東の都 移動オアシス


砂漠には移動するオアシスがあってね、何年かに一度、東の都の近くにやってくるのさ。
ひどい嵐が通過した日の次の夜なんかは、来るかもねぇ。
その泉には妖精が住んでいて、その姿を見たものは一つだけ願い事が叶えられるんだよ。
どんな姿かって?それはね・・・。
(東の都に伝わる伝承)

「四都物語」

~其の二  東の都「移動オアシス」~

ん?
誰だいあんた見かけない顔だな。え?俺に話があるって?
名刺か、いいもの持っているなぁ~。なになに「藩国文士」、あぁ!お役人かい!
道理で名刺なんて持っているわけだよな。えぇと、あお・・・うみ・・・?
ん、「おうみ」って読むのか。で、そのオウミさんが俺みたいなしがない石切職人になんの用だい?

……おぉ!!懐かしい話しだなぁ。
そうだよ、その話をばあちゃんから聞いてオアシスを見にいったってのは俺のことさ。
詳しく聞きたいのか?いいぜ。もうずいぶんおぼろげになってきているが話してやるよ。
ちょうど今から昼休憩だから、仕事場の中にはいんなよ。



たしか6つのころだったかな。そのころ俺はばあちゃんの話を聞くのが大好きだった。
「ばあちゃんばあちゃん!今日もお話聞かせて!!」
「おぉおぉ、ヨセフは元気いいねぇ。いいよいいよ。それじゃ今日は・・・」
ばあちゃんの話してくれる話はうちの土地の伝承や昔話、色んな童話があって俺は毎日毎日ばあちゃんのとこに行っていたよ。

その日はひでぇ嵐でよ。ごうごうごうごう、風が吹き荒れて酷く怖かったな。
でもそれ以上に、前に聞いた例の話のことが気になってよ。その日も安楽椅子で外を見ているばあちゃんのとこに行ったんだよ。
「ばあちゃん!明日、妖精のオアシス来るかな!?」
「こんなひどい嵐は何年ぶりかねぇ・・・・そうだねぇ、来るかもしれないねぇ。」
ばあちゃんはにっこり笑ってたな。

翌日は嘘みたいな快晴だった。
「おい!こないだ話した泉の話覚えてるか!!」
俺は近所の悪ガキ仲間の中でも特に仲が良かった2人を呼び出して、いきなりそう切り出した。
「こないだの話?どれのことだよ。お前は話しまくっててどれだかわからねぇよ。」
こいつの名前はヒロ。俺んちの2個隣に住んでて、昔から喧嘩に明け暮れたもんさ。
「泉のお話って、あの妖精の泉のこと?」
この子はルリ。隣の家の子なんだけどさ、そりゃー優しくてさ、喧嘩したりすっころんだりで俺は生傷がたえなかったんだが、いつも親切に手当てしてくれて・・・笑うと花が咲いたみたいにパッと周りが明るくなる感じでさ!!・・・え、お、おう、まぁ、初恋だったろうな、うん。な、なんだよ、あんまりニヤニヤすんなよ!!
「そうそう!その泉だよ!!昨日はヒドイ嵐だったろ!?」
「家の屋根が飛んだところもあるってよ。大変だよなー。」
「でさ、昨日ばあちゃんに聞いたんだけど・・・・」
俺は早速仕入れた最新情報を2人に披露した。
「・・・・というわけで、今夜、泉がくるかもだぜ!」
「すげぇ!よっしゃ、今夜・・・」
「今夜、泉を見に行こうよ!!!!」
ルリちゃんが大声で叫ぶもんだから慌てて口を押さえたよ。ルリちゃんはパッと見はおとなしい子なんだけど、好奇心旺盛でさ、そこがまた可愛くてよ・・・。
あぁ、すまんすまん。それでよ、3人は夜中にまた集まる約束してその場は別れたんだ。

6つくらいのころってさ、冒険にも憧れるだろ?行動範囲も狭いし、町外れに海を見に行くのでも冒険だったからな。
それが家から結構離れたところに砂丘があってさ、伝承どおりならその辺に泉がやってくるはずってところへ、深夜、しかも子供3人で行くんだぜ。ワクワクして無意味に家の中を跳ね回ったりしたな。

そのうち夜が来て、日付の変わる1時間前くらいに街の広場に3人は集合した。
「おい、気づかれないで来れたか?」
「大丈夫大丈夫。」
「うー、ワクワクするね!!」
またもやルリちゃんの口を押さえたが、叫びたいのは俺もヒロも同じだったよ。冒険への期待で胸がはちきれそうだった。
「私、お弁当持ってきたのよ!」
「すげーなになに?」
「得意の料理なんだから!じゃーん!玉子のサンドイッチ!!」
……中身が黒い物体だったのが想定外だったが、俺達は砂丘へと出発した。

