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農業:新型肥料の開発


カツカツカツ・・・・。
西の都、農業大学の廊下を2人の男が歩いていく。

「・・・・・・・楠瀬さん、急に仕事をお願いして申し訳ないです。」
「いやいや、全然いいよ~。」
「・・・・・・・・・・・・。」

青海は朗らかに笑う楠瀬の頬に新たにつけられた引っかき傷を見つけて、戦争が終わったらこの人の良い文士仲間とその親友猫士に他国旅行でもプレゼントせなあかんな、と思った。

やがて、2人は一つの部屋の前に立つと、ノックして中に入った。
集まっていたのは農業大学の教授達である。
礼を交わし席に座り、青海が口を開いた。

「皆様、お忙しい中お集まりいただいたことを。まずは心より感謝いたします。」

青海と楠瀬が西の大学を尋ねた理由は、先に発表された食糧増産計画にあった。
連邦はただでさえ不足気味の食料生産力の全てを振り絞ってこの計画に力をつぎ込んでいたが、経過は芳しくなかった。
そこで、両名は農業の研究なら共和国でも有数の西都大学を訪ね、年に一度集まるかどうかの全学部の主席教授たちに集合してもらい、藩国の農業にまだ開発できるところがないかの助言をもらいに来たのである。

「どうぞ各先生方におかれましては、ご存念を余すことなく、語っていただきたい。」

真剣な顔で話す青海の言葉で会議は始まった。


―2時間後―


会議は煮詰まった。
それもそうである。もともと農業に全く適していない砂漠を少しづつ農地化させていくのが連邦農業の基本なのだ。短期間に劇的変化するようなものではないのである。
新たに進めている果樹栽培計画がかなり軌道にのっているという明るいニュースもあったが、概ね各教授の意見は、連邦は全力を尽くしているということであった。
青海と教授陣に徐々に絶望感が漂い始めたころ、会議室に声が響いた。
「やっぱりおかしい!!」

楠瀬藍は周りを見渡しながらそう言った。
一人ひとり、教授の顔をゆっくりと見渡すと最後に青海の顔を見つめ再び言った。
「青海くん、これは明らかにおかしいよ。」
そのあまりに真剣な表情に教授陣と青海は若干たじろいだ。

「あ、あの~、楠瀬さん、なにがおかしいのでしょうか・・・?」
青海がおそるおそる尋ねると、楠瀬は力強く言った。
「どう数えても一人いないんだよ!!」
「え?」
「青海くん、1時間前から何回も数えなおしてるんだけど、何回数えても学部数と出席されてる教授の方の数が一人あわないんだよ!!」

―1時間あんたはなにを聞いてたんじゃい!!
青海は思わず椅子からずり落ちそうになりながら心のそこから湧き上がってきたツッコミを抑えた。
「え、えぇとぉ、一人欠席のかたがいらっしゃるんですか?」
「い、いや、そうでもないんですが・・・・・その・・・・。」
何気なく聞いたものの教授陣の歯切れ悪い反応に疑いの目を向ける青海に、意を決したように教授の一人が口を開いた。

「その・・・農業化学のエッジ教授が本日はちょっと・・・・。」
「あれー?風邪でも引かれたんですかー?」
容赦なく追求する楠瀬。全く悪気のないのが恐ろしい。
「えぇと、そうではないんですが・・・・。」
青海もなんとなくつっこんでみた。
「どうされたのか、ご説明をいただきたい。」

教授陣は言いにくそうにしていたがやがて口を開いた。
「その、エッジ教授は『そんなよく分からない会合をしている暇はない。私は研究で忙しいのです!!』とおっしゃられて・・・・・。」
そのあんまりな意見にあんぐりと口を開く青海と、まぁしょうがないよねーといった感じの楠瀬であった。

ズン!!
「お!?」 「わゎ!!?」

2人が大学を出てしばらく歩いていると、急に地面に衝撃が走った。
「・・・・・・・・・地震、ですかね?」
「いや、青海くん、あそこを見てごらんよ。」
楠瀬が指差す先には一条の煙と、
「人が倒れてますね・・・・。」
男が大の字になってぶっ倒れていた。
「行ってみよう行ってみよう。」
「あ、ちょ、楠瀬さん・・・・。」
すたすたと歩いていく楠瀬の後を、青海も慌ててついていった。

