた。補給所で何も食べられなかったせいかしら。音が鳴ったらどうしよう。ああ。ああ。

きゅ、と寄り添う。マーブルちゃんと寄り添う。肩を並べて寄り添う。猫は、猫だから、こうやって、寒い時には集まって丸まる。人間の格好になってる時でもそう。きっと人間もそう。寒いな。どうしてみんな、フィクショノートの人たちはこうやってくっつかずに一人で平気で立っていられるんだろう。

また一組体育館の方に吸い込まれていった。おかしいな、かかる時間が随分まばらな気がする。中で格闘の手合わせをしているだけならこんなにかからないはずなのに。何をしてるんだろう。何をさせられるのかしら。

猫士の着る特製砂避けマントの下で、ぎゅっとマーブルちゃんと手をつなぎあう。じっとしてよう。動きたくない。ああ、なんであのフィクショノートの人は、ああも静かに座っていられるのかしら。なんであのフィクショノートの人は、せわしなく体を動かしているんだろう。みんなてんでばらばらじゃない。だめだよう、猫はみんなでいっしょにいなくっちゃ。共に和していなくっちゃ。

ふるふる、ぷるぷる。

大丈夫、私は天下の愛佳ちゃん。私が笑えばみんなが笑う、私が怒ればみんなが笑う。おてんばものの猫士のねこむすめ、それが私、愛佳なんだから。

それにしても長いな。中で何をしてるのかしら?

 * * *

「愛佳ちゃん、大分疲れてるみたいだな…」

さっきからぼんやりした表情であのおしゃべり娘が一言も喋らずにいるのを見て、アスカロンが豊国に話しかけた。

「うん、そうだね。やっぱりちっちゃな子にはちょっと今日の訓練、きつかったかな?」

ぎゅ、ぎゅと体の筋を伸ばしながら豊国は答える。

だが、アスカロンは首を横に振った。

「戦場に出れば体格の大小なんて関係ないし、年齢の高低も関係ない。鍛えられるだけ鍛えておく方が、彼女のためになる」
「ふ…うん」

しげしげと、今日一日を共に過ごしてきた相方を見る。

「クールなんだね」
「そうでもない。毎日、自分を鍛えて律することだけで、手一杯だよ」

だが、その笑いに苦いものは一つも混じっていない。

まるで剣のように清冽な男だ、と、豊国は思った。きっとこの人は、正義のことを言い訳に考えたりしないな。正義は、守り、仕えるためにこそある。それを生涯捜し求める連続の中にだけ、ある。

この人と、勝負かあ……ボク、勝てるかな?

少し、興味が湧いていた。順位順で行くなら呼ばれるのはもうすぐだ。おなかがすいてるけど、今日のところは我慢してやるか。

くせ毛がぴょんと、夜風に跳ねた。

 * * *

意地が悪い。

ドラン少年は考えていた。

この企画を考えた人間は、効率はいいが、意地が悪い。

ただの訓練での手合わせなら、誰も誰とやろうと気にはしない。また、疲れきってるところにこのルールで強制をされても、やはり気にはしないだろう。

だが、今日一日かけて、レクリエーションのような雰囲気を作り育てた上でそれを圧迫感にそのまま裏返して心理耐久性を量るのは、意地が悪い。

多分、中では実際に手合わせが行われているのだろう。妙に長いのはみな疲れきっていて決定打がなかなか出ないせいに違いない。

自分もこの雰囲気に影響されている。自分の相手は年上だが女性のじにあだ。同じ猫士同士とはいえあまり気が進まない。

確かにアイドレス世界の住人には、フィクショノートの書いた文章や、イラストや、行動が、自分たちにとってどうあがいても変えることの出来ない絶対的なものなのだろう。それに報いるためにはここまで厳しく心身ともに鍛え上げなければ足りないのだろう。

だが。

ここで、だが、と思ってしまうのが、と、ドラン少年は考えた。自分がまだ歳若いせいなのかもしれない、

自分のモデルであり年長者であるドランジ大尉なら、このような状況下の時、どうしただろうか。

彼もまた、絢爛舞踏祭の時代には、太陽系総軍から離反し、それと戦っていた身だ。また、それ以前の汎銀河大戦にも出て、武名を馳せている。冷徹に割り切り相手を組み伏せるだろうか。いや、そもそも総軍から離脱したのは、夜明けの船の捕虜になったからだった。彼はルールに従う。なぜならそれが、彼の負う、厳正の絢爛舞踏の名の意味だからだ。

