【-幸 ゲンカツギ 運-】

「変わったことしてますねえ」

誰に声をかけられたかは忘れたが、小笠原出発前の集合時に、帽子をわざわざ逆さにかぶってから、右、左と靴ひもを結び、もう一度といてから結ぶという、はたから見ればよくわからないことを、俺はしていた。

「げんかつぎなんですよ。前にうっかり寝ぼけて帽子逆さに被ったまま出かけたら、いい結果が出たことがあって。道中赤っ恥かきましたけど、今日はそんなこと言ってられないでしょ?」

その次には、小笠原上陸前にだぶだぶのベルトをわざわざ無理矢理そこで締め直し、やっぱり変わったことしてますねえと、また他の誰かに声をかけられた。どうしても自分のベルトが見つからなくて、父のベルトをしていったことがありまして、人前に出る時きゅっと締めておいたら話がうまくいったんですよと今度も説明をした。

実は上着の内ポケットに使い古しの財布が入ってたり、靴ひもが微妙に色は同じだけど材質が違ったり、ボタンをわざと一個だけ取ったり、あちこち見れば、まるで間違い探しみたいな様相を呈しているので何度もいろんな人につっこみを入れられたわけだが、生憎俺には幸運をつかむためにはげんかつぎぐらいしかやることがわからなかったので、縁起物の柄下着をつけたりなんかもしたりしている。(いやん)

みんなはどうしたのか話を聞いてみると、やっぱり人それぞれ、げんかつぎというほどではないにしろ、大事な日には必ず踏んでおく段取りというものがあるらしく、なるほど、人間て奴ァ運命に抗うため、少しでも、形のつかみづらいものに頼ってさえ、自分の限界を引き出そうとするんだなあと感心した。

運命に抗うことが人生なら、幸運って、実は凪ぎみたいなもんかなあ、とか、思ったり。

それはそれとして、国を出る前にみんなから渡されたレンジャー印のお札、これ、効果あんのかなあ?

―The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎

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最終更新:2007年04月13日 22:23