【-敏 コウキドウ 捷-】

それは、ただのがむしゃらではなく、数学的な動きであった。

自然界の法則をもっとも簡易な形で体現しているものが数学であり、それに乗っ取っているということは、もっとも自然であるということである。それは、美しくすらあった。

基本は単純。そしてそれにしたがい、迷いなく動くこと。

まるで枝葉の伸びるよう、機動は大地の上を縫い、簡便な基本動作パターンの組み合わせから複雑な紋様の如くに動きが生まれる。

決して人の域を大幅に越えた速度が出ているわけではない。また、精妙に過ぎるほどの挙動を示しているわけでもない。だが、ただ、信頼しているのだ。

人の歴史は古くまた争いの歴史も然り。ゲームは戦争を模した演習として生まれ、その中で、どのように動くべきか、洗練に洗練を重ねられ、幾度もの根本的な挙動の変質をくぐりぬけ、それでも最後に残ったのは、最大にして最後の基本、自らの足でどのように動くかということだった。

足が動かなくなったものから倒れていく。這いずってでも動き続けるものだけが生き延びる。だから、体の力、体力を、徹底的に鍛え上げ、またそれを信頼した挙動を、戦闘の際の技術書は要求している。

疲れても、疲れても、信頼しているから、人の、歴史を信頼しているから、人が営々と積み重ねてきた、今に至るまでの、すべての命が刻んできた成果を信頼しているから、それに従うことが出来る。

それはまるで一つの幻想であった。

その心は豪華絢爛でもありはせず、だが、それを信じる心の中に浮かぶ幻想は高機動。

人、それを"High_movement_fantasy"という名で知るやも知れぬ。

何の奇跡を起こしもしなければ、特別なことが起きているわけでもなく、ただ、それはちっぽけな幻を胸に抱きながら走り続けていた。

アイドレスに奇跡はいらない。

人の力が、それを超える。

―The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎

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最終更新:2007年04月13日 23:41