ならば自分もルールに従い、全力の限りを尽くして戦うだけ。

「行きましょう、ドランくん。私たちの番みたい」
「…ええ」

ドランは立ち上がると、迷いを切って、歩き出した。

 * * *

「あの人は元気だよねー」
「あの辺りのペアなんて、戦ってる絵が想像できないくらいだもんね」

さっそく新規入国者の冴木の周りをぐるぐる飛び交う青海とビッテンフェ猫、その2人のパートナーである浅葱とハニーが時折つっこみを入れつつ、談笑していた。

「時間無制限で参ったなしの一本勝負っていうからデスマッチでもさせられるのかと思ったけど、考えてみれば…」
「ないないない、まかり間違ってもこの顔ぶれでそれはないよ」

くたくたになった体を休めながらごろんちょとだべっているのは双樹とヒスイであった。

と、いうより、まるで瞑想するかの如く相槌を打っているヒスイを相手に、双樹が一人で喋っているだけだったのだが。

ちなみにこの知的で物憂げな黒髪黒衣の青年こと猫士ヒスイ、別に喋れないとか、寡黙だとかいうことはなく、ただ単に疲れたので居眠りをこいていた。誇り高いオス猫ゆえ、その誇りを癒すために眠ったのだとでも文学的に表現すれば格好は良かったろうが、待ち時間の間は寝ている方が効率が良いからそうしているに過ぎない。哲人とは世の中から無駄を省くことが好きだから無駄なことをするのだとは、誰の言った言葉であったか。

「うーん、順番が最後だとさすがに結構待ちくたびれる…」

自分も話の輪に混ぜてもらおうっと。

双樹は立ち上がって小走りに皆の方へと向かっていった。

「―――――……」

うっすらと、まなざしを開く、ヒスイ。その名の如くにカワセミのつがいの艶やかな羽根色の如き光沢を帯びた青緑色の瞳が、夜をまなざした。

 * * *

「行こう、愛佳ちゃん」
「え、ええ、もちろんです!
 手加減しませんからね、マーブル様!」

ついに順番が回ってきた愛佳とマーブルは、自分たちの他は、たった2人だけになってしまった、閑散としたグラウンドを後にした。

「…………」

もう一度、おそるおそる、後ろを振り返る愛佳。

つい先ほどまで、レース終了のささやかで盛大な表彰式が行われていたとは思えない。舞踏子や護民官たちなどの国民はみな楽器や設備を大学内に撤収し、既に姿もない。

しんとして、誰もいない学校を見ていると、なんだか薄気味悪さが増すようだった。

もう、深夜を回っている。

「入ります」

凛とマーブルが体育館の扉をノックし告げる。どき、どき。隣を遅れずに歩いていくだけで、目一杯、精一杯。心臓の音を聞かれて臆病者だと思われやしないだろうかと、愛佳の心配はいまやそれだけになっていた。

がららっ。

扉が急に開いた。観音開きでないと、こういう時に無駄に緊張していけませんわね、と、半ば八つ当たり気味に体育館の設計者に対して恨み言を心の中で呟く。

「……」

中は真っ暗で、どうやら誰もいないらしかった。審判役がいるというけど、一体どこから見ているのかな。監視カメラでもあって、スピーカーから声がかかるのかもしれない。うわ、なんだか闇の組織っぽい。

自分の想像力過多に踊らされながら身構える。

す、と、マーブルが闇へ踏み入っていった。

「あ」

思わず声に出しながらそれを追いかけた。

「…………」

ぎょ、とする。

いた。

いる。

この暗闇の中に、マーブルちゃんと、少なくとも、もう一つ、誰かの気配がある。

やがて、目が、慣れてきた…元々猫士、夜目は利く。人間の姿の時は、さすがに猫モードみたくきゅっと瞳孔を調節できないけど、どこに、何があるかぐらいは、充分すぎるほど、わかってきた。

椅子に座っているらしい人影の方を、マーブルちゃんが、向いている。

「審判さんですか?」
「……」

無言の首肯。誰だろう。ぶかぶかの服を着てて、顔に濃いヴェールまでかけてるから、誰なのかさっぱりわからない。こういう時わんこなら一発でわかるのに。ああ、いいなあ、犬。

と、普段は絶対考えないようなことを、考える。

「審判さんですね。そのつもりでお話します」

マーブルちゃんは構わず喋り続けた。

「対決法は、自由ですか?」
「……」

また、首肯。え? と思う。

あれ、あの、対決って、こう…一対一で、とりゃー、とかばきばきー、とか、やる奴じゃないの?

