【-医 ジンジュツ 療-】

彼らとどこかで隣り合わせた時には、確かにごく普通の人たちだったように記憶している。

なんという堂々たる指示で、鮮やかを通り越し、艶やかですらある手付きの美しいことよ。

心のどこかが目の前にある現象と乖離して、一人の人間として、たった一人の名医の動きに、磨きぬかれた技術にほれぼれとする。悪い癖だな、どんな時でもこういうのを見とれてしまうってのは。

医は仁術。

一人の人間の命そのものを見つめて向き合うことは、確かに仁を成す立派な一つの術だ。

医師たちは、医療行為を行う時、普段持つ能力よりもさらに格段の、そう、それこそ別格といっていい次元にまで己の能力を発揮する。わかっていた。それは、わかっていたはずなのに。

本当に、倍するほどにも一気に動きが見違える。佇まいの質感が変わる。空気を従え、そこを一つの戦場に変える。

指先が舞う。舞う?

そんな生易しいものじゃない。自分が操っていたI=Dのような機械の内部構造ほどにも正確で、I=Dを操る時の感覚よりもなお有機的にその正確さが無駄なく結合されている。

結合、そう、結合。

その手で傷口を縫い合わせふたぐこともそう。

命とこの世界を結び合わせることもそう。

医師たち。

アイドレスが、人と人とをつなぐことで進化を発揮する人間の本質を捉えたゲームならば、そこにおいてもっとも強いものは、何か。

ARの回復なんて瑣末な問題じゃない。

「思いやり、か……」

遠征であり、患者を乗せる診療台がないため時として地にひざまずき応急手当てを行う彼らの姿が、男には、なぜかとても神聖で敬虔なものに見えた。

―The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎

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最終更新:2007年04月14日 21:49