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レンジャー連邦の戦争準備状況:一般女子学生の物語


「『フィーブル藩国に正体不明の要塞艦接近。
 迎撃準備に各藩国立ち上がる』……か。ふうん」

 それほど遠くもないが特別近いわけでもない藩国のためか
情報端末に踊る緊急事態の文字もどこか実感がわかない。
今日はいつも通りに空が青くて、風がそよいで、
通りかかった家の台所からは鮭の焼ける匂いが立ちこめている。

 犬達の国があるせいで平和ボケとまではいかないまでも、
戦いからはずいぶん縁遠い生活を送っていた。
確かに昔の友人にはサイボーグ化して軍の歩兵を務めている者もいるが、
私のような学生の、特に女子には戦場のイメージなど湧きやしないのだ。
「それにもうすぐ官吏の試験があるしね」
頭の片隅で自分とは関係のないこととみなして、片隅へぽいっと投げた。
今の私に必要なのは試験突破の知識だけ。
「そして憧れの蝶子藩王のもとで一所懸命仕えるのよー」

 現藩王こと蝶子伯爵夫人は連邦民からの支持率が異様に高い。
美しい容姿は元より、気取らない性格や政治に対する真摯な姿勢などは
一般連邦民にまで広く知れ渡り、その評価を存分に高めている。
まだ年若いこともって無茶をしたがるところもあるが、
それすらも愛嬌で済ませてしまえる人望と魅力があった。
 彼女のような女子学生にも支持される
若い女王というのは珍しいのではないのだろうか。

 試験用問題集を片手に大学からの帰路を進む。
途中、藩国軍歩兵の一団が後方から現れて、真っ直ぐ藩都基地へ向かって行った。
彼らは少し急ぎ足だった。その事が妙に胸に引っかかっていた。


「ただいまー」
「おかえりなさい。もうすぐ藩王の緊急会見が始まるらしいわよ」
帰宅すると既に母が仕事から帰宅して、居間でお茶を飲んでいた。
「緊急」の言葉が肉親の口から伝えられただけで、ずいぶんと生々しく響く。
だが、まだ自分は蚊帳の外で、他人事だと感じる心にも異論はなかった。
 自分用のお茶を用意し、膝の上に問題集をおいて、映像受信機に意識を向けた。
綺麗な景色や壮麗な音楽をふんだんに取り込んだ商業広告が流れている。
これも毎日恒例の通過儀式である。
きちんと意識して留める人が一体何人いるのだろうか。

 18時きっかり。
常ならニュース番組が流れる時間だが、今日は違った。
辛気くさいおじさんキャスターの顔ではなく、
画面に映ったのは年若い女性。藩国民憧れの存在として名高い蝶子伯爵夫人だった。
「きゃー、蝶子藩王だー!」
若い男女がアイドル歌手を見て騒ぐが如く、思わず浮かれて声を上げた。
こら、と母に小さく叱られて、小さくなってお茶を一口飲んだ。
それでも画面から目を離す事はない。

 画面の中の藩王はいつもより落ち着いているような、若干沈んだような、
そんな口調で語りだした。
共和国に正体不明の要塞艦が現れたと。
共和国はそれを全力で迎撃、撃破すると。
そのための資金・資源を各藩国から徴収していると。
だが連邦は資金も資源も少ないために最悪取り潰される可能性があると。

 会見が終わる頃には、私はただ口をぽかーんと開けて何も話せずにいた。
正体不明の要塞艦が現れてそれを迎撃するまではわかる。
ただそのための資金を払えない国が潰されるって?!
蝶子藩王が暗い顔をするのはそのせいだと?!

「呪われろGMー!!!」

 口から勝手に出た言葉の意味は私にはまったくわからなかったけれど、
確かこういう時に使う言葉だったように思う。
これは共和国に昔から伝わる決まり文句だった。
母はにこにこしながら私が怒る姿を眺めている。
ということはこの言葉は正解だった訳だ。

「今、あなたに出来ることは何??」

 母はお茶を飲みながら静かに言った。
その言葉に私は怒りながらも冷静に考えようと努める。
出来ること……?? 出来ることってなんだろう??

そして一つ浮かんだ。ホントに小さな事だったけど。

「中央銀行からお金奪い取ってきてやるわ。
 もちろん強盗とかじゃなくて、正式な手続きを踏んで。
 物語とか特産品を提出すれば、いくらかお金がもらえるんでしょう??」

 藩王の涙を回避する、ただそのためだけに、私の戦闘準備は始まったのだ。
そう、愛ゆえに。


(文責:小奴)
最終更新:2007年01月29日 03:36