【-偵 コウキシン 察-】
ここは故郷によく似ている。
違うのは、空気が青いこと。
(そう……)
と、男は空を見上げた。ここには止むことのない砂塵も舞うことがなければ、それを避けるための装備も必要がない。ただ、熱い海風が、清冽に身をそよがせる。
「ハード・ラック・バカンスとでも思っておくかね」
唇をめくれ上がらせ、気だるげに軽薄に皮肉に皮肉を重ねてそのまま突き抜けてしまったような笑顔を浮かべると、そう、レンジャー連邦の文族、城華一郎(じょう かいちろう)は呟いた。
ここは第五世界の小笠原。
どこを歩いても初めてのはずなのに、どこか、懐かしい。ゲーム『ガンパレード・オーケストラ ~青の章~』で、朝も夕も過ごした地を、アイドレスでとはいえ、実際に踏みしめて歩くことがあろうとは、よもや思いもしなかった。
西国であるレンジャー連邦から来た彼は、この空気にすんなりと馴染んでいる南国人の同行者の面々(主に鍋の国であったが)を見やってから、改めて景物に視線を飛ばす(ゲームなら視線ビームが出ているところだ)と、これまで出撃してきた時とはまた違った緊張感から来る身震いと共に、ほれぼれとため息をついた。
冒険だ。冒険だったら冒険だ!
目を皿のようにしてあちこち物珍しく見て回る。途中参戦のこの男は、冒険ゲームに出たことがなく、これが初めてということで、やたらに興味津々、いつもの癖で取材メモをつけながら、慎重に偵察を開始していた。
たんぽぽは? あの馬鹿でかい目印は健在か?
街路樹の様子はどうだ、何か不自然なところはないか?
見上げる山の稜線は、食堂あけぼのは、フリーショップまるひはまだ残っているか?
ああもうどうして限定版を買っておかなかったかなー設定資料集になんか載ってたかも知れないのに。
道という道を見ながら華一郎は偵察をうきうきと続けた。好奇心こそが、観察力の源だ。
―The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎
最終更新:2007年04月13日 15:47