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復興SS:怒られ組SIDE
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炊き出しの用意も無事に終わり、配給が始まる頃。

調理テントの傍らでメイド服姿の三人の男は体育座りで配給の様子を眺めている。
今はお昼でありお忍びとはいえこんな事をしていられるはずはない。
ではなぜこんな所でぼけっとしているのか…。
詰まる所追い出されたのである。
焦りすぎた双樹は味噌とピーナッツクリームを間違え、豚汁を甘くするという荒技を犯し、ビッテンフェ猫と青海は靴下に気を取られて鍋をぶち倒した。
貴重な食料を何無駄にしてるの!!
と女性陣に散々怒られた挙げ句、調理テントから追い出されたのである。
ちなみにこの時、何故か大工の統領に見込まれた城は資材のやり繰りを任されていた。

「ヲッホホホホ!私にお任せなさーい!!」

三人の目前を城華一郎(高機動型)がそんな事を叫びながら通過していく。
常識やら羞恥心やらがオーバーフロウしてぐるぐる華一郎と化した城は人知を超えた速度で駆け回り、数々の処理をこなしていた。
帰国後には命の覚悟が必要だと女性陣に怒られて凹んでいた双樹はさらに凹み、ビッテンフェ猫は「あ、あんなのは拙者の知る城殿では無い…いや、アレが城殿であるわけが…」等と理想と現実を戦わせながらぶつぶつ俯いて呟いている。
そして青海は復興作業の休憩中の人々を眺めながらわんわんにイカナはきとらんかなぁとか考えていた。

「なーにおまえらぼけっとしてるんだよ!」

現地の青年が三人に声をかける。

「え?あぁ、ちょっとね…」

双樹は暗くなる表情を隠そうと笑顔を作ろうとして、失敗した。

「ったく情けねーな」

苦笑する青年。

「支援にきた奴らが、支援をされてる俺等より暗くてどーするんだっての」

その手には豚汁。
ずずずっとすする。

「ははは…本当だよね。それにしても君は、こんな目にあったってゆーのに前向きなんだね。」

双樹はなんとか笑顔を見せる。
しかしやはり落ち込んだ気分は復帰していないのか、まだ弱々しい。

「ん?当然だろ。」

何言ってんだ?と首を傾げる青年。

「俺たちはまだ生きてるんだ。死んでないならまだやれる事は有る。」

豚汁をすする。

「出来ないかも知れないがやれる事は有るのに暗くなる必要はないだろ?」

青年は豚汁を飲み干すと一度のびをする。

「さて、そろそろ作業を再開しないとな。」

よし、と気合いを入れて歩きだす青年。

「あんたらも手伝ってくれよな。人手、足りてないんだよ」

ひらひらとこちらを向かずに手を振ると歩いていった。

「この国はわんわんで御座るが…良き国でござるな…」

いつのまにか正気を取り戻したビッテンフェ猫が呟く。

「そうだな。良い国だ。良い国にこんな様を晒させておくのはもったいないな…」

青海も頷く。

「人間は負けない…か」

双樹も呟く。
光をみた気がした。
和平は近いか遠いかは判らないが、いつまでも争い続けるわけにはいかない。
それなら和平は近いほうが良いよな…。
何が出来るだろうか…。

「まずは復興だろうな」

立ち上がる青海。

「長居は出来ないでござるが…やれる事はあるはずでござる」

「そうですね…やれる事をしましょう!」

三人は焦土と化した町にむかって歩き始めた。
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夜、作業も中断されみんなが眠り始める頃、調理テントの中で涙する一人の男。
美青年がナース服でガーターベルト。
特殊な趣味の御方なら泣いて涎を垂らす場面である。

「くぅ……覚えていろ…双樹」

俯いて呟いた。
その心に復讐を誓う青年。
こうして復興の夜は更けていった。
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復興SS:炊き出し班SIDE
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偽バトルメード炊き出し隊のテントの前には長蛇の列が出来ていた。
辺りには食欲をそそる豚汁の香り。

