○基本方針
・3人が連携する
○体術
・把握する情報を戦闘関連だけに集中してほかを切り離す
・相手の動きをよく見る
・動きの起こりを相手の体の始動部分に特に注目し、機を捉える
・大胆な動きで迷いなくずばっと行動
・呼吸を意識し、それによって力のコントロールを意識的に強める
・動きの基本はやわらかく円を描くように
・コンパクトに無駄なく
・関節同士の連動を意識して力をコントロールする
・地をしっかりと踏みしめ、踏み込みの反発力を活かして移動する
・呼吸を盗まれないように動いてリズムを作りながら相手の意識を散らす
・作ったリズムも相手の意表をつくためならいつでも崩して唐突に動く
・細かい間合を作る移動はすり足、それ以外はステップと、組み合わせて動きを作る
・踏み込む先は相手が反応しようにも相手自身の体がまず邪魔になるような位置を狙う
・相手の体に触れた時はそこから伝わる動きからも相手の動きに反応しつづける
・体の中心軸を意識して、それを動かすように移動しバランスをいつでも意識し保ち続ける
・動きの基本は足腰、きちんと意識を集め、地面に対して足腰を粘らせ残心を忘れない
・力勝負になった時は相手の勢いに一瞬だけ抗ってから身を任せ体を流して無駄な力を使わない
・相手に対して気勢で負けないように声を出す
○行動詳細
・靴裏にフェルトやシリコンゴムなどを貼り付け、足音を防ぐと同時に滑りにくくする
・舞踏子とハッカーとでペアを組み、三組で三方向をカバーしあう
・把握している地形を利用し足場の確保を最優先に動いて回る
・ハンドシグナルで細かく互いに合図する
・互いの呼吸を意識する
・感覚の高い舞踏子の未来予知で敵の攻撃の軌道を読み、その情報を随時オペレートしてハッカーの防御の補助をする
・姿勢は低く、相手に対してさらす面積を減らし、腰を引いて当たらない事を優先
・声をかけあい注意を促す
・ここまで取ってきた地形データを利用し防御機動を取る
・個々への攻撃に対して敵同士が邪魔しあうように逃げる
舞踏子の未来予知が働く、
「その先に敵が居るわ!」
藩王の発した言葉により、周囲の人間が直ぐ様行動する。
舞花が藩王のそばに寄り周囲を警戒すれば、
サクがハッカー隊と舞踏子隊の連携に神経を注ぐ。
遊佐呉はあらかじめ考えていた対応策通りに、最後方に廻り退路の安全を確認する。
「ここは私が時間を稼ぎましょう。皆さん今の内に逃げてください!」
ハッカーの城華一郎が皆を庇うように前に出る。
「何を言っているんですか。あなたはレンジャー連邦に、いや、アイドレス世界に無くてはならない人です。ここは私が引き受けます。下がっていてください」
同じくハッカーの冴木悠がさらに前に踏み出る。
「何言ってるの!
皆で一緒に帰るって出発前から決めていたでしょう!
手ぶらでも良いから皆で生きて藩国に帰るって決めていたでしょう!
