【-侵 セイシン 入-】
正心という言葉が古くから忍者には伝えられている。彼らが手段を選ばぬのは正しい目的があるからであり、その正しさを心に忘れてはいけないという戒めである。心身ともに優れたものであれという訓戒のようなものだが、長く人を欺き世に潜むことの多かった彼らを支えるためのものでもあったのかもしれない。
世に喧伝される超人的な技のすべては人の心を巧みに見透かし操った賜物であり、そのことからも判るように、忍者は心の敏なるを重んじ、平素から、人間(じんかん)に立ち交わりて巧みに人の心へつけいる五情・五車の術と呼ばれるものを駆使していたという。
しかし―――
(アラダの心につけいるというにも、相手の考えが読めなきゃなー)
秘術の限りを尽くし、侵入していく仲間達をコクピット内から心配そうに見守る。
忍者の術は手品と同じで、準備を見れば、現れる結果を知りさえしなければ珍妙な行動を取っていることもある。総勢12名の侵入部隊を先導する、るしにゃん王国と世界忍者国の二人が何をしているのかは、正直昔ちょっと忍法研究所をかじっただけの文族にはわからなかった。特に、彼らは世界忍者だからして、既に常識の忍者の範疇を越えている。
ともあれ、アラダだろうがチルだろうが、同じ論理の力に従うなら、軍事的な動きや警戒のパターンは人間と変わるまい。事実ここまで何度か戦い勝利していることもあるのだ。
「……」
目の前でボラーに貫かれ光となった、もっとも有名な世界忍者のことを思い出し、ふと、唇を噛み締める。
正心。
被害を最小限に抑えるために、自らの身をもってアラダを引かせた。手段を選ばないといえばこれほど選ばない、忍びらしい振る舞いであった、と、今にして思う。
だが、戦いに犠牲はつきもの、その一言でこれを片付けてしまうこともまた正心なのかどうか、彼にはわからなかった。
―The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎
最終更新:2007年04月14日 10:31