「はーい!豚汁はまだまだ沢山有りますからね~」

おたまを振りながらメイド服に身を包んだ蝶子が叫ぶ。
「はい。どうぞ。」

てきぱきと豚汁を配る楠瀬。
妙にメイド服が似合っている。
影では数人が「藍ちゃん…」などと頬を染めて眺める者まで現れる始末だった。
ちなみに見るほうも見られているのも男なのは秘密である。

「お汁粉も有りますよー!」

サクも手慣れた様子で鍋からお汁粉をよそっている。
何故かしゃりしゃりしていた。

「結構盛況ですね~。こんなにきてくれるとこっちまで元気になりますね。」

冴木 悠が替えの鍋を運びながら言う。
物凄くメイド服が似合って居るがれっきとした男である。

「そうだね~。この分だと後2、3日で持ってきた材料なくなっちゃうかも…」
本当はもう少し長めの予定だったのよね~と小奴が言う。

「まぁまぁ!早くなくなるって事は良いことです。みんなによく食べていただいてるって事ですから!」

浅葱空はるんるんと鼻歌混じりでオレンジを運んでいる。
普段からメイド服をたびたび着用している所為か、メイド姿が板に付いていた。

「あれ?浅葱さんそのオレンジどうしたの?」

蝶子が不思議そうに首を傾げる。

「目録にあったかなぁ?オレンジ」

小奴が目録を確認する。

「あ、いやいや私が個人的に持ってきたんですよ!」
浅葱がにこにことオレンジを一つ掲げる。

「復興はレンジャー連邦のオレンジから!」

元気一杯の浅葱の声が辺りに響き渡った。

「…レンジャー連邦?」

豚汁の列がざわざわしはじめる。

―レンジャーって確か…
―でも肌は…
―んなもん化粧で…

「あ…あわわわわわ!」

ざわざわし始めた周囲にぐるぐるし始めた蝶子。

「あ…もしかしてやばいですか…?」

冴木が変わり始めた空気を敏感に察知し態勢を取る。

「ふぅ…出来れば取りたくは無かった手段なんだけどな」

楠瀬が周囲を伺う。

「えぇ。全物資を放棄。その後決めておいた逃走ルートから全力で離脱…」

小奴の一言に全員が動こうとした。
その時

「城 華一郎高機動型!夢の二十代!!とっかんしまーす☆」

一人では脱げない処理をされた淡いピンクのナース服に黒のガーターベルトを輝かせ駆け抜けるぐるぐる華一郎。
それを見た炊き出し班数名は泡を吹いてぶっ倒れ、数名は全戦力をもってその光景を目に焼き付けた。

豚汁の列の人間もばたばたと倒れていく。

「か…華一郎さん!?」

唖然とする冴木悠。
次々と倒れていく、人、人、人。

「…似合っていると思うんだけどなぁ」

つぶやく蝶子。

「えぇ。でもとりあえず現状を収拾しないと」

頷く楠瀬。
先程までの連邦云々はあまりの衝撃に吹っ飛んだらしい。
炊き出し班(生き残り)は事態の収拾に動き始めた。
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夜、作業も中断されみんなが眠り始める頃、調理テントの中で涙する一人の男。

「双樹め…」

今だに脱げないナース服と格闘する華一郎。
脱いだとしても着替えは無いが、これよりはましなはずだ。
そう思っていた。
ちなみに持ってきたはずの着替え全般は双樹の手によって隠されている。

「あれ、華一郎さん。どーしたんですか?こんな所で」

昼間とは違い和風なメイド服に身を包んだ浅葱がやってきた。

「いや…ちょっと…ね」

哀愁を漂わせる華一郎。
だが、ナース服とガーターに打ち消された。

「浅葱さんこそどーしたんだい?」

華一郎の質問を受けてにっこりと笑う浅葱。

「コレを配っているんです!はい、どーぞ」

渡された白いものを見る華一郎。

「足袋?」

「はい!復興は、きれいな足元から!」

元気一杯の浅葱にほわほわする華一郎。

「それ、あげますから使ってくださいね!」

そう言ってテントを去る浅葱。

「…コレを?」

無言で足袋を履く華一郎。あ、膝から崩れ落ちた。

かくして復興の夜は更けていくのであった…。





(文責:双樹真)

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最終更新:2007年03月17日 05:26