危険な目にあったら一目散に逃げるって決めていたでしょう!」
藩王の必死な叫びが遺跡内に響く。
「安心して下さい藩王。後で追い掛けますから、先に行っていて下さい。」
「そうですよ。第一私が帰らなかったら藩国の女性が悲しむじゃないですか。」
城と冴木が答える。
「さぁ、舞花さん藩王を宜しくお願いしますよ、遊佐呉さん、ハッカーのあなたが先導するのですよ。」
城の言葉に二人は無言で頷き、藩王を護りながら後方に下がっていく。
「ちょっ、ちょっと舞花さん、遊佐呉さん、なにやっているんですか。まだ城さんや悠さんが・・・。」
藩王達が奥に消えていく、最後まで残っていたサク。
「必ず帰って来て下さいね。」
彼女も走り去っていった。
「さぁ~て、悠さん。何度も練習した『二連獅子・回避の型』いきますよ。」
「はい!解りました、城さん。」
二人の命を掛けた演舞が始まる。
(文責:ビッテンフェ猫)
タン
タン
タン
タン
電光のように体と視界が左右に振れる。尻尾が一拍遅れて左右に揺れて、耳が、自分の切り裂いた空気の音を確かに聞いていた。
足は、まるでそこにあてはまるよう、始めから足場が削られていたとしか思えないほどフィットする、場所ばかりを踏みしめている。当然だ。ここまできっちりと見つめて仕上げてきたマッピングデータを反映して選んでいる。頭の中には足場の情報が背後であろうと敵の足元であろうときっちり叩き込まれて見えている。
戦闘は、移動だ。ポジション取りだ。
そう、彼らが教わったのは、一体いつの頃からだったろう。自分でコントローラを握りしめ、意識せずとも見つけ出していた勝利の法則からだったろうか、それとも仲間と卓を囲んで繰り広げた胸躍るような冒険談の数々からだろうか、本か、あるいは口伝か、それともアイドレスに来てからゲーム内の設定で受けた訓練でか、相手が強敵であるほど、場面が極まっているほどに、ゲーマーの魂と血は燃えたぎる。
敵の間合内にいろ。ただし、踏み込むなら、間合のさらに奥の奥。相手が容易に体勢を変えて届きはしない、力が乗らない、そういう角度、そういうポジション、そういうタイミングを狙って滑り込め。ピンチはチャンス、チャンスはピンチ、ためらうな。
自分の呼吸が相手の肌にかかるほど、近くに踏みこみ、そして―――
己を捨て、相手に従い、動きを読む。我を貫き、相手を潰して、動きを作る。あわせて四つの彼我が自分の中だけでもせめぎあい、そこへさらに仲間の動きが食い込み混じり、戦闘は、渦巻く極彩色の認識の世界。
ゆぅらぁっと体の運びはやわらかい。やわらかくて、強い。滑らかであれ自然であれ無意識であれ合理的であれ、戦闘の9割は、否、99%はそれが始まるまでの準備ですべてが決まっている。戦うための力を身につけ、蓄え、心を構え、そうして細緻に至るまで、事態を想定し準備し対応し学習したものにだけ、勝利という名の現実が許される。敗北は生存している限り、諦めない限りは敗北ではない。ただ一度の、たった一つの勝利のために、ほかの全てを負けてもいい。その勝利に至るためならすべてをなげうつ。
そう。
相手の間合、奥深くに、身を投げ込むことも、そのようなものだ。そのための技術がなければただの無謀に過ぎない。人が積み上げた努力の名を、別名、技術と呼び、人類が積み上げた技術の名を、別名、文明・文化と言う。努力とは、怒力だ。心に積み上げた敗北の悔しさに怒る心の表れだ。心は力に変わる。怒りは努力に変わる。
しゅ、たあん。
また、歩、進めた。
戦いは、なければいい。
相手にも、相手なりの事情があってやむなく今のような状態に陥っているのかもしれない。
その意志を汲んでやれればどれだけいいだろう。
これは自分たちのわがままなのかもしれない。
相手にとってただの侵略者で、ただの略奪者なのかもしれない。
それでも。
誤って始まった戦いでも、謝って終わることではないから。
ならば、決着をつけねばならないだろう。
しゅたあん。
また、歩、進んだ。
(絵:舞花)
戦いを続けよう。決着をつけよう。
退くならばよし。退いて済むならそれでもよし。
互いの目的が、ぶつかりあうことなく決着するなら、それもよし。
だが――――――
「そうじゃないなら、どうしても、ここは死ねない、譲れない、なあ―――――!!!!!!!」
吼える気迫が士気を生む。生んだ士気が気を高ぶらせ、その気が再び自分に戻る。心が力に変わるのならば、気は、この虚空に満ちる気は、人と人の、人と世界の間に、伝わる心が力に変わる!!!!!!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
咆哮、一閃!!!
