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明けて翌日。
快晴である。
「ふんふ~ん♪」
塩が浮いてごわごわしている服を着て、私は缶詰を温めている。
缶は暖める前にアンリによって蓋のほうに穴があけられていた。
なんでも、こうすると昨日みたいにこぼす心配も減るし、蓋をしたままでも温まったときに破裂しないらしい。
そのアンリは、探検と称して島の中心のほうを見に行ったみたい。
…まあ、昨日の今日であまり朝から顔を合わせにくいから、ちょっと安心。
でも、一人でいるとぐるぐる思い出しちゃって・・・・・・
「あ~~~っ!!もうっ!!!」
うー、昨日のことはアレよ、事故よ事故。
現に船が座礁して遭難してるんだもの。
アレくらいたいしたことないわ。
早く忘れなきゃ・・・
「あれ、どうしたの?」
と、そこにアンリが帰ってきた。
「わひゃっ?」
「・・・どうしたの?何か考え事?」
「えーとちがくて、その・・・お、お帰り」
「ただいま。見て見て、大漁!」
言われて見ると、アンリの腕の中は何やら色とりどりの・・・
「それって、果物?」
「ああ、うん。ここからちょっと奥に行ったところにオアシスがあってさ。その周りになってた」
そういうと、果物を置いて私の隣に座るアンリ。
・・・さりげなく座るものだから、反論する暇がなかった。
さっきのこともあって、意識してしまう私。
あうあう、お、落ち着けー!
そ、そうだ!
「あああの、缶詰もういい頃だと思うよ?」
「そう?じゃあ・・・」
相変わらず器用に缶を木の枝で挟んで手元に持ってくる。
そして木の棒で缶を抑えたまま、ナイフで器用に蓋を開ける。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがと」
缶を受け取り、ひたすら食べる私。
「・・・(もぐもぐ)」
「・・・美味しい?」
「(こくり)・・・(もぐもぐ)」
「・・・あはは(汗)」
アンリの笑顔がちょっと張り付いてるのがわかる。
でもでも。
こういうときに何を話していいかわからないし、何より小さい頃から食事は黙ってするものって育ってきたからもう何をどうすればいいか・・・。
とか考えてる間に食べ終えてしまった。
どうしよう、がっついてる風に思われたかな・・・
ちらり、とアンリを見る。
目が合う。
にっこり笑うアンリ。
やだ、もしかしてずっと見られてた?
そう思ったとたん、顔に血が上ってくるのがわかる。
あわててそっぽを向く。
半泣きになる私。
ううう、どうしてこの人は恥ずかしいことを平気でするかな?
そんな気持ちを知ってか知らずか、アンリが声をかけてくる。
「よかったら果物もどう?一応俺が食べてみて平気だったやつだけ持ってきたんだけど」
「・・・ん、ちょうだい」
はい、と差し出してくれた果物を手だけ伸ばして受け取り、口に運ぶ。
あ、意外とおいしい。
「あ、食べ終わったらオアシスに行く?結構大きい泉だったし」
「泉?」
「そう、泉。水浴びとかもできそうだし、服も洗いなおせるんじゃないかな」
「いく」
乾いてるとはいえ、塩水をかぶったままだから体もちょっとかゆい感じだし、服のごわごわも取れるならいいかな?
「じゃ、食べ終わったら行こうか」
「うん(もぐもぐ)」
「・・・ミルってさ」
「何?」
「食べてるときって、返事が子供みたいだよね」
「う、うるさい!」
気にしてるんだから、ほっといてほしいなぁ。
・・・アンリの意地悪。
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「水浴びかぁ」
泉を目の前にして、私はつぶやいた。
周囲に木も多く、水量も豊富であるその泉は、本島であれば町が築かれるほどの豊かさだった。
こんなところで水浴びなんて、贅沢な気がした。
「さて、一泳ぎしますか」
そういって私の手を引くアンリ。
「ちょ、ちょっと待って。服着たままで?」
「そうだよ。服も体も塩が流せて一石二鳥だしね」
それもそうか。
つい、普通に水浴びすることを考えてしまっていた。
「あ、それとも俺の裸、見たいとか?」
「ばっ・・・そんなこと無いです!」
「いやいや、昨日俺がミルちゃんの裸見たから、代わりに見せろって言うのかと」
「言いませんー!」
恥ずかしいことを平気で口にするアンリ。
でも、軽口のようにさらっと言ってくれるおかげで、私の気持ちも軽くなる。
でも、この感じ、悪くないかも。
なんだか、楽しい。
・・・よし。
「そんなこという人には、こうです!」
私は足元の水をすくってアンリにかけた。
「うわっぷ!?や、やったなー!」
「キャーにげろー」
しばし、水辺の追いかけっこ。
追いつかれ、水を掛け合い。
水中でにらめっこしたり。
私たちは、おなかがすくまで暫し水とじゃれあっていた。
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