【-敏 シュウチュウリョク 捷-】
とく、とく、とく、とく、
とく、とく、とく、とく、
体の中から脈打つ音が聞こえて来そう。
足の裏から指先まで、変なところだとおでこや背中も感じる。
意識がアニメのエネルギー流の描写みたいに、往きては戻らず、後から、後から、五臓六腑を支え続ける。
背骨が体を支える。腰椎が体の核となる。キンと五体が統一された感覚。筋肉が骨格をつなぎ、その骨格を意識して、常に、動き続けている。
とく、とく、とく、とく、
とく、とく、とく、とく、
何気なく歩いて、あるいは立ち止まって、いたはずの、体が。
考える
よりも
先に
反応した
声すら上げずに息がつまり、一瞬で、その場から、体を打ち出すように地面を蹴り出した。
赤血球。ごぼごぼと酸素が行き渡る感覚。見る間に乳酸が蓄積されて五体感覚が鈍くなる。
シェイク。シェイク、シェイク、シェイク。走るたび体の中が攪拌されたように、それまでつないであった統一感がばらんばらんに乱れていく。それでも必死に制御し体を動かす。
蹴る。蹴る、蹴る、蹴る。地面を。
止まらない。
皮膚の上に汗が滲む。熱が篭もる。ただでさえ、熱い、土地でのことに、意識が焼け付くような悲鳴をあげる。
悲鳴をあげる意識は切り離して別の意識を稼動させる。
判断。一瞬の。慣性の法則にしたがって、体中が、ぐわん、ぐわん、あっちこっちに揺さぶられる。
踏み込むのは信頼。大地を。重力を。
万象の理に乗っ取り、するりと体を運んでいく。効率。無駄なものを省く。脱力を。意識と体がゆっくり千切れていく。体だけがもはや思考している。あとはもう、鍛え上げた歳月と、技術と、それらの底支えをする、情念だとか、些細な日常の滓だとか、そういう、魂全部の領域に深く沈みこんでいく。
見ているものを見ていると認識しない。肉体の判断力だけがGOサインを出していく。
今を、止まるな。
―The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎
最終更新:2007年04月13日 21:02