(文責:城 華一郎)
どくん。
瞳に血がたぎる。
どくん。
猫耳が、揺れた。
どくん。
尻尾をひらりん。
どくん。
どくん。どくん。どくん。
/*/
感覚が空間を捉える。ハッカーの認識能力がファジィな知覚を立体的な情報に変換、視覚・嗅覚・聴覚からインプットされるものに加え、敏感な猫妖精の触覚が、風に乗る諸々の情報を読み解いて、彼我の相対距離を精密に算出。サイボーグボディに流れる電流と、それをつないで動かす神経と、筋肉細胞、血流、うなりを上げて、高鳴る鼓動がドーパミンを大量放出、未知なる環境を見る間に学習し我が領域と化していく。
絶えることなく変動する周辺環境と、感覚へのインプットによる分析結果とが絶えずフィードバックを繰り返し、どんどん空気に体が馴染んでいく。
一歩一歩がやわらかで、サイレントかつストッピーな靴裏がフルに機能する。ぎゅおんぎゅおんと集中した視界が、それでいて、ひとつところに居着くことなく、見るともなしに、辺りを捉えていて。滑らかに連動した体中の意識が、統一感覚を与えてくれる。繰り返された訓練だけが実現可能な、さまざまなテクニック(運用体系)と骨(コツ)とが結びつきあい、さらにはそこへと個人的な、ほんの些細な経験との照らし合わせも加わって、能力内で可能な限りの己の知覚(領域)は、領域(知覚)であるがゆえに逃すことなく己で支配し尽くしている。
ぱ、ぱぱ、ぱ。
行動の中、無意識ほどにも自然に繰り出されるのは、細切れなハンドシグナル。まるで会話ほどもある密度。互いが互いを認識する。互いが互いを認め合う。互いが互いを支えあい、互いで互いを庇いあう。
内側は、心臓の音が聞こえるほどに冷めているのに、肉体は、心臓の音が響くほどにも熱い。
アイ・コンタクト。使える限りのありったけの情報を、使える範囲内で使い切る、この連携すらも、その一つ。
手足がリアルに重い。体が、不調なのではない。その逆だ。普段は認識していない、五体のきちんとした重みまでもが、正しく把握されて運用されている。
時間はジェリー状の海か、それともそれは、空間か。生きる濃度が日常とまったく異なるレベルに高まった、この、状態。ああ。懐かしい。まともに生きていては滅多に拝むことのできないこの感覚。ゲーム「だからこそ」届きうる、限界を一つ塗り替える限界線の推移が、直接肌で、魂で、感じられる、この瞬間。
どくん。どくん。どくん。どくん。どくん。
やがて、この鼓動、すらも溶けて消える、この集中の行き着く果てには、一体何が待っている――――。
(文責:城 華一郎)
「ちょ、わーわー!(恥ずかしいですよ!」
「蝶子さんが死んだら滅亡しちゃうんですから、我慢してください!」
(絵:舞花)
蝶子を腕に抱えてお姫様だっこで爆走する冴木。
やれ逃げそれ逃げどんと逃げ、三十六計逃げるにしかず、敵なんてダンジョンじゃあかわす見過ごすやりすごすが常道で、ましてこのパーティ、貧弱極まる、I=Dのない舞踏子、情報戦のないハッカー部隊である。まともになんて受けてられない!
「自分で走りますからー!」
「は、は、は、軽い、軽い…!」
そうは言われても、あんまり軽くもなさそうな表情で目の前で歯を食いしばられても説得力がない。
「ちょ、冴木さん早い早い!」
「まってー!」
か弱い舞踏子2人を守るため、しんがりについた華一郎と呉は、それでも必死に追いかける。
「伊達にサイボーグ歩兵で行軍訓練はしてませんよ!」
「ぶ、文族はひ弱なんだ」
「大族なんて普通の人ですよ!」
マッピングデータはばっちり手に入ってる、アクシデントはないはずだ。念のため舞踏子2人が未来予知をして何か変化が起きてないかどうかチェック。もうハンドシグナルというより、早く早くとぶんぶん腕を振り回してみんなを呼び寄せる。
「大丈夫です、みんな早くー!」
「は、早くって言われても」
「いよっしゃあー!」
「うわわわわわ!」
ますます加速する冴木、蝶子、腕の中でがっくんがっくん上下。目を回しそうになりながら、蝶子はふと冴木の眼鏡がずり落ちそうになってるのを咄嗟に直した。
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえこちらこそ」
「藩王! 冴木さんも、そんな微笑ましいことしてないで!」
「うわわわ来る来るー!」
もはやどたばた。見た目楽しそうだけれど、本人たちはいたって必死という、あれである。しかし背後に迫り来る現実は、あろうことかギャグが通じない。シャレで遊んでいては死んでしまう。
6人は一丸となって助け合った。
「藩国に帰れば、これもいい笑い話になるんですかねえー!」
「そんなこと、無事に帰れてから考えてー!?」
(文責:城 華一郎)