レンジャー連邦は。蝶子藩王を先頭に、女性陣が元気でちゃきちゃき動くとして有名な国であった。
溢れるばかりの愛をその胸に抱き、愛するものの為に彼女達はその細腕で日夜戦っている。
そんな輝ける?女性陣の影には、彼女達を影時々日なたで支える男達の存在を忘れてはいけない。
溢れんばかりの悪戯心を胸に抱き、頑張る人達の笑顔の為に彼等は会議室で、日夜闘いを繰り広げる。
そう、平和そうな愛の国であるにかかわらず、ここの会議室は危険に満ちていた。
バリーン!
「ふっふっふっ、誰も居ないでござるな…」
割れてない時がないといって良いほど壊される窓ガラスをぶち破りながら、一人の中年に差し掛かった男が会議室の床に膝を付き、周囲を見回す。
彼の名はビッテンフェ猫、この国一番のお笑い担当として、弄りの研究に明け暮れている男、だが嫁と娘にはたいそう弱い。
「今の内に皆の肖像画に落書きを…。」
男は不適に笑うと懐からマジック(水性)を出すと、おもむろに落書きを開始。
よっぽど慣れているのかその動きは無駄がなく素早い、的確に額に肉、頬にヒゲ、目もとに例の人の眼鏡、乙女、マッチョだの国民でないと分からない言葉や絵を、あっという間に書き込んだ。
「我ながら良い出来でござる、後は…」
彼はにやりと笑うと、一人だけ落書きをしなかった肖像画の前に立ち、その下の壁の部分に、大胆に、かつブリリアントに
冴木 悠 参上!
と舞うような動きで書き上げた。
冴木 悠とは、彼の生涯のライバルと言われる男。
真面目そうな眼鏡姿に反して、その心にはソックスとお笑いの炎が燃え上がる。
なにかにつけこの二人は無駄にはりあい、会えば闘いを始めるという間柄であった。
「くっくっく…これで悠殿の信用は地に落ちるござるよ…」
ビッテフェ猫は中年特有の出始めたお腹を震わせると、マジックをしまい、再び窓から飛び出そうとそちらに足を踏み出した瞬間…
「Σなんと!」
床に突如開いた穴へとさっくりと落ちて行った。
「ふっふっふ…みごとにひっかかったな…。」
落書きをされなかった肖像画の目玉部分が、きょろりと動く。
扉を開くように額が動き中から眼鏡姿の青年が身を乗り出す、冴木 悠本人だった。
「来ると思って落とし穴を作っておいて正解だったな」
よいしょと、足を上げて壁に勝手に開けた穴から体をだし、ぽっかりと開いた深淵を覗き込むと、壁の方に向かい自身の肖像画の下書かれた落書きを消して、華麗に、これまたブリリアントに、稲妻のごとき動きで訂正。
ビッテンフェ猫 参上!
「よし!」
満足そうに笑う、消すなら全部消せばいいのに、そうしないのが彼というものだった。それゆえにビッテンフェ猫との抗争は果てしなく続く。
「俺をはめるには、まだまだ詰めがあまいな」
そうして彼も不敵に笑うと、窓の方へ躊躇なく足を踏み出し、開いたままにしていた穴に落ちていった。
「あら!なんてことでしょう!」
数時間後、会議室を訪れた藩王蝶子と女性陣は室内の惨状に目を丸くする。
「穴、コンクリで埋めますか…?」
「遠慮なく埋めていいと思うな、ボク」
「ガラスかたずけますね」
「はい、お願いしますね、手を切らないようにして下さいね。」
「じゃあ落書き消しますー Σちょ!マッチョじゃなくて筋肉だってあれほど!」
「突っ込む所そこ!?」
誰がどう言ったかは置いておいて、彼女達はいつもの事とばかりに部屋を片付け、部屋はきれいに元通り。
穴の下に誰か落ちてるのとかそういうのは一切触れる事無く、女性陣は和やかにお茶をしながらお話に花を咲かせ、会議室に穏やかな平穏がもどったのだった。
「…悠どの、我々救助されるのであろうか?」
「…さあなあー」
めでたしめでたし。
(文責:萩野むつき)
最終更新:2008年04月02日 09:54