「おーい、おーい。」
失神している男の頬をバシバシと叩く楠瀬。遅れて追いついた青海は顔をしかめた。
あたり一面ヒドイ匂いである。
「・・・・い・・・い・・・痛いんじゃい!!」
「あ。生きてらっしゃいましたか。」
男のパンチをひらりとかわすも、着地に失敗してこける楠瀬。
頭を抱えながら青海が男に話しかけた。
「急に大きな音がしたので様子を身に来たのです。お怪我はありませんか?」
「ぐぅ・・・・ま、怪我はなさそうだ。すまないな。」
「にしても・・・・・。」
あらためてヒドイ匂いである。
「ここで一体なにを?」
「いやなに、実は新型肥料の開発をしていたのだ。」
「えぇ!?」
思わず叫ぶ青海。
「あれ?もしかしてエッジ教授ですか?」
「お!俺のことを知ってるとは見所があるやつだな!!」
どこかかみ合わない会話を続けようとする2人を遮って青海が喋る。
「えぇと、実は我々は・・・・」

「・・・・・・・なぁんだ、藩都からのお役人ってのはあんたらのことだったのか。」
「えぇ・・・・。」
ボサボサの髪の毛、よれよれで元の色が分からない白衣を身にまとったエッジ教授を前に青海は自己紹介を済ませた。
「で、さっき言ってた新型肥料ってのは?」
「おぉ、そうだった。いや、俺は長年に渡って新型の肥料の研究をしてるんだが・・・、まぁこれを見てくれ。」
そういって教授が指差した先には、
「なんですか、この奇形野菜の群は?」
「ちょ、ちょっと楠瀬さん。」
あまりに正直な感想を炸裂させる楠瀬。

そこには「異常に根っこが盛り上がった野菜」「異常に茎がぶっとくなった野菜」そして「異常に葉っぱがでかい野菜」がごろごろとしていた。

「いや、まさにそうなんだよ。」
楠瀬の感想を聞いて教授は深々とため息を漏らす。
「長年をかけて、それぞれの特色を最大限に出すところまでは来たんだが・・・・それぞれの薬の最高の配分費が全く分からなくてね。ずっとお手上げ状態なんだ。」
「そうだったんですか・・・・。」
意外とまともな研究をしていたことに若干驚く青海。

色々と話を聞いてはみたものの、今は出来ることがなさそうである。
「・・・・それでは、また進展があったらご連絡ください。」
「うむ。ありがとう。」
とりあえず、早く帰ってシャワーを浴びたくなった青海がきびすを返そうとした瞬間。
「ぬぅぉわー。」
青海の横を奇形植物に躓いた楠瀬がヘッドスライディングしていく。
「あぁ!!」
ヘッドスライディングで肥料ダルを破壊する楠瀬。
「お、俺の研究がぁあ!!」
「ぐほ!すごい匂いだ!」
悲劇がさらに度合いを増していく・・・・。

「あれ?なんか物凄いことになってますけど?」
あまりの匂いに目を回していた青海は楠瀬の一言で我に帰った。
肥料ダルの中身が全てぶちまけられた地点に、たまたまあった野草。これが実に強靭な根、茎、葉と生まれ変わったかのようである。
「きょ、教授これは・・・?」
「き、き、き、奇跡だ!!!!」
思わず青海に抱きつく教授。
「ぎゃぁぁぁ・・・・!!」
「楠瀬くんと言ったね!ありがとうありがとう!!!」
泡を吐いて倒れる青海を尻目に、奇跡の配合比を完成させた楠瀬とエッジ教授はガッチリと握手を交わすのであった。

すぐにこの日完成した「エッジ肥料」は国のベスト肥料とされて実践投入される。
化学薬品を極力使わず、動物の糞を中心にしたクリーンな肥料であったため環境にも配慮されており、連邦の農業生産力はさらに増強されることとなった。

(3021文字 文章:青海正輝)