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レンジャー連邦の戦争準備…の裏で・楠瀬とじにあの物語


お触れが出た。
国民総動員である。
名のある国民たちが政庁に集まり、藩王からの詔を聞いている頃。

名も無き国民たちは、戦闘準備の報に戦々恐々としていた。

「おい、なんだって今時分に戦闘なんだい」
「何でも共和国のある藩国に訳のわからん船が出てきたっていうじゃないか」
「またわんこのしわざか?」
「どうやらそういうもんじゃないらしい」

人々の噂は絶えない。
解かっていることはひとつ。
戦争がはじまるということ。

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猫士じにあは拗ねていた。
いぢめると面白いと噂の文族、楠瀬藍をおだてて騙すことに成功し、彼が連邦紀行文を書くために藩国内を旅する時のお供の座をちゃっかりゲットしたのだが、いざ出発の段になり先のお触れが出て、旅行自体が中止になったのである。
戦争が起きるのならば仕方がないが、それにしても直前まで張り切って準備していた時間を返せ、バカー!ということのようである。

ベッドの周りには余所行きの服や非常用の猫缶、猫じゃらしその他もろもろが散らばっている。

「おーいじにあ?小奴さんが探してるぞー?」

そこにやってきたのは楠瀬藍。
件の文族であり、今じにあが最も八つ当たりをしたい対象でもあった。

「…何しに来たにゃ」
「いやだから。小奴さんが呼んでるって。今は国も大変なときだし、猫の手は借りるって息巻いてたよ?」
「そんにゃことはどうでもいいにゃー!!」

普段の丁寧な言葉遣いを忘れ、じにあは手当たり次第にモノを楠瀬に投げつけた。

「ちょ、待て、いて、痛いイタタイタイー!?」

すばらしきはそのコントロール。
全弾楠瀬に命中。

ポーン

『楠瀬藍が、居住区で倒れました』

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「あー。楠瀬が倒れた」
「また痴話げんかでしょ。ほっときましょう」
「小奴、そうなるの見越して楠瀬をじにあのところに呼びにやったな…?」
「あら、何のことかしら青海さん?(ニッコリ)」
「…くわばらくわばら。資料まとめてくるわ」
「早めに提出お願いねー」

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「…あーいて。お前もちょっとは加減してくれよな」
「だから、それについてはごめんって言ってるでしょう?」
「…まあ、いいけどな」

ようやくじにあをなだめすかして落ち着かせ、通常状態付近までもっていった楠瀬はため息をついた。
ちなみにここまで1時間。猫士の機嫌取りにしては早いか遅いかの判断はするまい。

「それにしても、そんなに楽しみだったのか?食べ歩き」
「そうじゃない!…とも言い切れないけど、なんかさ、今まで頑張ってきたのが目の前でばっさり無しにされるのって、悔しくない?あたしは、ちょー悔しい」
「ちょーはよせ」
「茶化さないでよ!」
「…ごめんなさい」

どうでもいいが楠瀬は、女性にやたら弱い。
それがいぢめられる原因だとは、本人全く気付いていない。

「で、目の前で旅行台無しにされて、戦闘準備に入ったはいいけど、また台無しにされたらって思ったらなんだかやる気がでなくってさ…」

ため息をつくじにあ。
楠瀬は、目を閉じ何か考えている。

「「あのさ」」

二人の声がハモる。

「あ、楠瀬先に」
「いや、じにあが先に」

譲り合いである。

「んー、じゃああたしから。こういうこと考えるあたしってさ、みっともない…よね?」
「うーん、ケースバイケースだと思うけど…この場合は、別に普通の反応なんじゃないかな」
「どういうこと?」
「いやつまり、余所から妨害が入って、準備してきたことが邪魔されるのは、確かに悔しいと思う。だから、それでヘコむのも当然なんじゃないかな、と」
「…それで?」
「だから、こう考えるのはどうかな?」

いったん言葉を切り、咳払いをして、そして少しだけかっこつけて楠瀬が言う。

「準備してきたことが邪魔されたんじゃなくって、ちょっと予定を後にずらされただけなんだ。だから、今出来る事を一生懸命やっていけば、いずれ準備してたこともできるはずだ、ってね」

沈黙。
そして。

「…ぷっ」
「…え?」
「っくく、あはは!うわーよく言えるねそんなくさいセリフ!おかしすぎて腹筋よじれるわー!はひーくるしー!!」
「!!ひ、人が一大決心していったセリフを笑ったな!」
「だってー。普通言わないよ?こんなこと」
「や、ヤガミだったら言うかもしれないジャン!」
「ヤガミは別ー。アイツはヘタレカッコいいから良いの!アンタはただのヘタレだからダメー」
「なんだとー!むきー!!」
「やーいヘタレーただのヘタレー」

狭い部屋での追いかけっこは、まだ終わりそうにない。

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楠瀬の戻りがあまりにも遅いので心配になった浅葱空が、開け放たれた部屋の扉から一部始終を見ていた。

「うんうん、愛があるっていいなぁ」

ほのぼのとした口調でそうつぶやくと、テープレコーダーのスイッチを切った。

…数時間後、吏族執務室の片隅で自らの失態をテープ起しする楠瀬藍の姿があった。

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(文責:楠瀬藍)
最終更新:2007年01月29日 03:37