それぞれが持ってきたランプで足元を照らしながら砂漠を歩いていった。
最初はピクニック気分で話したり歌を歌ったりしてたんだが、途中から黙りこくっちまったな。
横一列で歩いていったんだが、砂漠の起伏が怖くてなぁ~。月明かりとランプの光からうっすら見える暗がりから、今にも怪物が飛び出てきそうで足がすくみあがりそうだったよ。
「・・・・・・・・。」
でもよ、ちょっと前から俺の左を歩いてるルリちゃんが手を握ってきてたんだよ。
こりゃーかっこつけるしかないだろ!?全然怖くないよーって感じで握り返したり話を振ったりしてたな。このときヒロのことは全く覚えてない。すまん。

そのうち、ちょうど日付が変わるくらいのときに砂丘についた。まぁ、そんなに遠くないから子供の足でもすぐだったんだが、ルリちゃんの手を離すのが残念だったよ。
俺達は腹ばいになって寝転び、各自持ってきた毛布に包まって砂丘の麓を見張ってた。
左から俺、ルリちゃん、ヒロで寝転んで、色んな話をしたよ。どんな話だったかはさすがに覚えてないな。見慣れてくると暗がりも怖くなくなってきて、それより俺は話をするルリちゃんの横顔や、クリクリとした目の動き、唇の動きに見とれてた。

「・・・・おい・・・・おい・・・」
どのくらい時間がたったかな、たぶん4時くらいだと思うが、いつのまにか寝ていた俺はヒロの声で目が覚めた。そして、夢を見ていると思ったよ。
目の前の、確かに砂漠が広がっていたところに、泉があったんだ。
泉自体が光を放っててさ、強い光なんだが、目が痛くならない優しい光・・・なんだかひどく暖かい気分になった。
ルリちゃんも起こして、3人でボーっと光る泉をしばらく見てた。
「あ!あそこ!!」
ルリちゃんが突然、泉の一点を指差して叫んだ。

そして、俺は本気で夢だと思った。

そこには、背中から羽の生えたルリちゃんが泉の上に立ってたんだ。
天使だ、とそう思ったよ。それほど美しかった。
「あ、あれってさ・・・・」
「・・・・妖精・・・・」
目をごしごしこすって何度も隣のルリちゃんと泉に立つルリちゃんを見比べたよ。

「宇宙一のトレジャーハンターになりたい!!」
突然、ヒロが叫んだ。なにを言ったかサッパリ分からなかった俺達は、ギョッとしてヒロを見たけれど、それが願いを言ってるって気づいて慌てて俺達もお祈りしたな。

「幸せなお嫁さんになれますように・・・」

小声でつぶやくルリちゃんの声を聞きながら、俺もにっこりとこっちを見ながら微笑む天使のルリちゃんにお祈りした・・・・。



……ってのが俺の体験の全部さ。次に気がついたらもう朝で泉は跡形もなかったよ。
それで家に帰ったら抜け出したのがばれててこっ酷くしかられた!誰も泉の話は信じてくれなかったしな。あ、でもばあちゃんだけは良かったねぇって言って頭を撫でてくれたな。

ん?妖精がなんでルリちゃんだったかって?
あぁ、あんた最後までこの話知らないんだな。妖精は「見た人が一番、愛おしく思っているものの姿で現れる」んだよ。
ヒロは「イカナが・・・・イカナが・・・・」とか言ってたし、ルリちゃんは子猫の姿に見えてたらしい。
願い事がどうなったか?
そうだな、結構かなってるんじゃないかな。ヒロは詳しくはしらないがトレージャーハンターになって他国にいるらしいし。こないだ遺跡を見つけたとかどうとか手紙が来たなぁ。ルリちゃんは・・・・まぁ、かなったと思うけどな、うん。

え?俺の願い事?そりゃーお前・・・。って、あぁぁあ!!
しまった!!もうこんな時間じゃねぇか!!!
いやさ、仕事はまぁいいんだが、昼飯をくわねぇと女房が怒るんだよ。
やれやれ、今日も玉子のサンドイッチかなぁ・・・・。

おう、帰るかい。じゃ、気をつけてな。

「Love be the with you!!」 


(文責:青海正輝)

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最終更新:2007年01月29日 04:04