2月13日
今年もついにこの季節がやって来た。
世の中の乙女達が胸に秘めたその熱い想いを甘い褐色の魂に溶かし解き放つ。
その聖戦の前日である今日、浮き立った気配の中レンジャー連邦の乙女達は神妙な顔でL島に降り立つ。
自らの最善を尽くすその為に。
L島南部。
連邦の恋する乙女達の間で淑々と語り継がれる小さな砂浜の上で空を仰ぐ少女が一人。
静謐な雰囲気にそぐわない武装を身に纏い、切れ長な瞳を閉じたまま、しなやかなその手を祈るように胸の前に組んで、静かになにかを待っている。
辺りを静寂が支配し、潮騒と風の音だけが辺りに満ちる。
数刻の間。
一陣の強い風が森をざわめかせる。
それになにかを感じ取ったように瞳を開く少女。
その瞳には強い意志の光が爛々と輝いている。
「さぁ」
口元に浮かぶのは獰猛な笑み。
努力と経験に裏打ちされた自信が溢れ出すような。
「狩りを始めましょう」
恋に全敗のカカオハンター。
愛香の戦いが今年も始まる。
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バレンタイン特別SS
乙女達の聖戦2
~逆襲の愛香~
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空が青い。
常日頃なら歓迎すべき鮮やかな日差しも、頬を撫でる柔らかな風も、今の愛香には邪魔でしかない。
風は臭いを運び、明るい太陽は愛香の姿を鮮やかに映し出す。
そして愛香は知っていた。
奴らは鼻が聞く。
何より、島の変化に恐ろしく聡い。
―あまり状況は良くない…か
森の中を慎重に進みながら、心の中で苦笑する。
―でも
初めてでは無い。
こんな不利などいくつも越えてきた。
今はただ冷静に。
出会ったならば一撃で。
それを心に思い起こして歩き出す。
その時。
愛香の背後の枝葉が揺れる。
息を飲み、銃を構える愛香。
引き金に指をかける。
「あ゛ーい゛ーかーさぁーん!!」
枝葉の影から飛び出してきた少女の強烈な一撃(タックル)に吹き飛ぶ愛香。
構えていたはずの銃や腕やらを弾き飛ばし正確に鳩尾を打ち抜いたその頭に悶絶する。
「いやっ…げふっ!ちょ…まっ!」
自らの意志を離れた体の反応にうまく言葉が紡げない。
「愛香さん!愛香さん!愛香さん!」
なおも泣きじゃくる少女の頭を何とか撫で付け、呼吸を整える。
その猫の耳と、銀色の髪には見覚えがあった。
「ごほっ…じ、じにあちゃん?」
「はいー!」
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(文責:双樹真)
最終更新:2008年04月02日 09:49