「対決法を、自由かどうか、聞くのも自由でしたか?」

YES。

「じゃあ、対決しないことはできましたか?」

NO。

「あなたは蝶子さんですか?」

NO。

「では、舞踏子さん?」

NO。

「あなたは誰?」

沈黙。

「対決が終わったみんなは、どこに?」

沈黙。

「対決が終わるまで、ここからは出られない?」

……。

「選びなさい。対決する術を。これ以上の遅延行為は認められない」

初めて人影が発したその声は、おそろしくしわがれてて、何百歳ものおじいちゃんか、おばあちゃんみたいな感じがした。それで、これまでぼんやりマーブルちゃんの質問を一緒に聞いてた私は、はっ、と我に帰った。

「ま、マーブル様…」
「真剣勝負、だよね」

どきん。

言われて、振り返られて、初めてこの体育館の中に入ってから、こっちを振り向かれて、マーブルちゃんの目に、私は射すくめられたような気がした。

「……」

何も言えずに、ただ、意地だけで頷いてみせる。

「……」

じっと、押し黙ったまま、見詰め合った。

目が離せない時間はどれだけ長く感じられたのだろう。どうしてこんなに長く感じるのだろう。

にぱ…と、マーブルちゃんが、笑った。

「1on1」
「へ?」
「バスケットの、1on1、で、どうかな」
「あ、ああ…」

途端に、どん、と、弾む音。どん、とん、とん…足元に何かが転がってくる。思わず手で止めると、ぶつぶつした、硬い感触。バスケットボールだ。

「認めよう。それでは1on1、時間無制限の対決をこれより始める」

ぴーっ!

ホイッスル。同時に体育館全体がライトアップされた。

窓にはすべて暗幕がかかっていて、外からは、中で何がしているか、これならまったくわからない。

気がつくと、パイプ椅子も、謎の人影も、どこにもいなくなっていた。

だむ、だむ、だむ、

だむ、だむ、だむ……

何の気もなしにドリブルしていると、きゅっ、と軽快な音が目の前に響いた。

「行くよ、愛佳ちゃん!」
「…!
 ええ、マーブルちゃん!」

私はにやりと笑ってそういうと、あとはもう、何も考えずにがむしゃらにつっこんだ。

 * * *

「え、マジ?
 俺なんかぼこぼこに殴り合っちゃったんだけど」

いててー、と、顔を腫らした虹ノが、愛佳とマーブルのその話を聞いて悔しそうに膝を叩いた。

「くっそー、だったらイラスト勝負にすればよかった。それならこんなに痛い思いしなくて済んだのに」
「それはそれで時間がかかっちゃうだろう」

楠瀬も、あいててて!と、じにあに湿布をはっつけてもらいながら合いの手を入れる。

…今は既に翌日の朝食が済んだあと。ここは大学構内の宿所で、みな、ごろんちょとねっころがって体を休めていた。

にゃふにゃふやジョニ子などはくうくう寝ており、青海は早くもサイボーグ歩兵の後輩となる冴木に真面目な顔でレクチャーを施していた。

「殴りあうならまだいいですよ、僕なんてソックスハント勝負挑まれて靴下取られちゃいましたよ…」

はあ、とため息をつくハニー。その足元はぺたぺたと裸足。

「青海さんもつくづくしぶとい…」
「俺とグリーンがいれば絶対に阻止してやったのになあ」

ぱしっと拳をてのひらに打ちつけ笑う楠瀬。

「城さんは歌の勝負だったんですって?」
「うん。やー、負けた負けた、さすがに普段歌ってる相手は違うねー!」

豊国に聞かれてあっけらかんと笑う華一郎。

「そっちの方は随分名勝負だったらしいじゃないですか…アスカロンさんから聞きましたよ」
「えー、そうだったかなー?」

笑って答えない豊国。そのアスカロンはというと、既に朝のトレーニングに出かけている。昨日の今日なのにすごいですよねーとは、遅く起きてごはんを珍しくもおかわりしながら米粒をほっぺにたくさんつけていた山下の弁。

