【-隠 ドウホウアイ 蔽-】
「ち、ぃ…!!」
押し殺した声で舌打ちをする。冗談じゃない、あんな相手に見つかってたまるか!
自分が死ぬだけならまだいい。俺が見つかれば、芋づる式に仲間も見つかるんだ。
それも、同じ国の仲間ではない。
出仕時に顔見知りになった、縁もゆかりもある相手ならまだいい。
でも、「縁もゆかりも薄いからこそ、見つかるわけにはいかない」
のだ。
自分一人のミスで巻き添えを増やしたら、その国の人に申し訳が立たない。自分を犠牲にしてでも誰かを救うんじゃない。無事に仲間を国許へ帰してあげるために、自分も絶対に死んではならないのだ。だからこその、必死の緊張感が、ぎっちりと皮膚一枚の下に詰まりきっていた。
誰もが同じ思いであるようで、互いにそう思っていることは、黙って視線を交わすだけで、誰にもはっきりそうと感じ取られた。
The thing which removes a mistake ”一人の過ちは10人の血であがなわれる。”
冗談じゃないぞそれはこんなところで発揮されてもなんにも嬉しくない格言の引用だ。
偵察は、生き延びて帰ってこない限り、何の意味もない。陽動とは違う。絶対見つからないにこしたことはないのだ。
南国の風のねつい甘さが鼻腔に忍び込む。まさか、こんな時まで、そんな感覚が働いているなんて、な。アイドレスってのはつくづく見事に作られてるもんだ。てっきり鼻にはアドレナリンの匂いとやらがぷんぷんするものだと思っていたが。
無事にこの場を切り抜けたなら、是非にも今回一緒に出撃した面々と親睦でも深めたいもんだ。いや、それをいうなら、これまでの出撃もそうか。一戦ごとにお疲れ様パーティーでも合同で開けたら、少しは緊張もほぐれて、楽しかろうに。
パーティーから始まった冒険だったが、また、思考がパーティーに行き着くとは。男はそんな奇矯さにふと笑った。
―The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎
最終更新:2007年04月13日 16:10