「ミサゴさんはどんな勝負したんですか?」

私?と、聞かれて驚きながら、小奴に髪の手入れをされていたミサゴはみんなの方へ振り返った。

「あん、急に動いたらだめですよー」
「あ、ごめんなさい…私ですか、えっとですね」

彼女曰く、いっぱい働いておなかがすいたにゃふにゃふくんに、早食い対決を挑まれたとのことで、結果はさんざんなありさまでした、と、困ったように笑いながら答えた。

「あー…道理でさっぱり起きてこないわけですね」
「にゃふにゃふの奴、僕らがここに着いた時にはもうすっかり寝てたからな」

はい、とサクに淹れたお茶を手渡しながら、マキアートがあとを引き取る。

「もっとも、あれだけ動き詰めなら僕だって同じくらい疲れたろうけど」
「あー、マキアートがデレ期だー」
「へー、これが! 初めて見たー!」
「うるさいぞ君たち!」

つっこまれながらも不機嫌そうではない。この2人も昨夜は対決をしていたはずだったのだが、妙に元気そうだ。それに、誰も2人が何の対決をしたか、知らないようだった。

それについてサクが言おうとすると、

「わー馬鹿、よせ! よさないか!」

と、必死になってマキアートが止めに入るのだ。そのたびにサクは楽しそうに笑っていた。

「あの2人だけ、実は対決してないんじゃないかってみんな言ってるよ」

こっそり愛佳に耳打ちしながらにこにこ笑う双樹。

「ああ見えてマキアート、やさしいからね。きっと審判の人をとうとうとまたいつもの調子で説得して弁舌対決で不戦勝だとか変なこと言ったに違いないんだ。だって、対決法が自由だったって聞いた時のあの顔ったら…!」

うぷぷ、とまた、こらえきれなかったように笑う。

ちなみに彼とヒスイとは、そのものずばりの問答対決が行われていたそうで、まるきり禅問答みたいで死にそうになったと双樹本人が食事の席でみなの同情を買っていたらしい。

ヒスイという猫士、名付け親の青海と同じで、普段の生活態度はまるきり正反対だが、深いことを語らせるととてつもない含蓄があるので有名だった。

「…それにしても、結局昨日の最後の審判役の人、一体誰だったんでしょうねえ」

ぽつり、お湯飲みを持ちながらマグノリアが呟いた。

『うえ!?』

全員が騒然となる。

「え、あれ、マグノリアさんだったんじゃ…」
「私は国民のみなさんと一緒に片付けの手伝いをしたあと、この宿所で朝ごはんのための炊き出ししてましたから…」
「藩王」
「え、え、私知らないデスよー」
「んじゃあ摂政?」

とんでもない、とふるんふるん首を横に振るミサゴ。

「えーと、ほら!
 こういう時は大抵青海さんの知り合いが!」
「ああ、顔広いですもんね!
 きっとそのツテでこっそり頼んだんですか?」
「いや、俺と違うよ」
「んじゃあ、華一郎さん!」
「んーにゃ」
「え、国民の誰かじゃなかったんですか?」
「ハニーくんも知らないとなると、猫士ネットワークの中に引っかかる人物じゃないのかあ…うわー、それは困るなあ」

普段は猫の格好でてふてふあちこち歩いている猫士たちは、王城内にあちこちの専用隠し通路や小部屋を持っているように、いつもどこからともなく情報を集めてくるネットワークをもっているのだ。以前マグノリアの靴下がなくなって、青海が濡れ衣を着せられかけていた時に見つけてきたのもこのネットワークのおかげである。

「えー…誰なんだろう…」

うーん、と考え込んでしまう一同。

「そういえば愛佳ちゃん、今日は随分機嫌がよさそうだね」
「あれ? そうかしら?」

一人、この騒ぎをきょとんと眺めていた彼女のことを不思議に思い、尋ねる山下。

「あれが誰かなんて、考えるまでもないと思いますけど…」

ええっ、と驚く周囲をよそに、いたずらっぽく人差し指を立てて、しー。

「それよりみなさん、今日もお仕事がおありになるんでしょう?
 さ、いつまでもこんなところでおしゃべりしてないで、散った散った!」

はーい、と、促されてしぶしぶみんな散っていく。次のアイドレスの選定、大吏族チェックのためのフォーマット導入、やることは本当に山積みだったのだ。

藩王たちを筆頭に、一人、また一人と、やがて姿が室内から消えていく。

愛佳は、そうやって自分に向けられた質問をうまくうやむやにできたことを確認すると、それからじっと、考え込むように座っていたかと思えば、やにわにマーブルの手を取って、耳打ちした。

「行こう、マーブルちゃん…昨日のあれはまだ、私の負けなんて認めないからねっ」
「うんっ、愛佳ちゃん」

ぱたたっと2人そろって駆け出して、宿舎の扉を飛び出した。

外はもう、すっかりと青空―――

 * * *

Girls, hop, step, jump!!

-The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎

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最終更新:2007年03月07日 05:05